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―「AI時代の学びラボ」第1回レポート― AI時代、企業は「何を育てる」のか

生成AIが急速に仕事へ入り込む中、人材育成の現場でも様々な問いが生まれています。 ウィル・シードが2026年度の新入社員約3,500名を対象に実施した調査では、99%が学生時代にAIを利用した経験があるという結果になりました。 少なくとも若手社員については、「AIを使わせるかどうか」を考える段階から、AIとともに仕事をすることを前提に、何を育てるのかを考える段階へ移りつつあります。 こうした問題意識から企画した、全4回の「AI時代の学びラボ」。 第1回では、株式会社zero to one代表取締役CEOの竹川隆司氏をお招きし、AIの基本的な仕組みから、AIとの向き合い方、AI時代の学び、そして企業としての育成のあり方までお話しいただきました。 今回は、当日の講演から、人事・人材育成担当者の皆さまに特にお伝えしたい内容を抜粋してご紹介します。

■1.AIは何をしているのか。仕組みを知ると「人間の役割」が見えてくる

講演の前半では、まずAIの基本的な仕組みについて解説がありました。竹川氏はAIをシンプルに捉えるために、「何を入力し、中で何が行われ、何が出力されるのか」という構造から説明します。
たとえば教師あり学習では、データを入力し、そこから「分類」や「連続値」を予測します。
・犬と猫の画像を分類する。
・電力使用量や不動産価格を予測する。
・営業活動の中で「この顧客は受注可能性が高そうだ」と判断する。
扱うデータやモデルは異なりますが、AIが行っていることの基本には「予測」があります。

講演では、実際に身長と体重のデータを用いた簡単なプログラムにも触れながら、AIが予測と修正を繰り返しながら「学習」していく仕組みを体験しました。さらに、画像認識など複雑な情報になると、人間自身もうまく言語化できない特徴をディープラーニングによって抽出するようになります。生成AIの基盤となっている言語モデルも、膨大な文章をもとに、その文脈において次に現れる可能性の高い言葉を予測しているという点では、こうしたAIの延長線上にあります。

では、AIがこれほど多くのことを予測できるようになったとき、人間には何が残るのでしょうか。

■2.AIだけに任せられない3つのこと――「目的・データ・判断」

竹川氏は、AIを活用する上で、人間側が考えなければならないことを大きく3つに整理しました。
一つ目は、「何を実現したいのか」。
二つ目は、「そのために、何をAIに学ばせるのか」。
三つ目は、「出てきた答えを、実際に使えるのか」です。

例えば、身長から体重を予測するとしても、そもそも何のために予測するのかを決めるのは人間です。また、身長だけを使うのか、年齢や運動量なども加えるのか。どのデータをAIに学ばせるのかも、人間が考える必要があります。そして最も重要なのが、出てきた結果をどう扱うかです。
同じ予測精度であっても、参考情報として表示するのか、商品レコメンドに使うのか、医療など重要な判断に使うのかによって、求められる精度や倫理、個人情報への配慮は大きく異なります。

「AIが答えを出せること」と、「その答えを使ってよいこと」は同じではありません。最終的なジャッジメントは、人が担う必要があります。さらに、その判断の上位には「そもそも何のためにやるのか」という目的があります。

講演では、自動運転を例に、WaymoとUberのミッション・ビジョンの違いが紹介されました。
一見すると、自動運転領域で競合する2社。しかし、何を実現しようとしている会社なのかまで遡れば、自動運転という技術そのものは「目的」ではなく「手段」として位置づけ直すことができます。AIという新しい手段に目を奪われるほど、自社は何を目指しているのか、何を実現したいのかを共有することが重要になるという指摘です。

人材育成を考える際にも、「AIスキルを身につける」ことだけを目的にするのではなく、AIを使って何を実現してほしいのかまで考える必要がありそうです。

■3.AI時代に求められるのは、「正解のない中で学び続けること」

講演後半では、テーマが「AI時代の学び」へ移ります。
竹川氏が参加者に投げかけたのが、「現在の業務に必要なスキルセットを持っているかどうかは、誰の責任だと思いますか?」という問いでした。参加者からは「自分自身」という回答が多く寄せられました。
竹川氏は、米国でも同様の問いに対して大多数が「自分自身の責任」と答えていることや、経済産業省のDXリテラシー標準でも「自身の責任で学び続けること」が重視されていることを紹介しました。

AIをはじめとしたテクノロジーは、急速に変化しています。現在必要とされている知識やスキルを一度定義しても、その内容自体がすぐに変化していく可能性があります。だからこそ重要なのが、特定の知識を持っていることだけではなく、自ら学び続けられることです。
講演では、その基本となる学習サイクルとして、「Learn → Try → Reflect → Improve」が紹介されました。
学ぶ。小さくても試してみる。成功・失敗から振り返る。そして、次の行動を修正する。
このサイクルを、変化に合わせて高速で回していくことが重要だと竹川氏は話します。

興味深いのは、これはAI自身の「学習」とも似ているという指摘です。
今回紹介したAI(教師あり学習)ではも、予測結果と正解データとの差をもとにモデルを修正しながら学習します。ただし、人間の学びには、AIとの大きな違いがあります。今回の例でもAIには学習の際に「正解データ」が与えられましたすが、私たちの仕事ではには、必ずしも誰かが正解を用意してくれるわけではありません。
だからこそ、目的を自分で定める。分からなければ自分で調べる。AIにも聞く。出てきた答えを鵜呑みにせず疑ってみる。小さく試す。結果を見て修正する。必要であれば他者にも聞き、また試す。
こうした基本動作そのものが、AI時代の学びになっていくという話がありました。

AI時代に新しい知識を何か一つ身につければよいのではなく、変化に合わせて自分自身を更新し続けられる人をどう育てるのか。
これは、人事にとって重要なテーマになりそうです。

■4.「本人が学ぶ」だけではない。企業は学習の道筋をどうつくるか

一方で、竹川氏は「社員本人が学び続ければよい」とだけ話していたわけではありません。
企業側の役割として挙げられたのが、「社員が学習サイクルを回しやすい環境をつくること」そして、「ある程度の“正解”や目指す方向を企業側から示すこと」です。

その具体例として、東北電力のデジタル人財育成の取り組みについて、同社の統合報告書やインタビュー記事などをもとに紹介がありました。求める人材像をレベルに分け、それぞれの段階に応じて、育成する人財像やスキル、具体的な施策まで紐づけていく。

そうすることで社員側も、「自分はいまどこにいるのか」「まず何を学べばよいのか」「次にどこを目指せばよいのか」を把握しやすくなります。
さらに、学習をオンライン講座や資格取得だけで終わらせるのではなく、レベルが上がれば実際のプロジェクトなどで試す。そして、その実践結果を次の学びへつなげる。学習と実践を往復できる道筋を企業側がつくることが重要ではないかとのお話でした。
竹川氏が携わったデータリテラシーの教育では、育成する人財像をもとに、東北電力とzero to one、東北大学で新たにプログラムを開発した事例も紹介されました。

既存の研修を当てはめるのではなく、求める人材像や学習の道筋から逆算して、必要な学習機会を設計する。
AI時代の企業内教育を考える上で、一つの示唆になりそうです。

■5.AIを「学ぶ」ことより、AIを使って何を実現するか

講演の最後に紹介されたのが、Domino’s Pizzaの事例です。
竹川氏が示したデータでは、ある期間の株式リターンにおいて、Domino’s PizzaがAmazonやApple、Alphabetを上回っていました。

竹川氏が伝えたかったのは、「大量のデータを持っているテクノロジー企業だけが勝つわけではない」ということです。データやAIを、実際の顧客体験やビジネスの改善に結びつけられる企業も成果を上げることができる。
Domino’s Pizzaは、「ピザは顧客の手元に届いて初めて意味がある」という考えのもと、注文やデリバリー体験を徹底的に改善してきた例として紹介されました。

AIそのものを学ぶことがゴールなのではありません。
AIを使って、自分たちの仕事や顧客への価値をどう変えるのか。
そして、そのために必要なことを、自ら学び、試し、修正し続ける。
竹川氏は講演の最後に、「AIとともに学び続けること」、そして「そのサイクルを高速で回すこと」が重要なのではないかと締めくくりました。

■6.人事として、何を考えるか

今回の講演を人材育成の観点から振り返ると、「AI研修を実施するべきか」という個別施策だけではなく、もう少し大きな問いが見えてきます。AIの進化によって、必要な知識やスキルは今後も変わっていきます。
その中で企業は、「何を社員に教えるのか」だけではなく、「社員が自ら学び、試し、修正し続けられる状態をどうつくるのか」まで考えていく必要があるのではないでしょうか。
その際には、社員本人に主体的な学びを求めるだけではなく、求める人材像やレベルをどう定めるのか。どのような学習の道筋を示すのか。学んだことをどこで実践させるのか。そしてAIを、既存の研修やOJT、職場での学びにどう組み込むのか。といった企業側の設計も問われます。

ウィル・シードでは「AI時代の学びラボ」を通じて、AIというツールそのものだけではなく、AI時代に人と組織の学びをどう捉え直すのかを、今後も皆さまと一緒に考えていきます。

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