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―「AI時代の学びラボ」第2回レポート―AIと学ぶ時代、職場の「対話」はどう変わるのか

生成AIの活用というと、文章作成や情報収集、資料作成など、「業務を効率化する」文脈で語られることが多くあります。 一方で、AIは人の仕事を代替するだけではなく、人が振り返る、考える、気づく、次の行動を決めるといった「学び」そのものを支える存在にもなり得るのではないでしょうか。 全4回で開催している「AI時代の学びラボ」。第1回では、AIの基本的な仕組みを知ることから、AIとの向き合い方、そしてAI時代に企業は何を育てるのかを考えました。 第2回のテーマは「AIと学ぶ」。 TONOME株式会社 代表の小笠原広大氏をお招きし、AI時代に改めて重要性が高まる「対話」を起点に、生成AIを人の内省や成長を支える「伴走者」として活用する可能性についてお話しいただきました。 今回は、当日の講演とディスカッションから、人事・人材育成担当者の皆さまに特にお伝えしたい内容を抜粋してご紹介します。

■1.1.AI時代だからこそ、「対話」の重要性が高まる

講演の前半で提示されたのは、一見すると少し逆説的な話でした。
・AIが普及するほど、人と人との「対話」が重要になる。

生成AIは、一定の知識や「正解らしいもの」を非常に早く提示してくれます。学生時代からAIを使うことが当たり前だった世代も、これから次々と職場に入ってきます。そうした環境では、「分からないことを上司に聞き、答えを教えてもらう」という関係だけで考えれば、上司や先輩が担ってきた役割の一部はAIへ移っていく可能性があります。
その一方で、むしろ重要になるのが、仕事の目的や文脈をすり合わせることです。
「何のためにこの仕事をするのか」「どのようなアウトプットを目指しているのか」「それは顧客にとってどんな意味があるのか」。AIによって「正解を教える上司」の価値の重心は徐々に下がり、本人が自ら考えて動けるよう、目的や文脈への「腹落ち」をつくる役割がより重要になっていく。さらにAIは、良くも悪くも「加速器」です。そもそもの目的や前提がずれたままAIを使えば、そのずれた状態のまま仕事も高速化してしまいます。

だからこそ、AIが仕事を速くするほど、仕事の前提を確認し、ともに考える「対話」が重要になるのです。

■2.生成AIの強みは、「一人ひとりに合わせた学び」をつくれること

では、その対話や学びにAIを加えると、何が変わるのでしょうか。
小笠原氏が生成AIの大きな特徴として挙げたのが、「完全個別カスタマイズにかかる限界コストが極端に低い」という点です。

通常の研修では、参加者全員にある程度共通した内容を届ける必要があります。しかし本来は、本人の仕事内容、置かれている環境、過去の経験、現在抱えている悩みまで踏まえてフィードバックできれば、より本人にとって意味のある学びになるはずです。
生成AIでは、こうした文脈となる情報を与えることで、一般論から一歩踏み込んだ、個別性の高いフィードバックを生成できます。
講演では、「1on1で部下が積極的に話してくれない」という相談を例に紹介されました。情報が少ない状態ではAIから返ってくるのは一般的な回答ですが、部下のキャリア、上司との関係性、過去の面談内容、実際の1on1記録などを加えると、「話したくないのではなく、何を話せばよいか分からないのではないか」「いきなりキャリアを聞くより、まず仕事の具体的な話から関係性をつくってはどうか」といった、その人の状況に沿った仮説や提案へ変わっていきます。

一律の知識を届けるだけではなく、本人が実際に経験したことを材料に、その人に合わせた振り返りを日常的につくるといったことが可能になります。

■3.AIは「採点者」ではなく、自分を見るための「鏡」になる

TONOMEでは、AIを「採点機」ではなく、「鏡として機能するAI」と捉えています。

「あなたの1on1は72点です」と評価するのではなく、自分では気づきにくい行動や傾向を映し出す存在としてAIを活用します。
講演では、小笠原氏自身がAIからマネジメントについてフィードバックを受けた例も紹介されました。メンバーへの期待が高いからこそ、複数の仕事を抱えさせすぎている可能性があることを指摘され、「確かに意識できていなかった」と気づいたといいます。一方で、小笠原氏はAIから返された内容をすべて受け入れているわけではありません。「これはずれている」と捨てるものもあれば、「これは確かに」と受け取るものもある。
つまり、AIが判断を代わるのではなく、自分自身を振り返るための「もう一つの視点」を増やしているとも言えます。

AIに答えを出してもらうのではなく、AIによって自分では見えていなかったものを見えるようにすることが可能です。

■4.研修を「学んで終わり」にしない – AI-OJTという考え方

もう一つ、講演で紹介されたのが「AI-OJT」という考え方です。

企業研修では、研修の場で新しい考え方やスキルを学んでも、その後の実践は現場に委ねられるケースが少なくありません。
例えば、研修で「傾聴が重要」と学ぶ。しかし実際の1on1で、「今の場面でもっと相手の背景を聞けたのではないか」「この問い方では、相手が答えにくかったのではないか」と自分自身で気づくことは簡単ではありません。そこで、研修で学ぶ → 現場で試す → AIから本人の実践に基づいたフィードバックを受ける → 振り返る → また試す、というサイクルをつくります。
一般論として学んだことが、AIによる個別フィードバックを介することで「自分自身の経験を通じた学び」に変わり、定着につながる可能性があります。
これは、AIによって研修そのものがなくなるという話ではありません。むしろ、集合研修で得た知識と、日常の仕事の中で起きている経験をどう結びつけるか。その間を埋める存在としてAIを活用する考え方です。
研修で学ぶ → 現場で試す → AIからフィードバックを受ける → 振り返る → また試す

研修を一つの「イベント」として捉えるのではなく、現場での実践まで含めた「学習プロセス」として捉え直す。AIは、その実現を支える一つの手段になり得ます。

■5.人と人との対話を、AIに置き換えるのか

ディスカッションでは、ウィル・シードから小笠原氏に「ここまでAIができるのであれば、そもそも1on1自体をAIが行えばよいのではないか。なぜ、人と人との対話を残すのでしょうか」と問いかけました。

小笠原氏の回答は明確でした。TONOMEが目指しているのは、人とAIの対話に置き換えることではなく、人と人との対話をより良くすることだといいます。1on1は、上司が一方的に部下を育成する場ではありません。二人でつくる対話だからこそ、マネージャーだけに対話の質や育成の責任を背負わせるのではなく、双方がより良い対話をつくれるよう支援する。AIは、その人間同士の営みに「補助線」を引く存在として位置づけられています。

AIの性能が上がれば、できることは増えていきます。
だからこそ、「できるからやる」のではなく、「何を実現したいからAIを使うのか」という設計思想が、これまで以上に問われるのかもしれません。

■6.「書くデータ」から「育つデータ」へ – 学びとHRMがつながる可能性

講演の最後では、AIによる学びが個人の成長支援だけにとどまらない可能性についても話が広がりました。
企業ではすでに、タレントマネジメントシステムやeラーニング、人材データベースなど、多くの仕組みが導入されています。一方で、「年に一度、キャリアについて入力してください」「自分の強みを書いてください」「目標や経験を更新してください」と社員自身に入力を求めることには、少なからず負担があります。
そこで小笠原氏が提示したのが、データを「書くもの」から「育つもの」へ変えるという考え方です。

日常の1on1や対話から、本人の強み、関心、キャリア志向などが少しずつ見えてくる。その情報を本人が確認しながら蓄積できれば、年に一度ゼロからプロフィールを書くのではなく、日常の経験と対話から、自分自身のプロフィールが育っていく可能性があります。これは、人材育成(HRD)と人材マネジメント(HRM)の境界を変えていく可能性もあります。

「データを集めるために社員に何かをさせる」のではなく、日常の仕事や対話から自然にデータが生まれ、そのデータが本人の学びにも、組織の人材活用にもつながっていく。AIによって「学びを支援する」ことの先には、人と組織の情報の持ち方そのものを変える可能性も見えてきます。

■7.人事として、何を考えるか

今回の講演を人材育成の観点から振り返ると、AI活用について、「どのAIツールを導入するか」「社員に生成AIの使い方をどう教えるか」だけではない問いが見えてきます。
AIは、一人ひとりに合わせたフィードバックを、日常的に届けられるようになりつつあります。だとすれば、人事が考えるべきことも、「何を教えるか」から、「日常の中で、どう学び続けられる状態をつくるか」へ広がっていくのではないでしょうか。

特に印象的だったのは、AIによる学びが高度になるほど、AIにすべてを任せるのではなく、「何を受け取り、何を捨てるか」という人間側の成熟も必要になるという点です。
自由にAIを使いこなして学べる人は、もともと内省する力やAIリテラシーが高い可能性があります。企業として考える際には、一部の使いこなせる人だけではなく、組織全体としてどう学びを底上げするかが論点になります。AIは、人に代わって学んでくれる存在ではありません。一方で、これまでであれば見過ごしていた自分の行動を映し、別の解釈を提示し、日常の経験を学びへ変えることを支援してくれる存在にはなり得ます。
AIを使って学ぶのではなく、AIとともに学ぶという感覚が、これからの学びには必要なのかもしれません。

そのとき、研修、OJT、1on1、タレントマネジメントといった、これまで別々に設計されてきた人材育成・人材マネジメントの仕組みも、少しずつつながり始めるのかもしれません。
ウィル・シードでは「AI時代の学びラボ」を通じて、AIというツールそのものだけではなく、AI時代に人と組織の学びをどう捉え直すのかを、引き続き皆さまと一緒に考えていきます。

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