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- 2026.09.14
- キャリア
―「AI時代の学びラボ」第4回レポート―OJTは「教える場」から 「ともに考える場」へ
生成AIを使えば、メールや資料、調査結果の整理など、一定水準のアウトプットを短時間でつくれるようになってきました。 では、アウトプットをつくることのハードルが下がるほど、職場における「育成」は必要なくなっていくのでしょうか。 全4回で開催してきた「AI時代の学びラボ」。第1回ではAIそのものを知り、AIとどう向き合うのか。第2回ではAIを伴走者として捉え、AIとどう学ぶのか。第3回ではアート思考を通じて、AIが答えを出す時代に人は何を担うのかを考えてきました。 最終回となる第4回では、それらの議論を日常の仕事へ戻し、「AI時代のOJTでは、何を、どのように育てるのか」を考えました。セミナーでは、AI時代のOJTを「教える場」から「ともに考える場」へ変えていくことを、一つの方向性として提示しました。 今回は、当日の講演から、人事・人材育成担当者の皆さまに特にお伝えしたい内容を抜粋してご紹介します。
■1.「AIを使う人を増やす」と「AIを前提に仕事を変える」は違う
企業の生成AI活用は急速に進んでいます。一方で、「AI活用」と一言で言っても、その状態にはいくつかの段階があります。
一つ目は、これまでの業務プロセスの中で、一人ひとりがAIを使う「個人利用」です。情報収集やメール作成、資料のたたき台、議事録作成など、既存業務を効率化する活用がここに当たります。
その先にあるのが、AIを前提として、人とAIの役割や情報の流れそのものを変える「ワークフローの再設計」です。さらに進めば、組織構造や意思決定、評価、人材要件、育成までを見直す「組織・HRMの再設計」へとつながっていきます。
つまり、AIを使う個人を増やすことと、AIを前提に仕事や組織を変えることは、同じではありません。
講演では、ウィル・シード自身の取り組みも例に挙げました。例えば、研修で集まったワークシートの内容を後からAIに分析させることと、「AIにどのような分析をさせたいのか」から逆算してワークシートそのものを設計することでは、仕事のつくり方が変わります。AIを既存業務に“足す”だけではなく、AIがいることを前提に仕事そのものを設計し直す。AI活用が進むほど、この視点が重要になります。
そして、仕事の進め方が変わるのであれば、その仕事を通じて人がどう育つのかも、当然変わっていくはずです。
■2.AIはすでに「最初に頼る相手」になっている
2026年度、ウィル・シードが3,362名の新入社員を対象に行った調査では、約99%が学生時代に生成AIを利用した経験を持っていました。ここでは詳しい調査結果には立ち入りませんが、育成を考える上で重要なのは、これから職場に入る人たちにとって、生成AIは「入社後に会社から与えられる新しいツール」ではないということです。
分からないことを聞く。考えを整理する。進め方を相談する。初期案を確認する。本来であれば身近な先輩やOJTトレーナーに持ち込まれていたことの一部を、すでにAIに相談することが当たり前になりつつあります。
比較的正解が明確な問題であれば、これは決して悪いことではありません。社内ルールや一般的な仕事の進め方など、これまでトレーナーが一つひとつ答えていたことも、AIに聞けば一定の答えを得られるようになっています。こうした領域まで、すべて人が教える必要はないでしょう。
一方で、気になるのは、正解が一つではない問題についても、AIが「最初に頼る相手」になりつつあることです。
例えば、人間関係の悩みやコミュニケーション上の難しさ。あるいは、複数の関係者がいて、それぞれの立場によって見えているものや問題の捉え方が違う場面です。こうした問題は、そもそも「何が問題なのか」自体が明確ではありません。複雑性が高く、自分でもうまく言葉にできないからこそ、誰かと話しながら捉えていく必要があります。しかし、そのような領域までAIに相談することが自然になれば、OJTトレーナーや上司に求められる役割も変わっていきます。AIより早く一般的な答えを返すことではありません。
AIが持ち得ない職場固有の文脈や、現場の一次情報、それぞれの立場から見えているものを一緒に扱い、「この状況をどう捉えるか」をともに考えることに、これからの育成者の重要な役割が残るのではないでしょうか。
■3.AIは「及第点」をつくれる。しかし、それだけでは仕事の「合格点」にはならない
AIによって、一定水準の成果物をつくることは容易になっています。講演では、この状態を「AIは及第点をつくることができる」と表現しました。
例えば、営業担当者がAIを使って提案書をつくる。文章としては整っていて、一般論としても間違っていない。会議資料をつくらせても、必要な情報が整理され、見た目にもきれいなものが出来上がる。成果物単体を見れば、「及第点」と呼べるものが短時間で出てくるようになっています。
ただ、それだけでは仕事は成立しません。
今回の顧客は、なぜこのテーマを相談しているのか。これまで、どのようなやり取りがあったのか。誰がこの資料を見るのか。この言葉を、この相手に本当に伝えるべきなのか。AIがつくった成果物を、こうした目的や文脈に照らして検証する必要があります。
そして最後には、「本当にこれでいくのか」を人が決めなければなりません。さらに、仕事における「合格点」は、成果物そのものだけで決まるわけではありません。自分の判断を相手に説明し、納得してもらい、周囲を巻き込み、実行に移してもらい、結果につなげる。そこまで含めて、初めて仕事は成立します。
だからこそ、AIが高品質なアウトプットをつくれるようになっても、人を育てる意味がなくなるわけではありません。むしろ、目的を捉える、文脈を読む、まだ言葉になっていないものに気づく、AIの出力を吟味する、最後に自分で判断する。こうした部分の重要性は相対的に高まっていくと考えています。
■4.まだ「言葉になっていないもの」を扱う
生成AIは、言語化され、形式知化された大量の情報をもとに、確からしい答えを返すことを得意とします。
一方で、実際の仕事では、人が考えていることのすべてが言葉になっているわけではありません。「なぜかこの案には共感できない」「何となく違和感がある」「本人も説明できないが、大事にしているものがある」。そうした、まだ十分に言葉になっていないものが、意思決定や人を動かす上で重要になることがあります。
第3回のアート思考では、「AIが答えを出すほど、人には問いや意味をつくる力が求められる」という議論がありました。第4回では、それを職場の仕事に置き直しました。
目の前にある情報だけではなく、まだ言葉になっていないものにも目を向け、「今回、本当に考えるべきことは何か」を問い直す。
複雑で、立場ごとに見えているものが違う問題ほど、この力が重要になります。AIが提示する一般的な答えをそのまま採用するのではなく、現場で起きていることや相手の反応を見ながら、何が本当の論点なのかを捉え直す。そこには、人だからこそ担える役割がまだ大きく残っています。
■5.AIを「回避」に使うか、「探索」に使うか
では、AIを使って仕事をしていれば、自然とこうした力が育つのでしょうか。そうとは限りません。講演では、AIの使い方を「回避」と「探索」という二つの方向から整理しました。
例えば、考える前にまずAIに答えを聞く。失敗しないよう、現場に出る前にAIで完成度を高め切る。一次情報に触れず、AIが整理した二次情報だけで理解したつもりになる。こうした使い方をすれば、仕事は効率化するかもしれません。しかし同時に、本人が試行錯誤する機会は減り、経験が「痩せる」可能性があります。
一方で、AIに複数の仮説を出させる。反論や別の可能性を求める。まず小さく試してみる。現実の反応とAIの仮説との違いを捉え、次の仮説をつくる。このように使えば、従来よりも低いコストで多くの仮説を試し、経験の量・幅・回転数を増やすこともできます。
AIを「回避」に使うのか、「探索」に使うのか。その違いが、経験の価値の差につながると考えます。
ここには、育成する側だけではなく、育つ本人側の「構え」も関係します。「できるだけ失敗せずに正解へ行きたい」「AIで効率化できればよい」という仕事観のままでは、育成者がどれだけ良い問いを投げかけても、経験から学ぶことは難しくなります。
だからこそ人事には、スキルを教えるだけではなく、経験を自分の成長へ変えていく構えそのものを育てる役割もあるのではないかと考えています。
■6.AI時代の「自分で考える」を捉え直す
AI時代にも、「自分で考える力」は重要です。ただし、ここでいう「自分で考える」を、AIを使わず、一人でゼロから答えを出すことと捉える必要はありません。
AIが生み出した情報や選択肢を材料に、仕事の目的と文脈を踏まえて吟味し、最後は自分で判断する。というプロセスを考えると捉えます。
講演では、この「考える」を四つに分けて整理しました。まず、目的を捉えること。「何をつくるのか」ではなく、「それによって誰に、どのような変化を起こしたいのか」を考えます。
次に、文脈を読むこと。今回の相手は誰なのか。これまでどんな経緯があるのか。今回固有の事情や制約は何なのかを捉えます。
そして、AIの出力を吟味すること。自分の仮説との違いは何か。何か違和感はないか。足りないものはないかを考えます。
最後に、自分で判断すること。何を採用し、何を捨て、どこまで修正し、最終的にどう進めるのかを決めます。
AIによってアウトプットを軽やかにつくれるからこそ、「仮説を持つ→生成する→目的・文脈に照らして検証する→判断する→また試す」という往復を、これまで以上に速く回せるようになります。
AI時代に育てたいのは、「AIなしで答えを出す力」ではなく、AIを使いながらも、自分の判断をつくれる力です。
■7.成果物を添削する前に、「どう考えてここにたどり着いたか」を聞く
このような「考える力」を、日常のOJTではどのように育てればよいのでしょうか。ここで、トレーナーの役割も変わります。
これまでトレーナーは、「分からないことを聞けば答えてくれる人」「仕事のやり方を教えてくれる人」という役割を多く担ってきました。しかし、一定の知識やマニュアルに書かれていることは、AIに聞けば一定の回答を得られるようになります。
だからといって、トレーナーが必要なくなるわけではありません。むしろ重要になるのは、本人がどのように考え、どのように判断したのかというプロセスに伴走することです。
本人の仮説、AIのアウトプット、実際に仕事をした結果を材料に、「なぜそう考えたのか」「どう判断したのか」を対話する。これが、AI時代の「ともに考える」OJTです。
ポイントは、成果物そのものをすぐに添削しないことです。AIで作られたきれいな資料がトレーナーのもとに届いても、その資料ができるまでに、本人がAIへどんな情報を入れ、何を出してもらい、どこに違和感を持ち、何を捨て、何を修正したのかは見えません。
そこで、「AIにはどんな前提を伝えたの?」「自分ではどんな仮説を持っていた?」「AIから出てきたものと、自分の考えは何が違った?」「何を採用して、何を捨てた?」「実際にやってみて、想定と何が違った?」と、成果物に至るプロセスを対話します。
■8.AIに閉じた思考を、対話によって「学び」として残す
ここで、講演中にもう一つお話ししたことがあります。私自身もAIを日常的に使う中で感じるのですが、AIとの仕事では、情報や思考が非常に速いスピードで流れていきます。
その場ではAIと何度もやりとりをしていても、「自分はなぜその案を採用したのか」「どこに違和感を持ったのか」「何を捨てたのか」といった判断の軌跡が、本人の中に必ずしも残るとは限りません。
だからこそ、育成者との対話には、AIとの間で流れていく思考を、一度外に出す役割があります。「なぜそう考えたのか」を言葉にする。目的や文脈とつなげ直す。現実との違いを振り返る。そこから、次にも使える判断軸を見つける。
そうすることで、一過性のAIとのやりとりを、本人の中に残る「経験のストック」へ変えていくことができます。
そして、この対話を成立させるためには、もう一つ重要な条件があります。本人が、「AIを使ってみたのですが……」「何となく違和感があるのですが、うまく説明できません」「まだ自分でも整理できていません」と言える関係であることです。
もし「AIを使った」と言うこと自体をためらう関係であれば、考えるプロセスは育成者との間に開かれず、AIの中だけで完結していきます。悩んだときの相談相手もAIだけになり、本人の迷いや未熟な仮説が職場に持ち込まれなくなれば、OJTとして学習を支援することも難しくなります。
AI時代における信頼関係は、AIの中に閉じてしまい得る本人の思考を、職場の対話へ開くための土台でもあります。
そのために、日頃から本人の存在を認めることや、育成の初期段階で「どんな成長を目指すのか」「何を相談してほしいのか」「どのように一緒に考えていくのか」をすり合わせることが重要になります
■9.「良いトレーナー」に任せるのではなく、組織で育てる
ここまで読むと、トレーナーに求めることが増えすぎるように感じるかもしれません。実際、目的や文脈を捉え、本人の思考に伴走し、経験を学びへ変えるところまで、一人のトレーナーだけに求めるのは現実的ではありません。
だからこそ、AI時代の育成は、改めて「組織で育てる」発想が重要になります。
人事は、考えるための型や基礎力を学ぶ機会をつくる。上司や周囲の先輩は、より高い視点や仕事の基準を示す。トレーナーは、日々の仕事の中で本人の思考プロセスに伴走する。本人自身も、AIを使いながら仮説を持ち、試し、経験から学ぶ。
それぞれが役割を持ち、考える力を総合的に育てていく必要があります。
AI時代のOJTは、トレーナーの「教え方」だけを改善すれば成立するものではないのかもしれません。本人がどんな経験をするのか。その経験をどう捉えるのか。誰と、何を振り返るのか。職場育成全体を、AIがいる前提で再設計していく必要があります。
■人事として、何を考えるか
AI時代の人材育成を考えるとき、生成AIの使い方を教えることはもちろん必要です。一方で、それだけでは十分ではありません。
AIが一定水準のアウトプットをつくれるようになるほど、私たちはむしろ、「何を経験させるのか」「何に気づいてほしいのか」「どんな問いを持たせるのか」「どこまで試させるのか」「経験から何を本人の中に残すのか」を、これまで以上に意図的に考える必要があります。
新人であれば、正解を当てることや失敗を避けることに偏った見方を一度「ほどき」、経験から自分を変えられる状態をつくる。若手であれば、仮説や試行錯誤を重ね、そこで得た経験を自分なりの判断軸へ「つむぐ」。さらに経験を重ねれば、その判断や経験を他者や組織、自分自身のキャリアへ「むすぶ」。
AIによってアウトプットをつくるハードルが下がるほど、成長や付加価値の差は、「経験との関わり方」に表れていくのではないでしょうか。
OJTを「教える場」から「ともに考える場」へ
これは、「教えることをやめる」という意味ではありません。仕事の目的や判断基準、必要な知識は、これまで通りきちんと伝える必要があります。
その上で、教え切ってからやらせるのではなく、AIを使い、仮説を持ち、判断し、実行するプロセスそのものを育成機会として捉える。本人と育成者が、AIのアウトプットと現実の結果を間に置きながら、「なぜそう考えたのか」をともに考える。そこに、AI時代のOJTの一つの形があると考えています。
4回の「AI時代の学びラボ」を通じて、改めて感じたことがあります。
AIが進化するほど、人が学ばなくてよくなるわけではありません。
むしろ、AIによって多くのことが簡単にできるようになるからこそ、人が何を経験し、どう考え、どのように意味づけ、それを自分自身の血肉へ変えていくのかを、これまで以上に丁寧に考える必要があります。
AIはこれからも急速に変化していきます。だからこそ、「AIで何ができるのか」を追い続けるだけではなく、変化する技術とともに働く中で、人が学ぶことにはどんな意味があるのか、人と人がともに働き、育ち合うことにはどんな価値があるのか。
ウィル・シードでも、引き続き皆さまと一緒に考えていきたいと思います。