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ソニーグループにおける宇宙感動体験事業の創出事例

業界や企業の枠組みを越えて新しい価値を創造する「コ・クリエーション」の取り組みが注目される一方で、そのマネジメントの課題が指摘されています。本セミナーでは、コ・クリエーションに関わる研究や実践に取り組む3名のゲストを迎え、異業種チームによるアイディア創造について考えを深めました。

異業種チームによるアイディア創造を考える

2022年12月10日(土)、「コ・クリエーションを科学する〜ソニーグループにおける宇宙感動体験事業の創出事例から〜」と題したセミナーを行いました。初めに、東京大学准教授の稲水伸行氏、ベネッセ教育総合研究所研究員の佐藤徳紀氏が、異業種チームによるアイディア創造に関する共同研究の成果を発表しました。続いて、コ・クリエーションの事例として、ソニーグループの本村謙介氏が宇宙感動体験事業の創出プロセスを発表しました。


社会ネットワーク論から見るコ・クリエーションの課題

稲水氏は、理論的な背景として、社会ネットワーク論の見地からコ・クリエーションの課題について説明しました。

稲水伸行氏の発表の要約

近年、働き方が大きく変化してプロジェクト型の事業が一般化したことで、組織のあり方が、従来のヒエラルキー型からネットワーク型へと変わりつつあります。ネットワーク型の組織を捉える社会ネットワーク論には、4つの重要な概念があります。

  • 強い紐帯(強いつながりの関係)
  • 弱い紐帯(弱いつながりの関係)
  • 構造的空隙(集団間のつながりがない状態)
  • 閉鎖性(緊密なネットワーク)

他方、創造性のプロセスは「アイディアジャーニー」と呼ばれ、4つのフェーズで表されます。

  • 生成(様々なアイディアを生み出して選択する)
  • 精緻化(アイディアを明確に発展させる)
  • 擁護(アイディアを宣伝し、実行に向けたリソースや政治力を得る)
  • 実行(アイディアを具体的な成果に転換して広める)

アイディアジャーニーの各フェーズを効果的に進めるためには、先に示した4つのネットワークのうち、どれが適しているのでしょうか。まず、「生成」では、柔軟で多角的な視点からアイディアを出す必要があるため、数多くの「弱い紐帯」を持つことが効果的ですが、「精緻化」で率直にフィードバックをし合うためには、「強い紐帯」による信頼関係が重要となるでしょう。一方、「擁護」のフェーズで、異なる部署や企業にアイディアを広げるためには「構造的空隙」を橋渡しすることが必要になり、最後に、一枚岩となって「実行」するためには、「閉鎖性」のある組織が適していると考えられます。

そのように、創造性の各フェーズで異なるネットワークが求められることを、「アイディアジャーニーに潜むジレンマ」と呼んでいます。コ・クリエーションを発展させるためには、そうした課題を乗り越える必要があるでしょう。

異業種チームの定性的・定量的分析

続いて、佐藤徳紀氏が、異業種チームの実験プログラムに基づく研究成果を発表しました。

佐藤徳紀氏の発表の要約

オンライン上で、異業種の人たちよるチームがアイディアを共創する実験を行いました。この実験では、異業種の2社の社員が混在した3つのチームをつくり、同じテーマで新規事業を検討してもらい、その創造性の評価と、組織内の関係性の変化などを調べました。その結果、次の3つの事実が確認されました。

事実1 創造的プロセスは2つあり、創造性の他者評価は同じ

創造性の評価が同程度だった2つのチームの創造プロセスを比較すると、一方は最初にブレインストーミングで多くのアイディアを出してから絞り込んだのに対し、もう一方は、少ないアイディアを深掘りし、統合して進めました。先行研究から、オンライン下のチームでの創造的プロセスには少なくとも2通りあると考えられ、前者は「進化論モデル」、後者は「代替モデル」と呼ばれるプロセスとの類似性が確認できました。

事実2 代替モデルは、アイディア創造のジレンマを乗り越えやすい

代替モデルのチームは、初期段階からお互いのアイディアを評価、承認し合うことで心理的安全性を高め、相互理解を深めていました。そのプロセスがアイディアの深掘りや統合を支え、お互いのアイディアを補完し合う形で創造性のジレンマを乗り越えていました。

事実3 アイディア磨きの継続には、たたき台やチーム外との議論が重要

代替モデルのチームは、初期段階でコンセプトを決定し、たたき台となる資料を準備しました。これは、「創造的統合性のためには、『たたき台』が必要」という先行研究と一致します。さらに、チーム外の専門家との議論を機に、チーム内の会話量が増加しました。それらのことから、アイディアの変化を持続させるためには、チーム外の意見を得る機会が重要と分かりました。

3つの事実の一般化が可能であるかを確かめるため、現在も追加調査を進めています。

ソニーグループにおける宇宙感動体験事業の創出事例

本村謙介氏は、コ・クリーションの実践として、ソニーグループの宇宙感動体験事業について発表しました。

本村謙介氏の発表の要約

宇宙感動体験事業の取り組みを通じて、宇宙の視点を解放して感動体験・表現体験を提供し、地球人としての価値観が世界中で共有されて新しい社会の実現に貢献できればと考えています。その取り組みとして、JAXAの支援を得ながら、ソニーのカメラを搭載した人工衛星を東京大学と共同開発して、それをユーザーが遠隔操作をして地球や宇宙を撮影できる仕組みづくりに取り組んでいます。

事業の立ち上げでは、様々な専門性を備えるメンバーがつながってオープンイノベーションのネットワークを構築し、ボトムアップ活動で社内のコ・ワーキングスペースなどを拠点として議論を重ねて形作ってきました。そのプロセスの経験を通じて、新規事業は、多様なコミュニティや環境との相互作用により生まれると実感しています。

ただ、すぐに新規事業立ち上げが実現したわけではありません。アンテナを高く保ち、時代の潮目が訪れるのを待つ日々が、数年間続きました。その間も、考え方や価値観の異なるメンバーが同じ方向性でブラッシュアップを続けられたのは、「プロジェクトのビジョンに、大きな社会的価値がある」という思いを根底で共有していたからだと思います。私たちの実践を通じて、コ・クリエーションでは、事業目的の達成を目指すとともに、プロセスそのものを楽しんで自己の成長に喜びを感じることも大切だと感じています。

クロージング

3名の発表に対して質疑応答が行われた後、ウィル・シードHRD事業部長の小林陶哉が次のようにあいさつをしました。

これから時代に求められるコ・クリエーションによる創造プロセスを考えると、科学的な視点に基づき、これまで以上に高い解像度でクリエイティビティを捉える必要があると分かりました。それと同時に、宇宙感動体験事業の事例から分かるように、「夢」のようなものを大切にしてメンバーのつながりを強めることの大切さも感じました。本日はとても貴重なお話をありがとうございました。


登壇者プロフィール

  • 稲水伸行氏
    東京大学大学院 経済学研究科 准教授
    2003年東京大学経済学部卒業。2008年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士 (経済学)(東京大学、2008年)。2005〜2008年日本学術振興会特別研究員(DC1)、東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員、同特任助教、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授を経て、2016年より現職。企業との共同研究によるオフィス学プロジェクトを主宰。主著に、『流動化する組織の意思決定』(東京大学出版会、2014年。第31回組織学会高宮賞著書部門受賞)。
  • 佐藤徳紀氏
    株式会社ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所研究員
    2012年(株)ベネッセコーポレーションに入社後、中学生向けの理科教科の教材開発を担当。2016年6月から初等中等領域の調査を担当後、情報企画室、教育研究企画室の研究員に着任。専門は電気工学、エネルギー・環境教育、理科教育、博士(工学)。
  • 本村謙介氏
    ソニーグループ株式会社 事業開発プラットフォーム 新規事業探索部門 宇宙エンタテインメント推進室プロジェクト推進オフィサー。1992年東京工業大学工学部電気電子工学科卒業、同年ソニー株式会社入社。映像開発部門に配属し、新型映像表示装置の開発やホームネットワーク開発設計に携わる。 2020年宇宙エンタテインメント準備室室長に就任し、同室にて宇宙感動体験事業の立ち上げを開始。2021年宇宙感動体験事業のプロジェクト推進オフィサーに就任し、現在に至る。

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