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OJTトレーナーの「振り返り方」 第5話

OJTは単なるコミュニケーションではなく、その目的はあくまで育成であるが故に、トレーナーは様々なジレンマに向き合うことになります。本コラムでは新人トレーナーが葛藤に遭遇し、乗り越え、成長していく一年間のストーリーとしてOJTに対するヒントをまとめました。

ウィル・シードがOJTトレーナーに研修を行う中、ご質問が多い項目として「振り返る」があります。昨今では仕事内容や職場環境に多様性が生じ、新入社員の仕事も不確実性が増してます。新入社員であっても、自ら考えて経験学習サイクルを回せることが求められるようになりました。本コラムを通じて、新入社員の成長を促す「振り返り方」について考えていきたいと思います。

5ヶ月目:行動を変える問い

【登場人物】
中田稔(25):総合電機メーカーの商品企画部に勤務。入社4年目。佑介のOJTトレーナー
佐藤佑介(24):商品企画部に配属された新入社員。大学院卒
大田俊彦(29):商品開発部に勤務。主任

【ストーリー】
夏休みが終わって新学期が始まり、通勤・通学電車が以前のように混むようになった。

佑介が入社して5か月。稔は、OJTトレーナーとして日々育成に取り組んでいるが、時々見られる佑介の反抗的な態度が気になっている。今日もそう感じることがあった。

「佐藤さん、課長が話していた『商品企画に役立つ心理学講座』、明日行きますよね?」

「いいえ…。明後日提出しなければいけない資料の作成がまだ終わっていなくて。それに、心理学のことは本を読めばわかると思うので」

「そ、そっか…。ヒット商品が生まれた背景とか、ユーザーの購買心理とか、この講座では最新の事例をいろいろ聞くことができるようだけど…」

「ユーザーの購買心理であれば、消費者行動論の本を読めばいいんじゃないですか? ネットにも事例は載っていますし」

(ああ言えば、こう言う…)

稔は深呼吸をして言葉を続けた。

「もちろん本やネットで得られる情報もあるけれど、講座に参加したからこそ聞ける話もあるし、参加者同士のネットワークもできますよ。何よりそこで得た生の情報や学びは、部や社の共有財産になるんです。佐藤さんが行けないんだったら、ちゃんと課長に伝えてもらえますか?」

「はい…」

佑介が立ち去った後、稔はふぅっとため息をついた。佑介の育成に対する負担感はかなり高まっていた。

(今日はビールでも買って、早く帰ろう…)

稔は仕事を終えて家へ帰ると、スエットに着替えた。プシュッと缶を開け、一口飲んだ。

「はあ、疲れた~」

大きく伸びをした時に、棚の一番下に置いてあるレゴが目に入った。

(子どもの頃、よく遊んだな…)

稔はレゴを出し、思うままに作り始めた。まずは車を、続いて家を作った。働く人のフィギュアを置き始めたところで、ふと以前受講した研修を思い出した。

(そう言えば、OJTトレーナー研修で「周りを巻き込む」って言っていたな…)

稔は働く人のフィギュアで、佑介を取り巻く人間模様を表してみた。

(これが佐藤さんで、これが僕、これが阿部課長。他に誰がいるかな…)

稔は医者や看護師のフィギュアを見た時に、もう少し佑介をサポートしてくれる人が必要かもしれないと感じた。

(そうだ! 商品開発の大田主任はどうだろう。佐藤さんはもともと商品開発希望だったようだし、大田主任は佐藤さんと同じN大学院出身。時短調理器具の開発で「家電プレミア大賞」を受賞した人だ。佐藤さんにとって、いい刺激になるかもしれない)

翌日、稔は大田主任のところへ行き、佑介のことを相談した。大田主任は「何かあれば、いつでも協力しますよ」と言ってくれた。

金曜日――。

稔は、佑介とKPT法で振り返りを行い、「TRY」のところで提案をした。

「佐藤さんの企画力をさらにアップするのに、他部署の人ともう少し話す機会があると良いと思っているのだけど、例えば、商品開発の人はどうかな?」

「えっ! ぜひ、商品開発の人とじっくり話してみたいです」

「了解です。じゃあ、大田主任はどうかな? 大田さんは物静かで、いろいろな事から学ぶ姿勢を持っている人だよ」

「大田さんですか! ぜひ一度話してみたいと思っていたんです」

佑介の顔がぱっと明るくなった。

「では、今度の振り返りの時間に大田さんに来ていただけるか、聞いてみますね」

「ぜひ、お願いします」

(提案してみて良かった…)

稔は心の中でつぶやいた。

翌週の金曜日――。

大田主任が、振り返りの時間に来てくれた。開発裏話を気さくに話してくれる大田主任の

話を、佑介は目を輝かせて楽しそうに聞いていた。

「ところで佐藤さん、商品企画は楽しいですか?」

「えっ?」

「商品企画にいたからこそ学べることって、この先どこでどう活かせそう? いつか他の部

署に行った時、君は何をお土産に持っていけるのかな?」

「…」

佑介は言葉が出なくなった。稔も黙っていた。

30分ほど3人で話し、大田主任は先に商品開発部へ戻っていった。

「佐藤さん、大田主任と話してみて、どうでしたか?」

「そうですね…。他の部の人と話すと、視野が拡がりますね」

「それは良かった。じゃ、これで今日の振り返りは終わりにしましょうか」

「あ、中田さん…」

「何?」

「いまさらですが…課長が勧めて下さった心理学講座、また機会があったら行っても良いですか? 人の話を聞くからこそ学べることもあると思ったので…」

「もちろん」

その言葉を聞いて、稔は微笑んだ。
<終>

6ヶ月目に続く

【稔のOJTメモ】
・ 自分とは違う視点を持っている人の問いが効く

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