CASE05チーム医療を学ぶ
カリキュラム作りへの挑戦
~医療イノベーションの実現に向けて~

三重大学・
鈴鹿医療科学大学Mie Univ・Suzuka Univ Med Sci

三重大学・鈴鹿医療科学大学

取材日:2018年8月

「慢性疼痛」は、
社会に応えなければいけない
課題のひとつ

―「地域総活躍社会のための慢性疼痛医療者育成事業」と銘打ったプロジェクトですが、どのような取り組みなのでしょうか。

丸山:この取り組みは、文部科学省の「平成28年度課題解決型高度医療人材養成プログラム」のテーマの1つ「慢性の痛みに関する領域」で選定されている事業です。社会のニーズがあり、国としてこれから対応していかなければいけないと定められたテーマといえます。

「慢性の痛み」とは、大体3~6ケ月以上続く痛みのことです。例えば、包丁の切り傷だと1週間くらいで治ります。最初の2,3日は痛いが、1週間もすれば痛みもだいぶ和らぎ、1ヶ月もすると大体よくなり、3ヶ月までにはほぼ元に戻る。しかし治るであろうと予想される期間を超えても痛みが残ることがあります。首、肩、腰、膝などの慢性的な中等度以上の強い痛みに苦しんでいる方が、国民の15%くらいいるともいわれています。

―この慢性疼痛には、多職種間連携医療、チーム医療が有効なのでしょうか。

丸山:そもそも痛みとは、例えば腰が痛い・肩が痛いという感覚です。痛みの場所がわかっていて「痛い」と感じますが、実は同時に不安やイライラ感、怖れ、心配など、不快感を湧き立たせる脳の場所も同時に活性化しています。つまり、この感覚と情動の2つが統合して痛みという知覚となっているのです。

一般的には痛い場所を処置することによって痛みを止めるという考えが中心ですが、不快感という脳や心の問題で痛いという人もいます。「慢性の痛み」に対しては、すでに鍼灸師や理学療法士、管理栄養士、臨床心理士などそれぞれの職種が、それぞれの専門性を発揮しており、現場でも医師のみでは十分ではないのではないかと感じています。患者さんも含めて世の中もそう感じているのではないでしょうか。

丸山 一男 氏(三重大学大学院 医学系研究科 麻酔集中治療学 教授)
丸山 一男 氏(三重大学大学院 医学系研究科 麻酔集中治療学 教授)

そこで手術や薬で治すだけではなく、各職種の方の力を合わせて治すという発想が必要になってきます。
まさに患者さんを中心に、様々な職種の医療者がチームとして取り組む必要があるのです。

学ぶ側も多職種、教える側も多職種

体験型のワークショップ風景

―このプロジェクトは、三重大学と鈴鹿医療科学大学が合同で行うことが特徴的です。

丸山:多職種間連携を学ぶために、医学部で医師と看護師を養成している三重大学と、保健衛生学部・医用工学部・薬学部・看護学部で多職種をほぼ網羅する医療系総合大学の鈴鹿医療科学大学が一緒にカリキュラムを作り、学生が同じ教室で学ぶプログラムを構築しようと考えました。

1年目の秋に講義形式で痛みの仕組みや医薬、漢方、リハビリテーション、鍼灸、心の問題への対峙方法など各職種の人がどういうアプローチをできるかという理論を学びます。そして2年目に、希望する学生が一堂に会して3日間で体験型のワークショップを行います。専門課程に入る前に行うので職種間の垣根も低いですし、活発にコミュニケーションできるのではないかという期待もあります。

―そのほか、このカリキュラムにはどのような特徴があるのでしょうか。

聴く学生も多職種で、講義する先生側も多職種があることも特徴です。学生は色んな職種の名前を聞いたことがあっても、実際にどういったことをできるのか、特に慢性疼痛に対して具体的に何をできるのか、知りません。広く他の職種を知れることは新しい試みです。

学部・学科によっては他の職種について学ぶ機会もあるかもしれませんが、慢性疼痛という解くべき課題を特化しておらず、概論に留まるのが現状です。その点、これほど多職種の先生が慢性疼痛というテーマに絞って講義を受け持つことも珍しいでしょう。

この「学ぶ側も多職種、教える側も多職種」というカリキュラムを実現させるために、両校を遠隔回線でつなぎ、同じ時間に同じ教室(同じスクリーン)を見て授業を進められる遠隔講義の仕組みも作りました。

丸山氏のインタビュー風景

―先日行われた合同ワークショップには、夏季休暇中にもかかわらず、多くの学生が積極的に参加されていました。

島岡:3日間にわたる多職種の体験型ワークショップも特徴の1つです。2年生を対象にしているため、参加者はほとんど医療的な専門知識がありません。そのため大学の4年間・6年間で学ぶ「慢性の痛みに関するチーム医療」のエッセンスを集中的に体験し、「何が問題点か」がわかってくるところまでを、効率的に学べる内容にしました。

丸山:1日目は実習を通じて、鍼灸やストレッチ、漢方など東洋医学のアプローチを学びます。一市民として聞いたことはあっても、実際の医療の中でどのような役割を果たしているかを知るいい機会です。漢方の草を煎じてみたり、鍼灸で使う鍼やもぐさを触ってみたり、東洋医学的な診察の方法である舌診や腹診も体験します。

2日目・3日目には、チーム医療の体験です。専門職の前に人間としていかにチームの機能を最大限発揮するか、チームダイナミクスを生み出すかが重要。ひとりでは発想・解決できない難しい問題についてみんなで向き合う方法を学び、その上で医療系の専門職チームとして痛みについてどういう風にアプローチするのか、を話し合います。

医療イノベーションに
繋がることをやりたい

―チーム医療を学ぶセッションでは、企業向けのプログラムも取り入れています。どのような狙いがあったのでしょうか。

丸山:医療系に進む学生に企業向けの研修を受ける人はほとんどいません。企業で働くことになる中学や高校の友人と同じように、チーム・組織で結果を出していくという研修を受けることは、今後様々な患者さんを診る上でいい体験です。本物の医療者になる前に、早いうちにこういうことをやっておいた方がいいと思います。

島岡 要 氏(三重大学大学院医学系研究科 分子病態学 教授)
島岡 要 氏(三重大学大学院医学系研究科 分子病態学 教授)

島岡:少し俯瞰的な視点からの話になりますが、医療イノベーションに繋がることをやりたいと考えているのです。医療イノベーションというと多くの人は、最新の薬やiPS細胞など医療技術革新を想像するでしょう。確かにそれも医療イノベーションです。しかしそれとは別にもう1つ、医療イノベーションの目指す方向が、最新医学を駆使しても簡単には治せない病気をもつ患者さんに対する医療サービスの開発であり、慢性疼痛はその代表。いくら新薬やiPS細胞を研究してもこの分野で医療イノベーションを起こすことは簡単ではありません。

それでは慢性疼痛医療での医療イノベーションの鍵とは何か。私は患者さんの納得感だと思います。患者さんの納得感をどう高めるか、そのアプローチには多くの選択肢があると思われますが、チーム医療はかなり有効なアプローチでしょう。チームで働き医療イノベーションを起こすことについて、従来の医療者教育の中にはノウハウがないので、イノベーションに繋がる企業でのチームワークの知見を導入しようと考えました。

チーム医療を学ぶセッション風景

―今回の対象は、1年生・2年生という若い学生です。卒業前の学生を対象にしたことも、医療イノベーションと関係していますか。

島岡:多職種間連携を上手くやるための鍵は、コミュニティを作ること。例えば、医師には医師のコミュニティというのがたくさんあり、困ったことがあったら電話やメールで相談したり助け合ったりして、結束を固めることに繋がっている。
残念ながら職種連携がうまくいかないのは、多職種のコミュニティというのがなく、各専門職種の縦割りコミュニティになってしまっているからでしょう。

では多職種のコミュニティをどうやってつくるのか。コミュニティをトップダウンでつくろうとしても難しいことは過去数十年の数多くの社会実験でわかっている。上手くいくコミュニティはボトムアップで作らなければなりません。
ボトムアップで作ろうとすれば若いうちにお互いを知ることが大切。同じ体験をしてSNSなどお互いの連絡先を交換して繋がりができれば、将来の多職種間連携に関係するコミュニティのシード(種)になります。そういう意味でなるべく早くからやりたいと考えました。

多職種間連携を学ぶモデルを全国へ

―今後、このカリキュラムをどのように発展させていくのでしょうか。

島岡:三重大学と鈴鹿医療科学大学の両学長名での修了証を出す仕掛けがあります。多職種でコミュニケーションすることの重要性をわかった卒業生が増えていくことが重要。修了証を手にしたら、何か待遇面で有利になるということはすぐにはないかもしれませんが、ボトムアップで慢性疼痛に興味を持つ人のコミュニティをつくることに向けて中・長期的には大きなインパクトがあるはずです。

チーム医療を学ぶセッション風景

いまだかつて、医療の専門性を超えて持続可能で生産的なコミュニティの広がりができたことはありません。企業人のレベルでは成功例が散見されるかもしれませんが、医療人のレベルは全体的に保守的だったり、縦割り意識も強いためなかなかコミュニティが広がらず、納得感を生む医療イノベーションも起こりにくい。

いまの時代の若い人たちは、高いオープンマインドネスを持っているので、多職種間連携に向いている。しかし「若い人、頑張れ」と口でいうだけではダメで、年寄りの人が仕掛けを作っていかないといけない。この修了証もコミュニティづくりにつなげていきたいのです。

丸山:三重大学の場合、近くに医療系総合大学である鈴鹿医療科学大学がありますので、卒業前に多職種を学ぶ環境をつくれました。
日本全国、同じような環境にある地域も結構あるはずです。各地域でも連携して慢性疼痛についての遠隔授業を用いた共通のカリキュラムを開設できれば、慢性疼痛医療に関心を持つ学生がもっと増える可能性があります。この三重大と鈴鹿医療科学大との合同事業がそのモデルになるかもしれません。

島岡氏のインタビュー風景

正解のない問題に対してチームで挑むということは、ビジネス界も医療界も変わらないと改めて感じました。三重大学の医学部と鈴鹿医療科学大学は、先進的なカリキュラムに挑むことでも知られています。今回も大学や学部という枠を開き企業のプログラムを取り入れるなど、プロジェクト自体を多職種間連携で進める姿勢にも学ぶことが多くあるのではないでしょうか。

今回は、代表して丸山氏・島岡氏にお話を伺いました。
丸山 一男 氏(三重大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療学 教授)
鎮西 康雄 氏(鈴鹿医療科学大学 副学長)
大井 一弥 氏(鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科 教授)
島岡 要 氏(三重大学大学院医学系研究科 分子病態学 教授)

慢性疼痛チーム医療者養成プログラム
https://www.hosp.mie-u.ac.jp/chrpain/

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