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企業で越境学習を企画する際に必要なこととは?

2022年10月14日(金)、逢坂浩一郎氏(NECマネジメントパートナー株式会社)をお招きし、セミナー「もっと知りたい!越境学習」をオンラインにて開催しました。当日は企業内人事・教育に携わるみなさまが参加し、企画者としての難しさや押さえるべきポイントについて共に考えました。 本レポートでは、逢坂氏と参加されたみなさまとの対話の内容を抜粋してご紹介します。

| プロローグ/越境型プログラムに立ちはだかる「4つの壁」

流行になりつつある越境学習ですが、まだまだハードルが高いことも事実です。
私自身の経験も踏まえながら、まずは「4つの壁」について、簡単に解説します。

1つめは「企画フェーズ」。いわば【幹部説得の壁】です。「目的は何か?」「何故、越境型プログラムでなければならないのか?」「どのような越境をさせるのか?」越境型プログラムの本質的価値を理解し、その上で、何のために使うのか。これを担当者の方がきちんと言語化できなければなりません。

次が「開発・調達フェーズ」です。プログラムを自社で開発するのか、それとも、ベンダーさんから調達するのかといったことです。初めて導入する場合はベンダーさんから調達し試してみるのがおすすめですが、昨今は実に多様なプログラムが出回っています。それゆえにどれが最適なのかがわからない。【目利きの壁】が立ちはだかるわけです。

ここまでを乗り越えてようやく「実施・運営フェーズ」に至るのですが、今度は「高いコストを払ったのだから、成長は最大化させるべし」というプレッシャーがあります。越境型プログラムで学びを深めて行動変容を促し、成長を加速させたり、成長させ続けるには、人事・教育担当者の創意工夫が問われるのです。これが【成長最大化の壁】です。

最後が「成果検証フェーズ」です。越境型プログラムは、目に見える成長があったり、明日の飯の種がすぐに生まれたりといったタイプの研修ではありません。【成長可視化の壁】をクリアできる効果の測定方法を確立させることで、プログラムを継続実施するための説得材料になったり、幹部への理解につながったりと、次回実施への道も開けてきます。

「4つの壁」については、日頃から人事・教育ご担当者も感じていることでしょう。それぞれについて深掘りしながら、みなさんが直面している疑問を解決していきたいと思っています。

| 企画フェーズ/「プログラムの目的を定める」

「自社に越境学習を取り入れたい」と考えたとしても、会社の規模が大きかったり、社員が多かったりすると、どのような形で企画すればよいかと悩まれる人事・教育ご担当者は多いのではないでしょうか。

しかし、越境学習はあくまでも手段です。自社の課題、現場の(顕在化した/潜在的な)ニーズがあってはじめて導入を検討するのであって、「とりあえず越境」と考えるのは誤りです。

たしかに、越境型プログラムの特徴として、多様な目的に対応できる(できてしまう)ことがありますが、あれもこれもと盛り込んでしまうとぼやけてしまうため、企画者側で導入の目的を明確に定めておくことは重要です。プログラムは「何のために使うか?」を軸にして設計する必要がありますし、そうすれば、おのずと受講させるべき対象者などは絞られてくるものです。

NECの場合、基本的にはリーダーシップ開発として活用していますが、職場の負担感なども勘案し「インターン」「プロジェクト」「ジャーニー」「セミナー」という4タイプの越境学習を展開しており、それぞれでプログラムの目的・位置づけは少しずつ異なります。

主に担当クラスや主任クラスを対象にした「インターン」は、次世代リーダーとしての“覚醒”を目的とし、NPOやソーシャル・スタートアップ企業にコミットし、事業課題解決や新規事業創出に取り組みます。こちらは、若手・中堅層への自ら手を挙げチャレンジする機会の提供という色の濃いプログラムとなっています。

ただし、「インターン」は高コストであり送り出せる人数が限られます。また、現在の職場を長期間離れることが難しい者も多いため、一部工数で取り組める「プロジェクト」、「ジャーニー」も提供しています。その一方、越境型プログラムのすそ野を広げ、全社員を対象としているのが「セミナー」です。社会課題解決への共感や自己理解の機会を提供するといった、比較的ライトな施策となっています。

| 開発・調達フェーズ/「プログラムは、いかに構築していけばいいのか?」

越境のレベル感について、異業種と交流して他企業と一緒に何かをしたいということであれば、企業間の人事のネットワークがあるかと思うので、そこを活用すれば内製で開発ができると思います。

ただし、例えば社会課題の最前線のような、現在のビジネスから距離感のある越境を実施しようとする場合、そちらへのコネクションをどれだけ自社で持っているかがカギとなります。

NECのCSR部門はプロボノなどを先駆者的にやっており、それを辿ってソーシャル領域の若手社会起業家の方を紹介してもらったこともありましたが、内製で開発には至りませんでした。自分たちがつながりたい世界にコネクションをたくさん持っていらっしゃるベンダーさんやNPOと組んで共同開発する、あるいは、ベンダーさんがオープンでやっているプログラムに人を送り出すほうが取っかかりやすいと思っています。

では、ベンダーさんをどのように選ぶのか。私はベンダーさんのことを「共創パートナー」と呼ばせていただいていますが、手探りで越境型プログラムの開発に取り掛かり始めた当時、トータルで30社以上にアプローチしました。そのなかで「ここなら安心してうちの社員を送り出せる」と感じたベンダーさんは、5~6社ほどしかありませんでした。今年度の企画ですと、4社くらいとしか組んでいません。広げすぎると諸々のコストかかってくるという側面もありますが、本当に信頼できるパートナーさんとだけ、ご一緒させていただいています。

各社が提供するプログラムはさまざまありますが、「仕立ての良さ」は一つのポイントとなります。良いプログラムには「自分の常識や暗黙の前提が通用しない〈異質さ・多様さ〉をはらんでいる」「一次情報としての圧倒されるような体感を得られる〈困っている“現場”〉に触れることができる」「刺激・触発・憧れを生むような〈志高いリーダー〉がいる」といった良質な越境経験となる要素が含まれています。また、のちほど説明しますが、事前~事後のサポートの有無、成長度評価の仕組みを持っているか、などいくつものチェックポイントがあります。

ただ、私が最も大切だと思っていることが、そのプログラムを提供するベンダーさんの担当者の熱量です。

本当に良い越境型プログラムをつくろうとすると、細部に至るまで工夫を仕込んでいかなければなりません。きめ細かに受講者の様子を見つめ、それに応じて柔軟にプログラムの編成を変える必要もあります。そうしたことをいとわない方と組むのが一番です。

| 実施・運営フェーズ/「成長を加速する・加速させ続けるキーマンは〈上司〉」

越境型プログラムの効果を最大限に引き出すには、事前~越境中~事後のフォローアップが欠かせません。どのような工夫をすべきかについて、考えていきましょう。

まずは事前。受講者本人にきちんとした動機づけを行うとともに、自分の強み弱みなどをきちんと自覚してもらい成長目標を立てるといった「レディネス」を醸成しておく必要があります。そして、事後にはきちんとその「振り返り」を行う。ここまでは通常の研修でもよく行う建付けだと思います。

NECの場合、越境型のプログラムに関しては、越境中から事後にかけて「伴走」というサービスをつけました。いわばメンターやコーチのようなもので、定期的に対話を重ねながら受講者本人の気づきを促す役割を果たしてくれます。プログラム終了後も3カ月間ほど継続して伴走してもらい、行動変容を習慣化させる役割も果たしてもらっています。

また、本人の意思や姿勢だけでなく、事前から事後に至るまで、上司の巻き込みも重視しています。具体的には、上司には受講者と一緒に事前のオリエンテーションに同席してもらい、受講者とのペアワークをしてもらい「何を期待していて、どのような成長を望んでいるのか」といったことを具体的にあげてもらって、受講者本人の思いと突き合わせるといったことを丁寧にやっています。

もう一つ、越境後の成長後を止めないためにも、上司の関与は欠かせません。「越境学習者は二度死ぬ」という言葉もあるように、越境者は自分の職場に戻ったとき、逆カルチャーショックを受けて周囲から浮いてしまうことがあります。越境中の学びを実践することが奨励されたり、賞賛されたりする環境がなければ、改めて職場で頑張ることができません。実践の障壁を取り払う上でキーとなるのが上司なのです。

| 成果検証フェーズ/「越境の効果を測定するには?」

越境学習は学術的にも比較的新しい分野ということもあり、汎用的な効果測定方法があるわけではありません。プログラム終了後のアセスメントや独自の成長度評価ツールを用意しているベンダーさんもいますが、受講者本人のアンケートコメントのみにとどまるプログラムもあります。何がしかの視点で定量的なものをきちんと取りたいのであれば、プログラムを検討する際に見極めが必要です。

NECの場合を例にあげて紹介しますと、「この経験をさせたら、このように成長するのではないか」といった成長仮説を立て、それを検証するような150問ぐらいの独自のアセスメントをつくり、事前・事後の2回受講者に実施いただき、そのスコアの変化を確認しました。さらにこの150問を統計的な解析により取捨選択し、最終的には100問程度を大きく9つに束ねたかたちでレポートを作成しました。

束ねるとバランス良くスコアが上がって見えるのですが、個人ベースになると、実にさまざまです。それぞれの人が持っている素養が違いますから、同じ経験を与えても、どこに響いたかが違うからです。スコアの伸びに偏りがあったり、ギザギザしたり、ときにはへこんで終わることもあります。ちなみにスコアが下がった部分があった場合でも、必ずしも失敗ではありません。例えば、「視座が高いつもりでいたけれど、全然できていなかった」と自分で気づき、課題を認識した状態になったと解釈できる場合もあるからです。

アセスメントの解釈については、その人に寄り添う地道な積み重ねが重要だったりします。その人の背景に入り込むからこそ理解できることもあるので、越境者の週報や月報にも目を通していますし、事前のオリエンテーションや事後のフォローアップセッションでの発言などもメモしています。そのうえでアンケート結果を見たりすると「ここが下がり、ここが上がったのは、あの件を経て気づいたということなんだな」とか、「ああ、ここに効果が出ているな」と、見えてきたりもする。ただし、私の場合は慣れもあってできていますが、これからやろうとすると、コスト高になってしまうことは事実だと思います。バランスを見ながら取り組んでもらえたらと思っています。

もちろん、「有意義な経験になりましたか?」「行動は変化しましたか?」といったような、よくあるアンケートも取っています。ただし、それだけだと越境の効果を説得する材料になりづらい。それを解決するうえでも、アセスメントは有用だと思っています。

| エピローグ/越境学習は、その人のターニングポイントとなり得る

越境型プログラムを企画・運用するにあたって、なかなか一筋縄ではいかないところもあると思います。しかし、越境型プログラムは従来タイプの研修とは全く違った種類の経験と刺激を受講者に与えることができ、それは受講者のターニングポイントになる可能性を秘めています。まさに、「一皮むける契機」になりうるのが越境学習だと信じています。越境型プログラムを人材開発のメイン手法にする必要はありません。ただ、越境型プログラムという選択肢を持っておくことは非常に有益だと思います。

余談になりますが、越境学習界隈には熱量の高い方が多いのです。例えば、成し遂げたい未来の姿や目標を持つベンダーの方々と熱く語り合っているうちに、なんだかこちらもほだされてしまう。私が「越境沼」にはまったきっかけの一つに、こうした方々との出会いがありました。今では、お付き合いのあるベンダーの方々は「越境という素晴らしいものを世に広めていく同志」だと思っています。

そして、越境の機会を取り入れようと奮闘している各社の人事・教育のご担当者のことも、私は「同志」だと思っています。これからも一緒に闘っていきましょう。


ゲストスピーカー 逢坂浩一郎氏

NECマネジメントパートナー株式会社 人材開発サービス事業部 マネージャー。2000年NEC入社。以来、人事部門一筋。複数の事業部門人事を担当したのち、2011年より人材開発担当として、研究開発部門でのタレントマネジメントやサクセションプランニングに携わる。2014年にNECマネジメントパートナー社へ移り、幹部人材育成をはじめとした選抜型研修プログラムの企画・運営を手がける。2018年、「社会課題の現場への越境」をコンセプトとした“社会課題体感型人材開発プログラム”を立ち上げ。以降、越境学習モデルを用いた次世代リーダー育成研修の企画・開発・運営に注力している。

 

セミナー後記/株式会社ウィル・シード ジェネレーター 中川孝晃

ベンダーである我々から「越境型プログラムをやりましょう」と語ったところで、みなさまの思いに沿えていなければ、当然のことながら最終的には形になりません。
私たちウィル・シードがこうしたプログラムを提供できているのも、熱い思いを持つパートナー企業のご担当者さまとの出会いがあってこそだったと、あらためて感じられたセミナーとなりました。
逢坂さんのお言葉をお借りするなら、今後もみなさまの「同志」として、走り続けていきたいと思っています。

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