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若手とミドルシニアがともに挑戦する組織へ【後編】

多くの企業で、ミドルシニア活躍やキャリア自律に向けた施策が検討されています。しかし、年齢や管理職経験だけでは対象層の解像度が上がらず、「誰に、どのような施策を届けるべきか」が曖昧になりがちです。本コラムでは、ミドルシニア施策を本人の意欲や能力の問題としてではなく、変化する環境への「適応課題」として捉え直し、若手とミドルシニアが世代を超えて学び合い、互いの経験を活かし合う組織づくりのあり方を考えていきます。

※本コラムは、2026年5月に開催された日本の人事部主催「HRカンファレンス2026-春-」にて弊社が行った特別講演「ミドルシニアと若手がともに挑戦する組織へ -世代を超えて学び合い、互いを活かし合うための施策とは-」の内容を一部抜粋・編集してご紹介します。

■本人も上司も、過去の能力・役割を前提に関わっている
誠実貢献型人材には、さらに細かく見ると2つの背景があります。
1つは、実績再証明型です。
過去の成功体験をもとに、「自分はまだできる」と示そうとする。しかし、環境や期待が変化しているため、その経験の出し方が今の組織に合わず、成果につながりにくくなる。
もう1つは、貢献欲求型です。
組織や若手の役に立ちたい思いは強い。しかし、相手が求める支援ではなく、自分が良いと思う支援に寄りやすく、関与が空回りしやすい。

このような人材は、決して意欲が低いわけではありません。むしろ、関わろうとしている。役に立とうとしている。だからこそ、人事や上司から見ると、単純に「支援が必要な人」とは見えにくい。一方で、現場では別の難しさが生まれます。
・新規の業務にアサインしづらい。
・学ぶ側ではなく、評価・指導する側に固定化しやすい。
・若手との協働において、支援と介入の境界が曖昧になる。
本人は貢献しようとしているにもかかわらず、現場から見ると、関わり方を設計する難易度が高くなるのです。

体力温存型人材にも、背景があります。

1つは、ポストオフ型です。
役職や立場の変化により、「自分の役割は一区切りついた」という感覚が生まれ、担当範囲に閉じた働き方になりやすい。
もう1つは、LIFE優先型です。
子育て、介護、健康、副業、地域活動など、会社以外の優先度や制約が高まり、会社で役割を広げることへの意欲が限定的になりやすい。

体力温存型も、成果を出していないわけではありません。自分の担当範囲では安定して仕事をしている。求められたことには対応している。しかし、現場では次のような課題が起きます。
・追加役割や組織横断業務を依頼しづらい。
・良くも悪くも、若手の将来像に影響を与えやすい。
・経験値や人件費に見合う役割設計が難しい。

ここで重要なのは、誠実貢献型と体力温存型のどちらも、本人だけの問題ではないということです。共通しているのは、本人も上司も、過去の能力・役割を前提に関わっていることです。本人は、これまでの経験や役割をもとに、自分の価値を捉え続ける。上司は、過去の実績や期待役割を前提に、仕事を任せ続ける。その結果、今の環境に合った新しい役割や貢献の仕方が見えにくくなります。

つまり、ミドルシニア施策で解くべき課題は、本人に「もっと頑張ってもらう」ことだけではありません。本人と上司が、過去の能力・役割を前提に関わり続けている状態から抜け出し、今の環境に合った役割と貢献の仕方を再設計することです。

■必要なのは、「何を得られるか」から「何を残せるか」への問いの転換
ミドルシニア施策の本質は、問いの転換にあります。
「これまで頑張った自分は、何を得られるか」から、「自分は今まで以上に、何を残せるか」へ。
この問いの向きが変わると、組織の中での振る舞いも変わります。

「何を得られるか」という問いで組織に所属すると、経験や知恵が組織に還元されにくくなります。若手から「ああなりたくない」と思われ、上司も扱いづらく、期待を伝えにくくなり、世代間での学び合いが止まっていきます。一方で、「何を残せるか」という問いで組織に所属すると、経験や知恵が組織に渡されます。若手から「ああなりたい」と思われ、上司も次の期待役割を伝えやすくなり、世代間での学び合いが起こります。
人生100年時代において、45歳はキャリアの終盤ではありません。70歳まで働くと考えれば、22歳から働き始めた人にとって、ようやく折り返し地点です。それにもかかわらず、「これから何を残すか」ではなく、「これまで頑張った自分は何を受け取れるか」に問いが閉じてしまうとしたら、それは本人の意識の問題だけではないかもしれません。

■若手もミドルシニアも、同じ「適応課題」に向き合っている
ミドルシニア施策を考えるうえで、もう一つ重要なのは、これはミドルシニア固有の問題ではないということです。若手とミドルシニアでは、現れ方は違います。しかし、変化する環境の中で押さえるべきポイントは共通しています。
若手に起きていることは、たとえば次のようなことです。
学んだ知識やスキルを、現場でどう使えばよいか分からない。関係が狭く、自分を相対化する機会が少ない。仕事の意味は自分の関わり方でつくれるにもかかわらず、「自分に合う場所」を探しがちになる。
一方で、ミドルシニアに起きていることは、こうです。
蓄積した経験やスキルが、今の役割や環境で発揮されにくくなる。年齢・役割・過去の実績によって、関係性が固定化する。「何を得られるか」「どう実績を証明するか」に問いが向きやすくなる。

現れ方は違いますが、起きているのは同じ適応課題です。
ここでいう適応課題とは、単にスキルを身に着ければいいということではありません。今の環境に合わせて、①パフォーマンスの発揮方法 ②問いの置き方 ③相対化の機会 が必要です。
若手には、学んだことを現場でどう発揮するかを考える必要がある。ミドルシニアには、蓄積した経験を今の環境でどう活かすかを考える必要がある。
若手には、自分の世界を広げる相対化の機会が必要です。ミドルシニアには、過去の役割や成功体験を相対化する機会が必要です。
若手には、「自分に合う場所を探す」だけでなく、「仕事の意味を自分の関わり方でつくる」という問いが必要です。ミドルシニアには、「何を得られるか」ではなく、「これから何を残せるか」という問いが必要です。
だから、ミドルシニア施策は、能力不足や意欲低下への対処としてだけ考えるべきではありません。変化する環境の中で、本人と組織がどう適応するかを扱う施策として設計する必要があります。

■解決策は、世代別施策ではなく「適応支援」として設計できる
実は、解決策は世代ごとに大きく変わらないのかもしれません。ウィル・シードがこれまで実施してきたプロジェクト型の手上げ研修や越境型プログラムは、もともとミドルシニア向けに設計されたものではありませんでした。しかし、そこにミドルシニアが参加したとき、企業が期待する変化が垣間見られました。多様な人と関わり、PBL形式で実践し、自分の経験や発揮方法を見直す。そこでは、ミドルシニアも適応し、変化していました。
むしろ、年齢別に「ミドルシニア向け」と打ち出すよりも、エイジズムを回避しながら、本人に届きやすい可能性があります。解決策は、世代別施策ではなく「適応支援」として設計できるかもしれません。

クロストークでは、越境やコミュニティの場が、ミドルシニアにとってどのような意味を持つのかについても話されました。
ポイントは、会社の中の役割や評価関係から少し離れた場では、「役職としての自分」ではなく、「一人の個人としての自分」で話しやすくなるということです。企業の中で長く働いていると、いつの間にか、自分の役割、自分の実績、自分の立場が、自分自身と一体化していきます。何が自分の経験で、何が会社から与えられた役割なのか。何が自分の強みで、何が過去の肩書きによって機能していたものなのか。その境界が見えにくくなることがあります。
だからこそ、利害関係の少ない場で、自社の役職や評価から少し離れ、異なる会社・異なる世代・異なる経験を持つ人と話すことに意味があります。そこでは、「会社の中の自分」ではなく、「自分は何を大切にしてきたのか」「自分は何を提供したいのか」「これから何を残したいのか」に向き合いやすくなります。
これは、単なる気分転換ではありません。

過去の役割や成功体験を一度相対化し、今の環境に合わせて、自分の経験をアンラーンする機会です。ミドルシニアに必要なのは、これまで積み上げてきた能力を今の環境でどう発揮し直すかを考えることです。その意味で、越境やコミュニティは、ミドルシニアにとってのアンラーンのハードルを下げる場にもなります。
「これまでの自分」を否定するのではなく、「これからの自分」として、もう一度使い直す。そのための場をどう設計できるかが、ミドルシニア施策の重要な論点になります。

■世代を超えて学び合うことは、職場適応の予行演習になる
世代が交わること自体が、適応支援になります。
異なる価値観・経験を持つ相手と向き合うことは、その場の学びを深めるだけでなく、職場での適応の予行演習になります。職場では、価値観の違う上司、若手、他部署、顧客と向き合わなければいけません。異なる世代と同じテーマで対話することは、まさにその練習になります。

世代を超えて対話することで、「若手だから」「ミドルシニアだから」というラベルではなく、一人の個人として相手を見る解像度が上がります。これはエイジズムの解消にもつながります。そして、本人が年齢による役割観を内面化することを防ぐきっかけにもなります。
世代混合は、単なる交流施策ではありません。異なる価値観を持つ相手と向き合う、職場適応のトレーニングです。そして同時に、組織の中にある世代間の思い込みをほどき、互いの経験を活かし合うための学習機会でもあります。

■ミドルシニアに必要なのは、配慮だけではなく「期待」と「機会」である
最後に、ミドルシニア問題とは何かを改めて考えます。
若手・中堅・管理職には、企業は比較的、機会と期待を渡しています。若手には、まだできないことがある前提で、成長の機会を与えています。管理職には、昇格時などに成果への期待を直接伝えています。

一方で、ミドルシニアには何が起きやすいか。すでにできる人だと思って、成長の機会を与えていない。会社に残してほしい期待を、直接伝えていない。
もちろん、これは企業が意図的に機会を奪っているという話ではありません。むしろ「もうベテランだから大丈夫」という見え方によって、成長機会や次の期待を渡す対象から外してしまっている可能性があるということです。
ミドルシニアに必要なのは、配慮だけではありません。もう一度、期待されることです。そして、その期待に応える機会を渡されることです。

ミドルシニア問題を、本人の意欲低下や能力不足としてだけ捉えると、解くべき課題を見誤ります。
本質は、企業がミドルシニアに対して、成長の機会と成果への期待を生み出せているか。言い換えれば、エイジズムによって、企業がミドルシニアに再投資できていないのではないか、という問題です。

ミドルシニアは、過去の人材ではありません。これからの組織に、経験や知恵を残せる人材です。その力を引き出すためには、年齢で分けるのではなく、対象層を見立てること。エイジズムに自覚的になること。能力・意識の問題ではなく、環境への適応課題として捉えること。そして、世代を超えて学び合う場を設計することが必要です。

若手とミドルシニアがともに挑戦する組織へ。
その一歩は、ミドルシニアを「支援対象」として見ることではなく、ともに適応し、ともに学び、ともに組織の未来をつくる存在として見直すことから始まります。

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