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セミナーレポート|越境は個人の志(パーパス)をどう磨くか

越境の本質は、個人が「何を学ぶか」よりも「何になりたいか」に気づくこと。越境学習の第一人者である石山恒貴氏(法政大学大学院政策創造研究科教授)をお招きし、越境のプロセスが個人の志を育む上でどのような効果があるかについて語っていただきました。

2022.03.14

2022年2月9日(水)、セミナー「【石山教授と語る】越境は個人の志をどう磨くか」をオンラインにて開催しました。前半では「越境は個人の志(パーパス)をどう磨くか」をテーマに、石山恒貴氏による基調講演が行われました。後半には参加者同士のディスカッションや石山氏への質疑応答の時間が設けられ、越境学習への理解をさらに深めていきました。

本レポートでは、石山氏による基調講演と質疑応答の内容を抜粋してご紹介します。

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■越境は、暗黙の前提を見直し、自分のやりたいことや得意なことを再認識する機会

越境の定義

企業の中から外へと学びに出ることもそうであると言えますが、私はそれよりも広義に解釈しています。言うなれば、自分の心の中で「ホーム」と「アウェイ」と思っている場所を往還するといったイメージです。ホームとは、よく知った人がいて、社内用語も通じて、安心できるけれども刺激がない場所。アウェイは、見知らぬ人がいて、社内用語は通じず、何となく居心地が悪いけれども刺激がある場所です。

会社ですと、人事異動や出向も越境に近しいと思われますが、それらとは区別しています。確かに最初はアウェイかもしれませんが、ずっといれば慣れてきて、そこは第二のホームとなるからです。そうすると、第一のホームから第二のホームへの一方通行にしかなりません。そうではなく、常に二つ以上の場所を行ったり来たりしている状態であることがポイントです。

アウェイの特徴

私の研究はプロボノを行った方々に、プロボノをアウェイと見立ててどのような効果があったかをインタビューしたところから始まりました。そうして見えてきたアウェイの特徴があります。

まず、上下関係がほぼないこと。会社では上下関係がありますが、アウェイの場に上司や部下はいない。また、社内用語が通じずに異質性があって、そこには葛藤もある。もう一つ、抽象度が高いことも挙げられます。会社であれば、表向きは自由にプロジェクトに取り組める立場や状況にあったとしても、実際には落としどころがきっちりと決められていることが往々にしてあります。しかし、アウェイなら、例えばプロボノでは「そもそも何をテーマやミッションとして据えればいいのか?」といった抽象的な部分から自分自身で見つめ直すことになり、もやもやとしてしまう。こうした条件が揃うと、越境学習に近しいことが起こるのではないかと思っています。

越境学習の効果

企業の人材育成施策の一環として、一定期間の越境学習プログラムを経験された皆さんにお話を聞いてみると、異業種での越境学習を経て新しい視点やスキルを身につけたという紋切り型の学びでなく、「アウェイの場に行ったら、自分の会社の常識は世間の非常識だった。暗黙のうちに自分の会社の常識を前提としていたが、そんなことは全くなかった」とおっしゃる方が多かったのです。

お金をもらえるわけでもないのに時間や労力を使ってもやもやしていると、次第に「そもそも自分は、何のためにこんなことをやっているのだっけ?」と、自らを問い直したり、振り返ったりする局面が多くなったりした。「何を学ぶか」だけでなく、「自分は何になりたいか?」を考える機会になっていたというわけです。

言い換えれば、個人のパーパスについて考えるようになる。越境学習プログラムへの参加は自分を変えたいと考えている方も多いと思うのですが、参加前に棚卸として「あなたのパーパスを語ってください」と言うと、会社のパーパスしか語られないということがよくあります。「では、会社のパーパスを除いた、あなたのパーパスは?」と訊ねても、何も出てこないことすらある。越境すると、会社のパーパスを全て引き剥がされることになるわけですが、そうして初めて「自分のパーパスは何か」を考えるスタート地点に立ちます。

「越境学習者は二度死ぬ」

そうは言っても、社員を越境学習に送り出す人事担当者の方からすると「学習効果をどのように判断すればよいのだろう?」と、頭を抱えてしまうかもしれません。
越境学習プログラムを提供する事業者、会社の人事部の方もそれぞれに計測しているとは思いますが、「共通の物差し」というものがない。そこで2020年、経済産業省のプロジェクトの一環として、私の研究室でも調査に参加し、越境学習の効果をまとめたことがありました。

すると、越境直後はアウェイの衝撃でもがくのですけれど、そこを抜けると越境先でも貢献できるようになる。
と、ここまでは何となく想像できるのですが、意外だったことがあって、それは、越境後の衝撃のほうが強かったということ。つまり、アウェイでせっかく新しい視点を身につけたのに、自分のホームに戻ったら「ずいぶんと気合いが入っているね」「そんなに外に影響を受けなくてもいいのでは?」などと言われて、周囲とのギャップを感じてしまうといった現象が起こっていました。

「ホームに戻ったら、周りの人がゾンビに見えました」といった意見も聞いたことがあります。私はこの現象を「越境学習者は二度死ぬ」と名付けたのですが、ホームに戻ったときの衝撃のほうが激しくて、でも、越境者はそれを予期していないので、激しく揺さぶられてしまうわけです。

越境学習の効果は、どこで判断する?

例えば、目の前の仕事がマンネリ化したために一念発起して越境したある20代の方の場合。越境先はベンチャー企業で、誰もが経営視点に立って仕事をする様子に落ち込んだけれども、それでも頑張ってついていったそうです。
そうして自分の会社に戻ったら「いや、うちはベンチャーじゃないから」「うちでそんなことをやってもね」と言われて、受け入れてもらえずにがっかりしたそうです。

自分を客観視したいと思った30代の方は、越境先で「今までの自分はうまくやってきていたようで、実は指示待ち人間だった」ということに気がついたそうです。
その方にとって、自分の根幹を揺るがすほど大きな気づきだったそうですが、その後、ホームの会社で周囲に「指示を待たないで自分からどんどん動いていこう、変革をしていこう」と言ったら、空回りをしてしまった、と。

でも実は、「ホームに戻ってがっかりすることも学び」です。「では、自分はそこで何をやりたいのか?」と考えて、自分の会社の人を巻き込んで変革を起こしていくような、そうした成長もあるのですから。
もちろん、その過程で苦労もあるはず。しかし、苦労することでさらに成長できるわけですし、そこは大いに期待できるところではないでしょうか。情熱を持って語るだけで企業が変われば、これほど簡単なことはありません。現実を踏まえながらどのように変えていくかを具体的に考え、行動を起こしていくことは、本人にとっても、そして、ホームである会社にとっても、大きな収穫なのではないでしょうか

学びそのものが「何になりたいか」を考える機会である

越境学習によって個人のパーパスを捉え直すからこそ、会社のパーパスが俯瞰できるようになり、本質的に共感できる部分が見つかります。
これは個人的な見解ではありますが、会社のパーパスと個人のパーパスが100%一致することはないと思うのです。それに、強制されて会社のパーパスに賛同しても、十分な価値発揮はできません。自分は何者であり、どのように社会と連結していきたいのかと振り返る個人のパーパスがあるから、会社のパーパスにエンゲージし、価値発揮ができるのです。

越境学習にメリットを感じていない人への機会提供は必要?

越境は個人的な経験となりますから、本人がやりたければやればいいし、したくない人はしなくてもいいという考えもありますが、誰かに機会を提供してもらうことで、越境できたということもなきにしもあらずです。
例えば、越境に興味があるけれど、今のところはそこまで熱量はないという場合。人事担当者がちょっと背中を押してあげたら、思っていた以上に効果を上げる場合も多々ありますから、あまり構えすぎずに機会を提供していってもいいのではないかと思っています。

■スピーカー 石山恒貴(いしやま・のぶたか)氏

法政大学大学院政策創造研究科教授、博士(政策学)。専門分野は人的資源管理(特に越境的学習や実践共同体など)、雇用マネジメント。NEC、GE、外資系ライフサイエンス会社を経て現職。著書に『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(日本能率協会マネジメントセンター)他多数。

<セミナー後記 X-Border Fantasy 室長 岸本渉>

自分にも越境学習経験がありますが、正直に言うと、当時は企業のパーパスに重責を感じていたり、周囲の人間の仕事に対する姿勢を見ては「自分には志がない」と、自分自身を責めていたところがありました。

しかし、実際に越境してみて、自分がやったことに対して誰かが喜んでくれて、受け取ってくれる人や伝わる人がいるということに救われて、もう一度、会社や社会とつながり直してみたいと思うようになりました。

たとえ今は越境に興味がなかったとしても、やってみることで学んだり、自分の中で意味づけされる感覚があると思うのです。そして、それがまたドライブとなるはずです。まさに”Learning by doing”。自分自身や会社の枠を越境し、人、会社、社会の可能性が広がっていくことを願っています。

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ウィル・シードでは異業種による越境型体験プロジェクトをスタートさせました。よろしければぜひご覧ください。

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