ナナメの関係で地域の子どもを育てるCASE08

「変化の時代に働く」ことを学ぶ
いきいきゲーム

―北上市では、2004年からウィル・シードのいきいきゲームを導入し、14年間で、のべ123校9701人の生徒が授業を受けています。どのような経緯で、いきいきゲームを導入されたのでしょうか。

石川:当時の商工課で、2001年から企業訪問を実施したとき、立地企業から「新卒社員など、若者の社会人的素養が低下し、働くことへの意識も低下している」という指摘をされるようになっていました。そして、立地企業の経営に大きく影響しているとも。そこで、2003年に「北上市工業振興計画」を作成するにあたり、「人材育成事業」として小中学生を対象にした「モノづくりへの興味」「起業意識の向上支援」に取り組むことを決めました。

その後、中国経済を視察して日系企業で働く中国の若者の必死さ・勤勉さを目の当たりにし「生きるために働く中国人に、日本の若者では勝てない」と率直に思いました。裕福になってきた日本の若者に「生きるために働くという意識を持たせるのは無理だ」とも感じました。

ではどうするのか。トヨタのカイゼンや日本のきめ細かいサービスは、世界から高く評価されています。そこで「日本人は創造性に富み新しいことを考えて工夫することに楽しみを覚える人種」だと結論づけ、「子ども創造塾事業」を立ち上げました。その事業の柱の1つが、「いきいきゲーム」です。

もし、夏休み中に行うと参加者は限られてしまう。北上の子どもたち全員に受けてもらうには、学校の授業として行えるプログラムが必要でした。学校向けのいきいきゲームは、まさにそこにマッチするものでした。

北上市商工部 企業立地課 課長 石川明広 氏
北上市商工部 企業立地課 課長 石川明広 氏

―北上市では、教育委員会ではなく、商工部がいきいきゲームを推進していることも特徴です。

石川:北上でのいきいきゲームは先ほど申し上げた理由で始まりましたが、将来社会で働くことの下地を作るという意味では、起業家育成や雇用対策を行っている商工部が中心となる方が長く続けられると判断し、私たちが担当することにしました。

奥山:面白いもので、北上市だと商工部が担当することを逆に疑問に思われないかもしれません。元々、工業集積でやってきた町なので起業家やモノづくりを支援するという風土があり、このような政策に住民の皆さんの理解もあります。

熱意で地域講師・地域サポーター、
導入校をあつめる

―北上市では、ウィル・シードから講師を派遣するのではなく、地域で講師・サポーターを務める「地域講師モデル」を採用されています。導入当初は、講師やサポーターを集めるのも大変だったのではないでしょうか。

石川:公募形式で集めたらいろんな方に来てもらえたとは思いますが、同時にどのように選抜するかという難しさもありました。そのため、私たちが地域講師を一本釣りする形で集めましたが、「頼まれたからやる」というより「積極的にやろう」としてくれる方々を意識的にお誘いしました。

それから授業を支援してくれるサポーターについて、当初は、授業を行う学校の保護者にお願いしていました。しかし、毎回、サポーターを集めるのにもなかなか苦労するという実情もありました。そんな中、ある学校の保護者の方々から、他校の時も手伝うよと言っていただき、今の「サポーター制度」を考えついたのです。今では十数人の方が、サポーターとして登録してくれています。

このような経緯があったので、いきいきゲームを使った授業を始めることで、ボランティアで「地域の子どもは、地域で育てる」という意識づけもできたとも思っています。そして初めて導入したあと、市広報やサポーターの口コミなどを利用して拡充を図ったり、年度末に関係者を集めて「ご苦労さん会」を実施し、また来年と締めくくるなどみんなで創りあげていきました。

―当初のご苦労もあって、現在では、北上市に16名の地域講師がいらっしゃいます。

奥山:専門学校の先生から地元企業の社長まで様々います。授業が平日にあるので、お仕事のある地域講師の方が予定を空けることは簡単ではありませんが、やっぱり子どもと触れ合う機会ということで楽しみにしている方は多い。ゲームや振り返りでの子どもたちの反応がいいんですよね。それに、同じ北上市内でも地区によって反応も違うので、そういう地域の特徴なども楽しまれているようです。

石川:あとから加わってもらった講師もいます。ある時、北上中学校で行った授業に、臨時で先生をしていた方がいました。そしてその後、講師育成をするという噂を聞いて、自ら立候補してくれたんです。もともと教員免許も持っていたので、心強いメンバーになりました。今でも、私たちと一緒に「積極的にやろう」という方は大歓迎です。

はじめるのも熱意であれば、
続けるのも熱意

―2017年度も多くの学校が手を挙げてくれていますが、自治体として上手くいっている秘訣などありますか。

奥山:秘訣は特にありません。毎年、小学校の6年生を対象に募集をかけて、学校側に手を挙げてもらいます。学校ですから年度内の行事を調整するのは厳しいのですが、先生方が面白いと思ってくださっているのが大きい。いきいきゲームを知らない担任の先生がいても、前にやったことのある他の先生が「やった方がいいよ」と教えてくれます。

それから、市内の2つの小学校から同じ中学校に行くことになるのですが、両校で親睦を深めるツールとして合同開催してところもあります。毎年、進学前にいきいきゲームをやって仲良くなろうという取り組みですね。

北上のいきいきゲームは、やっぱり先生方がやりたいと思わないと、手が挙がらない仕組みなので、ここまで続くのは先生方に効果を感じてもらえているからだと思います。もはやいきいきゲームは定番化しつつあり、私たちも期待されている感じすらあります。

北上市商工部 産業雇用支援課  主任 奥山浩樹 氏
北上市商工部 産業雇用支援課 主任 奥山浩樹 氏

―学校の先生たちは、例えばどのような効果を感じられているのでしょうか。

奥山:一番は、普段は見られないような子どもたちの姿が見られることです。例えば、日ごろは思い切って話に行くようなタイプではなかった子が、一所懸命交渉に行くようになるなど。ゲームでは、自分から動きださなければ何も起こらないので、全力で考えて、全力で動くようになるのでしょう。

それから、先生も毎年、いろんな生徒の動きやゲームの結果を見ているので、この学校で過去最高の得点が出たとか、はじめて見る動きをしていたなど、楽しんでいる面もあります。先生自身が楽しんでいるからこそ、続けられているのかもしれません。

石川:これまでに何度か地域の高校に出向くことがあり、その度に「小学校の時にいきいきゲームをやったこと覚えているか」と聞くと、結構、手が挙がるんです。こういう授業ってなかなかないですよね。すごく良い経験として覚えておいてもらえた、という手応えを個人的にも感じています。

―市役所の商工部のご担当者も、数年ごとにローテーションしますが、北上市は歴代の担当者が皆、この取り組みにとても熱心だと感じます。

奥山:そうですかね。もしそうだとしたら、北上市役所の雰囲気だと思います。北上市の商工の取り組みは独特というかスピード感がありますし、お役所的に決まりきったことをするのではなく、本当に実利があるかどうかを最優先に取り組んでいます。そういう考えが職員に受け継がれているのかもしれません。

その上で、どの担当者もいきいきゲームの行われる教室に足を運び、子どもたちの声や反応を目の当たりにしているし、先生とのコミュニケーションも密に取っています。地域講師、地域サポーター、学校の先生と同じように、行政の担当者自身が面白いと思っているというのが本当大きいのだと思います。

地域サポーターの声:北上信用金庫の千田氏

信用金庫にとって、いきいきゲームのサポーターは地域貢献の一環。求められれば断らない。何にいつ繋がってくるかわからないけど、信用金庫の人と一緒に学んだな、というのがもし残っていれば、将来、入行したいということがあるかもしれない。経済の流れが分かったという子もいたし、社会の仕組みをわかるいい機会になると思います。
いきいきゲームのサポーターは、仕事のある平日で実施ですが、楽しみにしていました。実は、私はこの地区の出身。いわさき地区は行事や祭りが多いし鬼剣舞という郷土芸能もある。それに「子育ては地域でやれ」という風習もあるので、ここの子どもはみんな知っています。普段は、こうやって学校内で子どもたちと接する機会はないので、別に先生になりたいと思っていたわけではないけど、学校の中でも生徒と関われるというのは特別な感じがしますね。

地域の子どもを育てる
ナナメの関係

―北上市からのご紹介で、他の地域でもいきいきゲームを導入いただくことも多くあります。あらためて、いきいきゲームへの期待などを教えていただけますか。

石川:「日本は資源のない国、勝負できるのは人材」とよく言われます。地域も同じで、都会に比べると利便性もインフラも、すべてが大変な環境。そして、その地域の未来は、地域の子どもがカギをにぎる。だからこそ、私はキャリア教育やら起業教育やら色々な本を読み漁りました。すると、子どもたちが普段かかわっている大人は先生や親ですが、ここに「ナナメの関係の人」が入ると良いそうだということが分かってきた。

親でも教師でもない第三者と子どもとの新しい関係、つまり「ナナメの関係」をつくることが社会全体で子どもを育て守るために大切。地域社会と協同し、学校内外で子どもが多くの大人と接する機会を増やすことが重要だと思います。私たちが「ナナメの関係の大人」として、普段やったことのない授業を通して色々な可能性を示唆する。そのことで、子どもたちもまた一皮むけるに違いない、そう考えています。

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