人材育成に役立つ情報がたくさんCOLUMN

NRIでの人的資本の拡充を目指した越境学習活用の取り組み

越境学習を成功に導くには? 推進するうえでの難しさは? 株式会社野村総合研究所の事例から、現場を巻き込んだ越境学習フォローや越境施策の社内周知と効果検証を考えていきます。

ウィル・シードでは、長年にわたって越境学習を活用した人材開発施策をプロデュースし、意志ある企業さまと共にチャレンジを重ねてきました。

そこで多く聞かれるのは、越境学習を自社内で導入・運用・定着させていくうえでの難しさです。「社外に送り出すことの重要性はよくわかるが、効果をどのように検証・説明するか?」「現業もある中で、現場の上司や周囲の方の理解をどのように得るか?」など、企画者として検討すべきこと、気になることは多くあるものです。

そこで、株式会社野村総合研究所(以下、NRI)で越境学習プログラムを推進してきた久保智之氏に、企画者として取り組んできたこと、チャレンジしていることを伺いました。※本コラムは、2024年12月に開催された弊社主催のセミナー「NRIでの人的資本の拡充を目指した越境学習活用の取り組み」の内容を一部抜粋したものとなります。

■どうして今、越境学習を行うのか?

多様なプロフェッショナルの挑戦・成長による人的資本の拡充を目指して

ここ数年、弊社では人的資本の拡充に力を入れてきました。理想のあり方は〈個々の人材の強み〉に磨きをかけ、〈集団としての強み〉を高めること。それを実現するために、個々に求めるものとして弊社で定義づけた要素が「プロフェッショナリズム」「変化対応力」「自律的成長力」です。

さらには、弊社では「異才融合」と呼んでいますが、個々がこれら三つを持ち合わせて自分の専門性を生かし、互いに尊重し合いながら力を結集させて〈集団としての強み〉を発揮していくことを目指しています。この中で、「変化対応力」「自律的成長力」「異才融合」を身につけるには、越境学習がとても有効であると考えています。

越境学習に対して、社内から問われたこと

弊社の人材育成施策に越境学習プログラムを取り入れてから数年が経ちますが、スタートしてしばらくはさまざまな課題を感じたことも事実です。

越境学習に対して社内からたびたび問われたことは「越境学習で何のスキルが身について、現業にはどのように生かせるのか?」「研修の効果測定はできるのか?」といった内容でした。しかし具体的に研修で得られる効果について、適切に伝えることがなかなかできませんでした。

例えば、越境学習型研修の形式の一例として、「他社メンバーとの異業種混合チームで社会課題を目指した提案を行う」といった内容があります。こうした研修の中で、「課題解決力が身につく」「提案スキルが向上する」「社外に人脈ができる」といった効果はもちろんあります。ただ各受講者の様子を見ていると、それらの単一的なスキルなどだけではなく、もっと大きな学び・気づきを得ていると感じていたのです。ただ、越境学習を始めた当初は、その学びや気づきのことを的確に把握することができていませんでした。

越境学習では、ホームからアウェイに飛び出して葛藤しながら試行錯誤を繰り返すことで参加者自身が課題を克服できたり、もともとの強みをさらに伸ばせたりと、得られる学びや気づきは受講者ごとに多種多様です。

ひとことでは言い表せないような多くの経験や実感が、やがて行動変容へとつながります。そのため越境学習の価値は、具体的な知識やスキルを習得することを目的とする一般的な研修とは、異なる枠組みで説明する必要があるのだろうと思いました。主体性が伸びる人もいれば周囲の巻き込み力が伸びる人、多様性を生かす力が伸びる人もいる。越境学習型の研修は、「人によって気づきや学びが異なる」ということを伝えていく必要があると思ったのです。

■越境学習は、上司を巻き込むことが欠かせない

理解不足や「こんなはずじゃなかった」を徹底的に防ぐ

越境学習へのエントリーを検討する人に対し、どのようなことを心がけているかをご紹介します。

まず第一には、先にも触れたように、一律の知識やスキルが得られる研修ではないことを理解してもらうこと。各受講者がそれぞれ課題だと思っていることを、研修中の気づきから学び、自らで獲得していくのだということをはっきりとお伝えしています。

さらにエントリー後には、受講者本人に学びへの期待を明確にしてもらうようにしています。受講前の段階でまだ漠然としているかもしれませんが、本人なりに越境学習へ期待感を抱いて受講を決めたと思うのです。それを言葉にしてもらうようにしています。

上司視点での「期待」を明確にし、受講者にも共有

それから、もう一つ。これが重要なのですが、受講者の上司にも越境学習を理解してもらい、「上司からの期待」を受講者に伝えてもらうようにしています。

貴重な業務の時間を割いて部下に学んできてもらうからには、上司にも何かしらの思いがあるはずです。そのため、上司の立場からどのような期待をしているのかを我々と受講者に伝えてもらっています。具体的には、越境前に上司に「受講者が本研修を受講することに何を期待していますか?」など、3つほどのシンプルな設問に回答してもらっています。そして「その期待を受講者本人にも伝えてください」とお願いしています。

当初は、上司に多忙な業務の中で協力してもらえるのだろうかと不安でしたが、それは杞憂でした。

「自己の思考や行動のパターンを見直し、新たな行動につなげてほしい」「相手に遠慮しすぎず、一歩踏み込んでみるということを試してもらいたい」「社外のメンバーと交流し、自分の強み・弱みを理解して自分なりの価値の出し方を見つけ、実践できるようになってほしい」など、受講者本人の普段の業務の様子や個性を鑑みた上で真摯な回答が寄せられています。上司向けのアンケートをとることは、上司にプラスアルファの負荷をかけてしまうことですので、大きな負担がかからないよう配慮をしながら進めています。

■どのようにして効果検証していくのか?

上司からも見える「成長ポイント」を確認する

続いて、研修後についてご紹介します。

まず、受講者本人にはフィードバックアンケートをとって各自の学び・気づきを確認しています。「越境したことで、このような学びがあった」「自分の気持ちに変化が起きた」などの成長実感ポイントを伝えてもらっています。

こうした成長実感は研修効果のひとつととらえていますが、あくまで自己評価ですので、より客観的な確認ができるよう、上司にもアンケートをとっています。具体的には、「研修前後でどのような行動変容が起きているか」という内容です。結果としては、予想以上に具体的な受講者の成長の様子が伝えられています。

上司への確認ポイント

アンケートでは短時間で回答してもらえるように、越境学習の効果として想定される行動変容のポイントを次の6つに絞り聞いています。

    • ・「自分に対する自信の見え方」の変化
      ・「自分の考えの伝え方」の変化
      ・「行動力」の変化
      ・「上司とのコミュニケーションや関係性」の変化
      ・「難易度の高い仕事に対する意欲」の変化
      ・「周囲に対する支援」の変化
  • 各項目について、<自信を強く持っている状態(高い状態)><自信を持てていない状態(低い状態)>等のサンプルを示し、「高い方向に変化した」「変化なし」「低い方向に変化した」「その他」から選択してもらっています。その際、変化を感じた理由等もコメントとして添えてもらうようにしています。

    結果として受講者によって変化するポイントは様々であり、また多くの場合複数のポイントで変化することがわかりました。
    受講者の変化については、こうした各項目の高低の様子だけでなく、次のような具体的なコメントも上がってきています。

    • ・「上司や周囲とのコミュニケーションを積極的にとるようになったと感じる」
      ・「忙しい中でも自信をもって仕事を進めているように感じる」
      ・「プロジェクトメンバーへの支援を以前にも増して丁寧に行うようになったと感じる」
  • このように、上司が受講者の成長について気にかけている様子というのは、これまではあまり見えていないことでした。

    またこの上司向けアンケートでは、受講者の成長の様子が具体的に把握できるだけでなく、上司が「ここが伸びているようなので、今後はこのような業務を任せてみたい」など、次の業務アサインにつながるコメントが寄せられることもあります。研修は現業につながってこそ成果と言えると思います。研修が現業に活かされていく様子が確認できることも大きなメリットだと考えています。

    ================================
    【スピーカー】
    久保智之 氏
    株式会社野村総合研究所 人材戦略部 エキスパート
    野村総合研究所にキャリア入社。基盤系エンジニアとしてシステム開発業務に従事する傍ら、組織開発施策を企画・推進。その後、基盤系本部内の人材開発・組織開発業務に従事。エンジニアのキャリア体系整備や育成プログラム構築業務に携わる。現在は、組織開発・越境学習プログラムの開発を中心に、NRIグループ全体の人材開発業務を担当。

    TAGS

    RECENT POSTS

    RECOMMEND

    TAG LIST

    INDEX

    FOLLOW US最新情報をfacebookで!

    株式会社ウィル・シード

    〒150-0013

    東京都渋谷区恵比寿1-3-1
    朝日生命恵比寿ビル9・11階

    03-6408-0801 (代表)