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大企業の “キャリア自律パラドックス”をどう乗り越えるか

個人のキャリア自律を促しつつも「会社の期待に応える成果も出してほしい」「優秀層には退職しないでほしい」といったギャップを感じていませんか? 企業・組織と個人の間にある”キャリア自律のパラドックス”を直視しつつも、理想のあり方に向かう方法を考えていきます。

2022.06.06

2022年5月19日(木)、セミナー「【ゲリラ人事大学】大企業の“キャリア自律パラドックス”をどう乗り越えるか」をオンラインにて開催しました。『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』の著者である神谷俊氏、チーム学習の第一人者である日本アクションラーニング協会代表の清宮普美代氏、X-Border Fantasyの岸本渉が中心となり、各企業人事のみなさまと共に考えを深めました。神谷俊氏の基調講演を中心に、当日のセミナー内容を抜粋してご紹介します。

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■【基調講演】キャリア自律とパラドックス/神谷俊 氏

なぜ、キャリア自律が重視されているのか

まず、最初に「どうして今、キャリア自律なのか?」について理解を共有します。キャリア自律が求められる背景をおさえ、この概念をより深く理解していきましょう。

従来、キャリア自律はそれほど重視されていなかったように思います。市場が安定していたため、キャリア開発の方向性も明確でした。一人ひとりが主体的にキャリアを考える必要がなかったと言えます。

1990年頃のヒット商品や売上を調べてみると、そのことが理解できます。ロングスパンのものですと、一つの製品が約40年も売れ続けています。例えば、家電メーカーがエアコンのヒット商品を出したら、当面はそれで企業は安定して収益をえることができる。莫大な開発予算と長い時間を投下して良い商品を一つ作り上げ、徹底して売り込む。その後は改善を重ねてコストを抑える。この戦略が通用した時代でした。

こうした背景を踏まえると、キャリア開発のアプローチとしては、長期的かつ固定的になってくるわけです。先に例に挙げたように、一つのヒット商品を作り上げてそれを手掛けていくのであれば、身につけるべきスキルはすでに見えています。個人は先人から技術を受け取ることがキャリア形成につながっていたとも言えます。

組織から提供されたキャリアを歩んでいくことが組織に対する貢献であり、自分自身のキャリアを作ることでした。その時代において、自律は必ずしも重要ではなかったんですね。

マーケット・ライフサイクルを理解する

一方で、現在のマーケットの特徴は上記のような「安定」とは正反対です。今は「多元性」や「変動性」が高い市場と言われます。多元性の高い状況とは、多様な価値観が同時に台頭してくるような状況です。例えば、生産性が重視されているけれど、創造性も、売上も、業績も、環境配慮までも重視されている。さらには、従業員の個人のニーズにも向き合いつつ、会社に対するコミットメントも引き出さなければならない。まったく異なる価値観が全て大切と言われている状態です。

さらには、変動性も高い。それらの多様な価値観がたびたび変化します。その時々の状況で方針や価値観、あるいは法律も変わります。働き方改革や女性活躍推進、最近では人的資本開示など、次々と台頭する変化に企業が対応していくことが求められています。

このような時代においては、従来のようにトップが号令を出し、現場が言うことを聞くというスタイルでは組織はサバイバルできなくなります。その間に変化の波が訪れ、ビジネスチャンスを逃してしまいます。「長期的・固定的なキャリア開発」はもはや通用しません。常に、さまざまな情報を収集しなくてはならないし、新しいことを手掛け、そこから学び、即座に改善していかなければならない。身軽な組織が求められている時代です。

これほど変動性が高い市場では、組織の安定感も保てなくなります。新卒が入社してから定年までのキャリアを保証することも難しくなります。企業主導のキャリア開発が難しくなってくる。だからこそ、個人主導でキャリアを積み上げていく姿勢が求められるのです。キャリア自律の台頭には、組織主体のキャリア開発がフィットしなくなったという背景があります。

キャリア自律が高まるメカニズム

では、キャリア自律を促すためにはどうすればいいのでしょうか?自律という概念を理解すると自ずとアプローチも見えてきます。

さて自律について話しましょう。内発的動機づけを研究するアメリカの心理学者、エドワード・L・デシは「自律にはレベルがある」と言っています。こちらはデシの理論をもとに、自律のレベルを整理したものです。大別して、低いレベルの自律(レベル1~3)と高いレベルの自律(レベル4~5)に分類することができます。

低いレベルの自律とは、「やりたくないが、やらなくてはならないからやる」といった、自分自身を説得して何かに向き合わせるような状態です。気持ちはネガティブな状態。本当はやりたくないけど義務感や責任感で頑張るといった心理状態ですね。

一方で高いレベルの自律は、「やってみたい、楽しそう、面白そう、やりたいからやる」といったように、本人の気持ちが行動に乗っている状態。緊張感を抱えながらも、自分の興味や好奇心を追求して歩みを止めずにドライブをかけていく状態です。

このような高い自律レベルの人材は、高い創造性を発揮することができます。自分の思いや目指す成果にコミットしているわけですから、あの手この手を試して最も良い選択肢をチョイスする。結果的に、創造的なアイデアや提案が生まれます。また、学習意欲も高い。なんとか自分のプロジェクトを成功させたい。そういう心理モードだからこそ、自らさまざまな知見を得て学習を進めていきます。結果的に高い自律レベルであれば、パフォーマンスも高まるし、充実した気持ちになるために幸福感(Well-Being)も高くなると言われています。

では、低いレベルの自律はどうか。想像にかたくありません。

タスクがたくさんあって、これをこなさなければ評価が下がってしまう、周囲の期待に応えられなくなる。だから自分の気持ちは違うところにあるのに、仕方なく頑張る。このような状態では、言われたことで手いっぱいになります。新たな試みをしたり、他の方法を調べたり、といったことも「非効率」と考え、試さなくなります。結果として、学習レベルや創造性が低下し、長期的にはパフォーマンスは停滞します。

この点を踏まえて、キャリア自律を捉えなおしましょう。

つまり、キャリア自律で駆動している状態とは「自分自身がワクワク感を持って、挑戦的にキャリアを進めようとしている状態」と言えるでしょう。自分が「主人公」になって、なりたい自分になるために、好奇心や面白さに突き動かされて積極的に活動を展開していく。これがキャリア自律の高い人材の状態です。

キャリア自律を促すには?

キャリア自律を促すために、大切になるのは「刺激」です。

ワクワク感や好奇心、面白さや挑戦意欲を掻き立てる必要があるわけですから、新しいこと、難しいこと、重要なことなど、刺激的な情報に触れさせることが肝要です。

ただし、刺激について注意点が2つあります。

1つは、本人が「ちょうど良い」と感じる刺激であること。その人にフィットしない刺激では意味がありません。刺激不足の状態は退屈で、注意力も散漫になってパフォーマンスが落ちる。一方で、刺激が強すぎたり、挑戦レベルが高すぎたりすると、プレッシャーを感じて疲弊してしまいます。

また、もう1つの注意点は、「自分がやるのだ」という主人公感覚が維持されていること。他者から指示・強制される刺激では、効果は生まれません。たたとえば、上司に「このプロジェクトに挑戦してみなさい」と言われ、自分が関心を持っていなかったタスクを渡されても、それは負荷でしかありません。やらなくてはならない、上司に応えなければならないという気持ちが出てきて、自律レベルは低い状態になります。

人事や上司がすべきこと

自律させたいならば「自律しろ」と言うべきではないのかもしれない。自ずと楽しみを見つけ、勝手に自律していくことが望ましい状態です。

これを踏まえると、人事や上司ができる支援は間接的な支援になるでしょう。新たな刺激と出会う機会を提供したり、新たな好奇心が喚起されるような情報や他者との出会いを支援したり、といった具合です。刺激につながる機会を高い頻度で提供し、本人が得た発見を練り上げていくことができるような環境づくりが欠かせません

部下が「主人公」になる必要があるわけですから、上司のスタンスは当然「黒子役」「脇役」といったサブの配役になります。部下がいろいろなことを面白がったり、楽しんだりして、率先して前に進んでいく。それに対して、燃料を供給したり、知見をアドバイスしたりと、本人の主役感を損なわないように支援していくことが必要です。「上司が部下を育てる」ではなく、「部下が自ずと育つ環境を上司がつくる」ということです。このようなリーダーシップスタイルは、サーバント(召使)・リーダーシップとして近年重視されています。

一方で、いくら刺激を提供しても枝葉を伸ばしてくれない、芽を出してくれないといったケースがあるかもしれません。特に若手は、言われたことを真面目にやらなければならないという意識が強くて前に進めなかったりします。

なぜでしょうか?

彼らは、自分自身の能力に自信がありません。また、新たな刺激を「楽しそう」と思えるほどの経験値も積めていないことも多い。こうした場合、これまでに紹介したアプローチは効果的ではありません。まずは小さなハードルを一つひとつ乗り越えてもらいながら自己効力感を高められるように、褒めたり、期待したりといった従来的な動機づけをきちんとやっていかなければなりません。個々の部下の成長レベルや自律レベルに応じたマネジメントが求められているというわけです。

キャリア自律のパラドックスを乗り越えるために

人事担当者の方のお話をうかがってみると、キャリア自律の必要性を組織内の共通認識として得られていないことが悩みとしてあるようです。その要因として、キャリア自律に対して偏った認識がされていることが挙げられます。

個人が自律すると組織に弊害が生まれると思いこまれている。「業績が下がるのではないか?」「離職率が高まるのではないか?」といった危惧です。このような意見がでてくるということは、個人を自由にさせると、組織に対して愛着が薄まる。このようなジレンマ(一方を進めると、一方が後退する)の発想です。

まずは、この発想をアンラーニング(学習棄却)することが求められます。キャリア自律を支援しなければ、どのようなリスクがあるか、これを理解してもらう必要があるでしょう。どれだけ採用しにくくなるのか、優秀な人材の離職がどれほど増えていくのか。組織としていかに競合に出遅れてしまうのか。トップ層が歩んできた時代背景とは、いかに異なる労働市場であるか、いかに異なるキャリア観で個人は活動しているかをフィードバックすることが求められます。このことは、人事担当者の方の役割の一つと言えるのではないでしょうか。

「個人の自律」と「組織への帰属意識」はトレードオフで捉えるべきではないのです。私たちは、キャリア自律「だけ」を重視するわけではありません。これからの時代は「個人の自律」も大事だし、「組織への帰属意識」も大事なのです。両方大事だから「どっちか?」ではないのです。

これまで、「組織への帰属意識」ばかりを意識していたから、「個人の自律」が存在感を失い、組織のバランスが崩れている。だから、キャリア自律の導入なのです。社員に矛盾や違和感を抱かせずに両方進めるためにはどうしたらいいのか?これを真面目に考え抜き、実践し、その結果からさらに学び続ける。そのような冷静で真摯な姿勢がこれからの組織には求められるでしょう。

■危機感を持ってキャリア自律を進めるべき/清宮普美代 氏

キャリア自律を成長戦略として捉えよう

近年の企業のキャリア自律について、感じていることがあります。それは、キャリア自律を単なるサバイバル戦略にしてしまっていて、グロース戦略にしていないことです。企業としての成長機会として捉え、今こそグロース戦略にしていかなくてはなりません。

過去、産業革命は何百年に一度という単位で起こってきましたが、現代では数年に一度、あるいは毎年と言ってもいいほどの頻度で大変革が起こっている時代です。そこを乗り越えていくには、個人も組織も、単なる経験学習ではなく、ダブルループ学習やクリティカルシンキングといったように、前提を問い直したり、フレームを変えて学び続ける学習力がカギとなります。キャリア自律ができている人は、その学習力や思考力を持っています。企業のグロース戦略としては、そうした人を増やすことで組織学習は進んでいきます。

それをかなえるために、特定スキルのキャリア開発といった単発の研修ではなく、日常の中で、自己変革をうみ、継続して個人の成長を支えていくようにすることは、組織のパフォーマンス向上にもつながっていくはずです。そんな機会提供がいま求められているといえるでしょう。

■個の内側に葛藤を起こす学習がもたらすもの/岸本渉

「プチ越境」で自己の価値観を問い直す

会社がどれだけキャリア自律をうたっても、個人が向き合うべき目の前の仕事がすぐに変わることはありません。これもキャリア自律のパラドックスだと捉えています。それを受け入れた上で、個々がどのようにしていくべきかと考えられるようになることも大切だと考えています。

また、「あなたは何をやりたいですか?」と訊ねられたとき、答えに窮してしまう人は多いのではないでしょうか。組織に過剰適応してしまうと外側に意識が向きにくくなりますし、内側、つまりは自分自身の志は失われてしまいます。自分軸がなければ、キャリア自律は実現しません。自己を客観視したり、仲間づくりにつなげられたりといった「プチ越境」の機会を持つことは、「そもそも、自分は何をやりたかったのか?」をつかむきっかけになると考えています。

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【プロフィール】

神谷俊(かみや・しゅん)氏
2014年法政大学大学院経営組織研究科修士課程修了。2016年株式会社エスノグラファー創業。2020年4月より、リモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。面白法人カヤック、インターステラテクノロジズ株式会社等の人事顧問やアドバイザーも務める。

清宮普美代(せいみや・ふみよ)氏
株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役。NPO法人日本アクションラーニング協会代表。WIAL公認マスターALコーチ。ODネットワークジャパン理事。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士。外資系金融機関の人事責任者、社長室長を経て、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。

岸本渉(きしもとしょう)
株式会社ウィル・シード X-BorderFantasy室長。博報堂、ファーストリテイリングを経て、ウィル・シードに入社。コンサルタント・営業責任者を経て「越境で共創する、意志ある未来づくり」を志向する新プロジェクトX-Border Fantasyを立ち上げる。越境学習に可能性を見出し、様々な大企業リーダー変革の越境プロジェクトを企画・推進する。

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参考コラム
・セミナーレポート|石山恒貴(法政大学大学院政策創造研究科教授)
越境は個人の志(パーパス)をどう磨くか 

〈個〉を生かした社会、その先に広がる未来

”GIFT” 社会課題に向き合い、企業人に”市民感覚”と志を取り戻す 前編

”SHIFT” 会社起点から自分起点へ。真のキャリア自律に今、必要なこと

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