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三井物産人材開発に学ぶ!【中編】

どうすれば若手のリーダーシップを引き出せるのか?

三井物産人材開発様より人材開発部長の佐々木孝仁氏をお招きし、
役職にとらわれないリーダーシップをテーマに、 “今の事業”で活躍している中堅リーダーではなく、これから活躍してほしい若手社員のリーダーシップを引き出す施策・風土づくりについて語っていただきました。
オンラインセミナーの内容を、前・中・後編の3回に分けてご紹介。

今回は【中編】として、佐々木氏と弊社代表である瀬田の対談をお届けします。 シェアド・リーダーシップを組織に浸透させようとしたときの‘’本音‘’を掘り下げます。

| 組織ぐるみのシェアド・リーダーシップと個人のリーダーシップはどうつながる?

瀬田:シェアド・リーダーシップは組織の状態について定義されているので、それを個人のリーダーシップ開発につなげるのは少し距離があるようにも感じました。理想に向けてのファーストステップなのだろうなと。そこはプログラムをどのように位置づけ整理していますか?

佐々木:最も大事なことは、リーダーシップという考え方に対するパラダイムシフトです。権限や責任がリーダーシップを発揮するには必要だと思っている人が多い。しかし誰もがリーダーシップを発揮できるし、誰もがフォロワーシップを発揮できるのだ、ということを概念としてまず理解してもらうことで、「自分もリーダーシップを発揮していいんだ」という入り口に立ってもらうことが、大きな学びのポイントかなと考えています。

組織においてのインパクトとしては、誰かがリーダーシップを発揮した時に、他のメンバーが支えようというムード、考え方を広めることも大切だと思います。誰かがリーダーシップを発揮した時に組織がそれを支える、ひとりひとりがそれを支える、というパラダイムシフトを行うことがシェアド・リーダーシップを普及させるうえで一番重要です。

 

| 組織によってシェアド・リーダーシップの浸透のしやすさ、しにくさはある?

瀬田:グローバルなビジネス展開を行い事業も多岐にわたるため、さまざまなステークホルダーのなかで仕事をすすめていく多様で柔軟な組織があったとします。一方で上下のパワーバランスがはっきりしている、どちらかというとカリスマ型リーダーシップの方が多い旧来型の組織も存在しますよね。あくまで一般論として、総合商社はどちらのイメージも持ち合わせていると感じますが、実際どうでしょうか?また、会社によってシェアド・リーダーシップの浸透のしやすさ、しにくさもあるでしょうね。

佐々木:そうですね、もちろん会社による違いはあるでしょうね。浸透しにくい会社としては、リーダーシップを発揮する人達(旧パラダイム的な権限と責任に基づいたリーダーシップ発揮する人達)の年齢層が高く、リーダーシップはリーダーになってから発揮すればいいという古き良き会社ほど、パラダイムを崩すのは難しいと思います。

もう1つのご質問にお答えするならば、総合商社と言うと一般化しすぎかもしれませんが、少なくとも三井物産は個の主体性をとても大切にしています。担当者が事業を創り上げるにあたり、上司を活用し、経理・財務・法務のアドバイスももらい、ステークホルダーの渦の中心となりながらビジネスをつくっていくという文化が強いので、シェアド・リーダーシップは比較的フィットしやすい会社だと思います。ただ・・・

瀬田:ただ(笑)

佐々木:ただ(笑)若手社員であればあるほど、価値観が多様になってきているので、リーダーの役割に興味がないとか、ずっとプレーヤーでいたいのに何故リーダーシップを発揮する必要があるんですか、という人も増えてきているように思います。

だからこそ、はやい段階でリーダーシップはマネジメントポジションのものだけではないよ、役職者にだけ期待するものではないよということをしっかり伝えていかないと、若手社員ほど「マネジメントになるキャリアしかないのか、では辞めよう」ともなりうるのではないかと感じています。

瀬田:なるほど。事業部によっても文化はずいぶん違いますか?

佐々木:違うでしょうね。例えば、ICTを扱う事業だと小さなベンチャーが次々出てくるし、技術の変化も激しいので若手社員が活躍しやすい土壌があります。そういう事業部は経営を担うのは比較的若い世代が多く、シェアド・リーダーシップという概念も浸透しやすいのではないでしょうか。シェアド・リーダーシップが浸透しやすい条件というのは、若手社員でもリーダーシップを発揮していいのだと思えるかどうかの度合だと思います。ICT事業は、事業の特性上、デジタルネイティブな若手社員がアドバンテージを取れる分野であり、上司から「それいいね」と言ってもらいやすい土壌があるため、浸透しやすいのではないでしょうか。

今日お集まり頂いているみなさんに聞いてみたいのですが、専門性の強い技術畑、研究開発職の場合、実地経験や積み重ねてきたことがものを言う世界でもあって、若手社員が「まだまだ私なんてリーダーシップを発揮できません」と感じてしまうケースも多いのではないかな?と感じています。

瀬田:確かにそのような違いはありそうですね。ありがとうございます。

 

| D&Iとシェアド・リーダーシップの関係とは?

瀬田:先ほどダイバーシティのお話もでていましたね。最近ではダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という事も言われています。わたしたち日本人はついつい多様性(D)ばかり着目して、まず多様な人がいることが大切だ、となってしまいがちですよね。これは鶏が先か卵が先かという話になってしまいますが、実は包摂性(I)も大切で。多様な人がいれば自然と多様なアイディアが生まれてくるのかというと、必ずしもそうではない。つまりシェアド・リーダーシップがないと、組織には新しいアイディアは生まれないし、良い失敗もできない、そんな気がしているんです。

その意味で、御社でというと角が立つかもしれないですが、D&Iと言いながら必ずしも推進できていないかもしれない、そういう実態もあったりするんでしょうか?

佐々木:そうですね…ある意味では致し方ない面があるとは思います。政府から女性管理職の割合などを企業に求めるということもあるので、企業としてはダイバーシティの方に軸足を置かざるを得ない現実が構造的にあると思います。

ただ、ダイバーシティを推進すると多様な人が入ってくるので遠心力が働きがちになります。それぞれの人がやりたい事をやると広がりはでてくるんですが、一方で求心力が失われてしまうということがあるのではないかとも思います。求心力を高めることの1つが「インクルージョン」であり、インクルージョンを高めるために「シェアド・リーダーシップ」が機能すると思います。

1つは、リーダーシップの定義は「組織の成果を上げられる影響力」なので、組織の成果という目標を共有していることがシェアド・リーダーシップにおいても大切になります。もう1つの大切なポイントは、上司がフォロワーシップを発揮することです。そうなるとシェアド・リーダーシップの状態が作られていきます。上司がフォロワーシップを発揮すると、多様性がインクルーシブ(包摂)されていき、多様なメンバーがリーダーシップを発揮しやすい状態になるのではないかと考えます。インクルージョンを推進するためにはシェアド・リーダーシップ、なかでも上司が、リーダーシップのみならずフォロワーシップを発揮できる状態をどう実現できるかがカギになると思います。

 

| 上司のフォロワーシップ開発にたいしてはどのように取り組まれていますか? 

佐々木:取り組みとしては2つあります。1つは、月並みですが1on1を制度として導入しセットで研修を行っているのですが、メインメッセージは「部下のため」です。傾聴や質問といったテクニックだけではなく、上司が部下に対してフォロワーシップを発揮するような1on1を行ってもらう。そうすることで、部下が主役になり、部下がリーダーシップを発揮しやすい状況をつくる、ということをしています。

もう1つは、先ほど例にあげた研修で、研修参加者がリーダーシップを発揮するにあたって上司と面談してくださいねとしていて、上司がフォロワーシップを発揮しやすい土壌を用意しています。業務職(転勤のない職掌)のリーダーシップ研修においても、研修の最終発表に上司を呼び、上司が把握をして部下のアクションの後押しをしやすくする仕組みを作っています。そういった取り組みを通して、ダイレクトではないですが上司がフォロワーシップを取れるような仕掛けを行っています。

瀬田:実のところ1on1は続いていますか?

佐々木:最近はオンライン1on1が増えていますが、コロナ前はカフェテリアが1on1をやっている人たちで埋まっている状態でした。

本店で室長になった方には、人材開発から有無を言わさず1on1のための書籍が届いて(笑)1on1の後に研修を受けて、アセスメントを受けてまた1on1、そしてまた研修を受けるという一連の流れがパッケージになっています。それを何周か行うという、実践と研修がセットになっており、比較的続いている状態だと思います。ただ一部形骸化しているという声も聞くので、実態の調査をしないといけません。

瀬田:1on1を形骸化させず、有効に機能させるために目的をしっかり定めたうえで継続し発展させていく、というのはとても重要なことですね。

 

| リーダーシップ開発のHOWは渡しているのか?

瀬田:先ほどリーダーシップ開発のプログラムの事例をお話頂きました。経験学習はウィル・シードとしても共感しますし、研修と現場を行き来しながら学ぶスタイルも私たちも行っています。一方で、時々いただく声として、やり方などの武器は渡さないのか?というものがあります。リーダーシップという概念を理解した、さあ現場に戻って発揮してみてくださいというときに、HOWというのか、仕事の進め方や人の巻き込み方など、何らかの武器を渡さなくてよいのかということですが、御社の取り組みとしてなにかそういったものがあれば教えてください。

佐々木:とても良い質問ですね…ストレートに回答すると、ないですね。HOWはリーダーシップ研修のなかでは教えていないです。

なぜかというと、リーダーシップのWHY、目的をまずはしっかりとインプットして頂きたいのと、リーダーシップとは何か(WHAT)ということをインプットして頂くことに重きを置いています。更に、自分自身にフィットすることからリーダーシップの発揮を始めよう、というメッセージを発信しているため、ひとりひとりにとって有効なHOWは異なるという前提に立っています。

では、HOWは何もやっていないの?というと、研修の中では扱っていないのですが、リーダーシップ研修以外の機会に誘導しています。例えばE-Learningで必要なスキルを選択して学ぶことだったり、物産アカデミーというスキル型の研修を開講しているので、自分がリーダーシップを発揮するためにこんなスキルが欲しいというものがあれば、自分で選択して学べるようにしています。そういった自律的な学習を促すためのOSづくりという位置づけとしても、リーダーシップ研修を位置づけています。

瀬田:とても共感します。一方で、E-Learningや物産アカデミーのような取り組みでよく聞く課題の1つとして、スタンプラリーのように学ぶのが好きの人はどんどん受けるけれども、必要だけど緊急度の低い人は受けないということがあるようですが、どうですか。

佐々木:ありますね、あります。ただ大切なことは、いかに学びに対する意欲を喚起して、欲しいと思える知識を欲しいタイミングで学んでもらえるか。先ずは、その学ぶ姿勢を整えていくことが大切ですね。今は自律的キャリアということをお伝えしながら、自分で必要なことをどれだけ自分から学んでもらえるか、ということにフォーカスしています。

瀬田:なるほど。ということは、リーダーシップ開発のようなOSのプログラムから、いかに誘導していくかということにパワーをかけているということですね。

佐々木:そうですね、リーダーシップが1つのストーリラインだとすると、もう1つは自律的キャリアということを重視しています。自律的キャリアを紡ぐために、自分に必要な学習を受けましょう、と、リーダーシップと自律的キャリア、2つのOSを搭載しているイメージでしょうか。

 

いかがでしたでしょうか?次回は、参加者である人事の皆さんとのQ&Aです。


■登壇者プロフィール

三井物産人材開発株式会社 人材開発部長
佐々木孝仁

2005年に株式会社リンクアンドモチベーションに入社、その後教育系ベンチャー企業を経て、2009年に三井物産人材開発株式会社入社。三井物産・グループ会社向け研修の企画・開発・講師や、Harvard Business Schoolとの研修起ち上げ等を経験。2017年にアジア・大洋州三井物産㈱(在シンガポール)に出向し、アジア地域の三井物産海外現地法人社員向け育成体系の再構築を主導。
現在は、人材開発部門の責任者として、三井物産および三井物産グループの人材開発・組織開発を支援しつつ、東京大学との組織の包摂性に関する共同研究をリードしている。立教大学大学院経営学専攻(リーダーシップ開発コース)在学中。

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