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フォーラム 2018

ゲリラ人事のすゝめ
~ 個人の思いから始める人事施策、
ありやなしや ~

入山章栄 氏(早稲田大学大学院 早稲田ビジネススクール 准教授)

「イノベーション=戦略=人事」
この式から見えること

今回、フォーラム全体のテーマに掲げた「ゲリラ人事」、皆さんにとっては耳慣れない言葉だと思います。実はこれは私が考えた造語で、「経営層の十分な理解やコミットメントを得られなくても、人事がイチ個人の想いで、施策を勝手に、ゲリラ的に始めてしまう」ことを指しています。

今の日本企業にこそ、この「ゲリラ人事」が大事ではないでしょうか。「ゲリラ」という表現が適切かどうかは一旦置いておいて、単純・拙速・未確定のままでもゲリラ的に人事施策を仕掛ける。その姿勢がないと、日本企業は現代で取り残されるかもしれません。

なぜ今、ゲリラ人事なのか。私が今、日本にもっとも足りないと思うのは「人事の戦略化」です。会社は人の集合体です。良い製品・サービスの背景には、人が意思を持って動いている。だからこそ、最近は「戦略人事」の考えが求められていますし、本来は、経営戦略の最上レイヤーから人事がCEOと話し合って、上流のビジョンや方向性を人事施策に落とし込むべきでしょう。つまり、「戦略=人事」になるべきなのです。しかし、ほとんどの日本企業ではこのイコール関係が成り立っていない。

さらに知ってもらいたいのは、イコールの関係がイノベーションにも繋がっていることです。今の時代、大企業における戦略とは「イノベーション」です。つまり、「イノベーション=戦略=人事」となるのです。

ここでいうイノベーションとは、たとえわずかでも会社が変化や新しいことを始めて前進すること。新規事業の立ち上げ、新商品の企画、日々の業務改善。これらすべてをイノベーションと捉えてください。そうなると、みなさんにも身近なはずです。

人間の変化がイノベーションを生むが
日本の組織では変化しにくい

入山章栄 氏(早稲田大学大学院 早稲田ビジネススクール 准教授)
早稲田大学大学院 早稲田ビジネススクール 准教授 入山章栄 氏

なぜ「イノベーション=戦略」なのか。現代は、圧倒的に変化や競争が激しくなりました。結果、これまでになかった異業種との競争、中国やインドといったグローバル間の競争にも勝つ必要がある。加えて、AIやIoTも進化し、安泰と思われた業界が突然揺らぐケースも見られます。その中で変化をせずに停滞していては、やがて企業が無くなってしまう。だからこそ「イノベーション=戦略」なのです。

問題は、どう会社にイノベーションを起こすかということ。「イノベーション=戦略=人事」ということは、人間が変化して革新を起こさないといけない。それがなければ、会社が倒れる時代なのです。おそらく、ここにいる方もその肌感覚は誰もが持っている。しかし、実際は前に進めない日本企業がほとんどではないでしょうか。

ここで一度、イノベーションの本質を考えてみましょう。イノベーションの研究は進んでいますが、根本原理は昔から変わりません。経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが1930年代に提唱した「知と知の組み合わせ」です。今ある既存の知と、別の今ある既存の知を新しく組み合わせる。これがイノベーションの原点。まったくのゼロから生み出すことではないのです。

とはいえ、知の組み合わせのバリエーションには限界があります。人間は、どうしても個人が認知している事象の中でしか組み合わせられないからです。

実は、ここで日本企業の持つ大きな課題にぶち当たります。終身雇用の制度がまだ残る日本では、同じ企業に長く勤務するケースが多い。あるいは、転職したとしても、同じ業界・職種で働き続ける人が一般的。さらに、ある研究では「人事は、心理的に自分と似ている人を採用する傾向にある」という結果もあるといいます。

これが大きな問題。つまり日本の企業では、ある種の共通項を持った同質な人々が、同じ場所、同じ業界に終身雇用で長くいるのです。となると、そこで可能な知と知の組み合わせは出尽くしてしまう。だからこそ、その状況を打開しないと、日本企業はイノベーションを生み出せない状況に陥ってしまうのです。

グローバル企業の人事施策は
知の探索のためにある

では、どう打開するか。まずは、社員一人ひとりが自分からなるべく離れた、遠くの知を幅広く探索すること、そしてその知を、自分の持つ知と組み合わせることです。

それを担うのが、会社の人事や戦略。これらは、知の探索を促進するためにあるべきです。オープンイノベーションはその代表ですし、ロート製薬さんが副業を解禁したのも同じです。副業では、本業と同じことができないので、自然と会社では得られない知見や人脈が手に入る。それを本業に生かすことがロート製薬さんの副業の狙いの一つなのです。

入山章栄 氏(早稲田大学大学院 早稲田ビジネススクール 准教授)

欧米のグローバル企業を考えてください。そこには、知の探索をできる仕組みがあります。ダイバーシティは、多様な人材を組織内に揃え、自然に自分から遠い知を探索できます。中途採用が多いのも、さまざまなキャリアの持ち主が集まるため、それだけで遠くの知の探索になるのです。

日本ではどうでしょうか。多くの組織はその「逆」です。新卒一括採用、終身雇用は依然根強く、いろんな企業の採用状況を聞いても、同質人材を取る企業が多い。これではキャリア、タレント、知のバリエーションは少ない。知の探索が難しいので、イノベーションが起きにくくなるのです。

大企業で増える「ゲリラ人事」
なぜ独断で進めることがアリなのか

日本企業にとって、この状況は大きな危機。だからこそ、「イノベーション=戦略=人事」を自覚して、人事が経営者やCEOとこの課題を共有し、戦略的な人事を進めなければなりません。ただ、残念なことに日本の既存企業の経営者の多くが、まだこの課題を感じていません。あるいは感じていても、動けていない。すると、人事がいくら提案しても、上層部の理解が得られず施策は進まない。

そこで「ゲリラ人事」の登場です。経営層の十分な理解やサポートがなくても、会社をよくするために人事が個人で動いてしまう。グローバルの争いに負けないためには、これが必要なのです。

今の時代、イノベーションが起きないのは致命傷。だからこそ、イノベーションのための人事が必要です。でも、旧来の日本の雇用システムはそれに逆行している。加えて、経営層と人事がその点でコミットできない。人事にとっては打つ手なしの状況が日本でたくさん起きています。では、諦めてよいのか。そこで停滞すれば、経営の危機につながるかもしれません。それなら、ゲリラ的に人事施策を敢行するのも一つの手段。これこそが、日本にゲリラ人事が必要だと思う理由なのです。

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