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- 2026.06.03
- キャリア
若手とミドルシニアがともに挑戦する組織へ【前編】
多くの企業で、ミドルシニア活躍やキャリア自律に向けた施策が検討されています。しかし、年齢や管理職経験だけでは対象層の解像度が上がらず、「誰に、どのような施策を届けるべきか」が曖昧になりがちです。本コラムでは、ミドルシニア施策を本人の意欲や能力の問題としてではなく、変化する環境への「適応課題」として捉え直し、若手とミドルシニアが世代を超えて学び合い、互いの経験を活かし合う組織づくりのあり方を考えていきます。
※本コラムは、2026年5月に開催された日本の人事部主催「HRカンファレンス2026-春-」にて弊社が行った特別講演「ミドルシニアと若手がともに挑戦する組織へ -世代を超えて学び合い、互いを活かし合うための施策とは-」の内容を一部抜粋・編集してご紹介します。
■ミドルシニア向けではない施策で、ミドルシニアの変化が見えた
ウィル・シードは、もともと若手・中堅層を中心とした体験型・プロジェクト型の人材開発を数多く支援してきました。その中で、ひとつの発見がありました。
ミドルシニア向けに設計した施策ではないにもかかわらず、プロジェクト型の手上げ研修や越境型プログラムに、ミドルシニアに該当する受講者が参加することがありました。たとえば、弊社が展開している越境型プログラム「GIFT」では、異なる企業・立場・経験を持つ参加者が混ざり合い、PBL形式で社会課題や事業テーマに向き合います。そこでは、非認知スキルや多様な人との学びが重視されます。
この場にミドルシニアが参加したとき、企業がミドルシニア層に期待する変化が垣間見えました。
・自分の経験を一度相対化する。
・会社の役割から少し離れて、自分を主語にして考える。
・多様な人との関わりの中で、自分の提供価値を見直す。
・これまでの能力や経験を、今の環境に合わせて発揮し直す。
つまり、ミドルシニア向けではない施策の中で、ミドルシニアが適応し、変化する可能性が見えてきたのです。
ここから、ひとつの問いが生まれました。
・なぜ、ミドルシニア向けではない施策が、ミドルシニアに届いたのか。
・なぜ、世代を分けない場で、ミドルシニアの変化が起きたのか。
この問いをさらに深めるために、弊社では、ミドルシニア問題を探求するHRゼミを実施しました。
このゼミは、成功事例を一方的に共有する場ではありません。ミドルシニア施策を実施している、あるいは検討している大手企業の人事担当者が集まり、各社の課題や試行錯誤のプロセスを持ち寄り、共に振り返りながら学び合う対話型の場です。
ゼミでは、各社が取り組んでいる施策を共有し、ミドルシニア問題の背景を議論し、有識者の知見にも触れながら、参加者自身も越境体験を行いました。そこから見えてきたのは、ミドルシニア施策を単なる年齢別施策として捉える限界です。問題は、ミドルシニア本人の能力や意欲だけではありません。年齢による見え方、過去の役割への固定化、会社からの期待の渡され方、世代間の関係性、そして本人が持つ問いの向きが複雑に絡み合っていました。
本コラムで紹介する内容は、机上の理論として整理されたものではありません。
ミドルシニア向けではない施策の中で見えた変化と、各社のリアルな試行錯誤を持ち寄ったHRゼミから抽出した、ウィル・シードなりのインサイトです。
■ミドルシニア問題は、まだ正解がない領域
ミドルシニア施策は、いま多くの企業で注目されているテーマです。
背景には、社会環境、企業環境、個人の意識の変化があります。高年齢者雇用安定法の改定、少子高齢化による労働力人口の減少、職業人生の長期化、人生100年時代、キャリア自律の要請。企業側でも、プロダクトライフサイクルの短縮化、人件費の高騰、若手採用の難化、人事制度の転換など、さまざまな変化が起きています。
しかし、ミドルシニア施策はまだ「正解がない領域」です。
企業ごとにフェーズが異なります。すでに施策を始めている企業もあれば、まさに検討し始めた企業もあります。5年後に問題になると見越して、今から議論を始めている企業もあります。
さらに、言葉の定義すらあいまいです。ミドルシニアを45歳以上と置く企業もあれば、50歳以上と置く企業もあります。最近では、40歳前後から対象として考えるケースもあります。
キャリア自律なのか、リスキリングなのか、再雇用なのか、ポストオフなのか、若手への影響なのか、組織風土なのか。扱うテーマも悩ましいです。
そして何より難しいのは、手ごたえのある打ち手が、まだマーケットに十分出てきていないことです。若手のキャリア施策であれば、起きている事象の因果が比較的想起しやすく、企業間の共通項も見えやすい。たとえば、早期離職、リアリティショック、成長不安、キャリアの短期志向など、各社で共通する課題が見つけやすい領域です。
一方で、ミドルシニアはそう簡単ではありません。
同じ年齢でも、置かれている状況が大きく違います。役職者、専門職、ポストオフ経験者、再雇用者、介護や子育てなどの制約を抱える人、まだまだ挑戦したい人、会社以外の活動に軸足を置き始めている人。状態は非常に多様です。
だからこそ、ミドルシニア施策では、まず「何が問題なのか」を見立てる必要があります。

■ミドルシニア施策の難しさとは
弊社では、ミドルシニア問題を探求するHRゼミを実施し、各社の取り組みや課題を持ち寄りながら議論してきました。
そこで共有された施策は、非常に多様でした。
50歳・55歳向けのキャリア面談、キャリア研修、60歳以降のジョブマッチング、社内メンター、キャリアコーチング、越境体験、セカンドキャリア事例の紹介、役職定年の廃止、再雇用、定年延長、リスキリング、マネープランセミナーなど。企業はすでに、かなり多くの施策に取り組んでいます。
一方で、課題も見えてきました。
新しいことへの意欲が低下する。昔の経験が通用しなくなる。周囲からの期待値が変わる。モチベーションにばらつきがある。若手への影響が気になる。シニア施策がネガティブに受け止められる。異動が少なく、関係性が固定化しやすい。対象のばらつきが大きく、誰に合わせるべきかが難しい。施策を用意しても、受講や行動につながりにくい。
ここから見えてきたのは、次の構造です。
・制度設計には、すでに一定程度取り組んできている。
・だからこそ、本人の能力・意識にアプローチしたい。
・そのために、様々な研修を用意している。
・ただ、「ミドルシニアをどう捉えるのか」という見え方にも難しさがある。
その結果、施策の周知や動機づけが難しくなり、多様な現状にあるミドルシニアの解像度も上がらないまま、結果として「誰の、どのような課題」を解こうとしている施策なのかが曖昧になる。ここに、ミドルシニア施策の一つ目の壁があります。
■施策を考えるカギとなる「エイジズム」とは
この「見え方」を考えるうえで重要なキーワードが、エイジズムです。エイジズムとは、年齢に基づく偏見、ステレオタイプ、差別のことです。ここで言いたいのは、誰かを責めることではありません。年齢という情報によって、本人や周囲の見え方が無意識に変わってしまうことがある、という話です。たとえば、次のような見え方です。
「もうベテランだから大丈夫だろう」
「今さら成長機会を用意しなくてもよいだろう」
「シニア向けと言うと、本人が嫌がるかもしれない」
「若手に機会を渡すべきだから、ミドルシニアには新しい役割を任せにくい」
こうした見え方は、本人への期待や機会を狭めます。
さらに重要なのは、エイジズムは本人にも内面化するということです。
若いうちから「年齢を重ねると挑戦しにくくなる」「シニアになると成長機会は減る」といった見方を内面化していると、自分がその年齢になったときに、同じように自分自身を見てしまう可能性があります。
「もう自分はこういう役割だ」
「今さら新しいことに挑戦する年齢ではない」
「これ以上広げても仕方がない」
こうした役割観が本人の中に生まれると、組織への関与や新しい学びへの意欲はさらに下がっていきます。つまり、ミドルシニア問題は、本人の意欲や能力だけの問題ではありません。本人をどう見るか。本人が自分自身をどう見るか。その見え方の問題が、非常に大きく影響しています。

■施策のターゲットの解像度を上げる
ミドルシニア施策を考えるとき、人事データとして扱いやすいのは、年齢や管理職経験です。何歳以上か。管理職経験があるか。ポストオフしているか。再雇用か。こうした情報は、データとして収集しやすい。しかし、年齢や管理職経験だけでは、ミドルシニア施策の対象層の解像度は上がりづらいです。
今回は、今の環境における「能力の発揮度」と「業務への意欲」という定性的な切り口で考えていきます。この2軸で見ると、ミドルシニアは大きく4つの状態に分けられます。
1つ目は、誠実貢献型です。組織への関与は高く、任されたことに真面目に向き合う。周囲を支えようとする意識もあり、関わりも多い。一方で、今の環境に合った発揮方法がつかめず、アウトプットが空回りしやすい。
2つ目は、ハイパフォーマーです。自ら成果を生み出し、安定して価値発揮できている。業務への意欲も高く、自律的に行動できる。経験や強みを活かし、周囲への好影響も期待できる。
3つ目は、ローパフォーマーです。業務への意欲が低下し、指示待ち・受け身になりやすい。能力が十分に発揮されず、仕事への手応えも弱い。人材開発だけでなく、配置・役割・マネジメント面の支援も必要になりやすい。
4つ目は、体力温存型です。自分の担当業務では一定の成果を出している。求められた範囲では安定して動ける。一方で、組織への関与や追加的な貢献には慎重になりやすい。
人材開発担当として特に注目したいのは、誠実貢献型と体力温存型です。
誠実貢献型は、意欲がないわけではありません。むしろ、役に立ちたい、貢献したいという思いがある。ただし、過去の成功体験や自分なりの支援の仕方に寄りすぎると、今の環境や相手の期待とズレてしまう。
体力温存型も、能力がないわけではありません。自分の担当範囲では成果を出している。ただし、ポストオフや役割変化、子育て・介護・健康・副業・地域活動などの制約も重なり、会社で役割を広げることへの意欲が限定的になりやすい。
ミドルシニアの能力が急になくなるわけではありません。変わるのは、能力の使いどころです。だからこそ、年齢だけで対象者を決めるのではなく、今の環境で力を発揮できているのか、会社の期待と本人の問いが接続しているのかを見る必要があります。
