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なぜ、「言われたことしかできない」は生まれるのか

背景には若手世代の特性に加えて、企業の構造上の要因も存在します。しかもその構造は、見方によってはとても合理的にさえ映ります。

企業人事の方々から「若手社員はまじめに頑張っているのだが、言われたこと以外には手を出そうとしない」という問題意識を相談されることがあります。

この問題には、世代の傾向やコンプライアンス/ガバナンス強化、仕事自体の高度化・細分化による業務範囲の矮小化など、様々な要因が絡んでいそうです。しかし、このような「昨今の経営環境」以前に、多くの日本企業が古くから抱える構造的な要因も強く影響しているように思います。

若手社員が抱える、構造的で強固な「非連続」

ウィル・シードはよく「非連続」という言葉を使います。「それまでの努力と結果は決して間違っていない。しかしこれからのフィールドでは、これまでとは異なる質の努力と結果が求められる」というタイミングを指す表現です。例えば、プレーヤーからマネジャーへの昇格は、立場を伴う分かりやすい「非連続」といえます。

では、今回のテーマである若手社員の状況についてはどうでしょうか?

まず、多くの新卒採用では「就職」ではなく「就社」をもくろみます。これは現在の社会構造を踏まえてもある種合理的な人員確保のあり方でしょうから、「就社」そのものを全否定するつもりはありません。

この「就社」によって何が起こっているかが重要です。就社から3~5年間で培うキャリアが「言われたこと以上への挑戦行動」を妨げてはいないだろうか、ということです。

「職」としての専門性が無の状態で「就社」した新入社員は、まず仕える会社がどのようなシステムで動いているのかをゼロから学び、その一端を担える状態を目指します。いわゆる組織適応です。就社/ゼロベースの新入社員にとって、キャリア上不可欠な道程といえます。

就職活動中に、夢のある仕事人を理想像として抱いた新入社員からすると「こんな地味な事をやるために会社に入ったのではない、もっと活躍できる、もっと活躍したい」と嘆くこともあるでしょう。キャリア形成初期に見られるリアリティ・ショック現象は、この状態を指しているともいえます。しかし少なくとも職場の人間からすれば「今、目の前にある事もできずに、何をいうのか」となります。

この段階では「根拠なき挑戦よりも、まずは組織適応」が重視されます。この組織適応に関しては既に多くの企業で実践的な活動がなされています。代表的な活動が「新入社員OJT制度」でしょう。

有能な“組織適応人材”におとずれる変化

新入社員は既存事業のための貴重な戦力としてその歩を進めます。そして、知識・能力の側面で一定の適応力を身につけ、若手社員として現場最前線で活躍します。仕事の量・難易度における期待値は年々上がり、その期待に応えつづける、という行為が繰り返されます。

この時、新入社員の成長とは全く異なる文脈で、「挑戦」「変革」といった言葉が社内で飛び交っているでしょう。経営トップのメッセージなどが代表的なシーンです。あるいは、個人目標の項目として表現されることもあります。

しかし残念ながら、目標項目として「挑戦」「変革」が掲げられたとしても、期末時点でその項目だけが低評価に終わる、というケースを多く耳にします。変革よりも推進の一端を担うべき、という力学がとても強いとも言えますし、短期的にみれば、それは合理的な選択となるのでしょう。

その結果、ややうがった言い方をすると、新入社員は何年もかけて「有能な組織適応人材」の道を歩み、突然、30歳前後のタイミングで「変革」「創造」「リーダーシップ」といった非連続な期待を提示される、ということが起こっているのではないでしょうか。

構造的な非連続を解消するために

ゼロベースの新入社員が事業活動の一端を担うためには、一定の「組織適応期間」が必要です。問題は就社以降、「組織適応人材」を是として取り組む期間が長すぎる、あるいはその成長方針が「当たり前化」してしまうということです。

少なくとも30代以降の社員に突然、「変革」「創造」をテーマにした人材開発を実施するやり方は、その施策自体がいかに秀逸だったとしても、「強烈な非連続」になり得ます。かといって、就社直後の新入社員がまず目指すべき組織適応のタイミングに、無責任に「変革」「創造」を課す、ということも現実的でないと考えます。

一定の組織適応期間後、20代後半の期間に若手社員本人や現場マネジメントが納得する形で、いかに挑戦的な活動ができるか。そしてその活動を通じて30代以降の「変革」「創造」に向けた準備ができるか。私たちはその大切な時間を「トライアウト期間」と名付け、その可能性を模索するためのソリューション開発、現場調査を続けています。

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