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今、リーダーに必要なリフレクションと越境学習の親和性

変化の激しいこれからの時代、正解はひとつではありません。個人も組織も視座を広げながら自らをアップデートし続けることが求められます。その機会として注目が集まる越境学習ですが、学習の効果を上げるために欠かせないもの、それは「リフレクション(内省)」です。

今、リーダーに必要なリフレクションと越境学習の親和性

2022年11月21日(月)、熊平美香氏(一般社団法人21世紀学び研究所代表)をお招きし、セミナー「もっと知りたい!!越境学習 第2回」をオンラインにて開催しました。経済産業省が定める「社会人基礎力」に「リフレクション」を盛り込む提案を行うなど、日本におけるリフレクションの第一人者であり、数多くのリーダー育成に携わってきた熊平氏に、リフレクションを通じて自分をアップデートするためのポイントや越境学習との親和性について伺いました。


リーダーに求められる3つの基礎力

経済産業省が定義する「人生100年時代の社会人基礎力」では、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力を重視しています。リフレクションは、これらの能力を発揮するためにも欠かせないものとして位置づけられるようになりました。

例えば「一歩踏み出す」とは、たびたび見聞きする言葉ではありますが、踏み出したのちに行動や結果を振り返りながら、次のアクションを考えていく。つまり、リフレクションは、自律型人材になるためになくてはならないステップです。

「自ら定めた目的を実現するために学び続ける人」、これが自律型人材の定義のひとつです。ありたい姿と現実のギャップを埋めるために、自分ととことん向き合ったり、境界線を超えた学びを通して、やがてはリーダーとして自分自身とチームの潜在的な能力を開花させていくことでしょう。そうなるための機会として、越境学習には、多様なリフレクションの機会が含まれていると感じています。

ここで改めて「リーダーに求められる3つの基礎力」について、越境学習と紐づけながら考えていきたいと思います。

  1. メタ認知
    越境学習では未知の経験をするわけですが、それをどのように自分が捉えているかだったり、捉えている自分を俯瞰してみたりといったように、「認知していることを認知すること」を指します。
  2. リフレクション
    自分を客観的かつ批判的に振り返る行為。「批判」というワードは、日本ではポジティブに受け止められにくいのですが、「多面的・多角的に捉える」と置き換えると、そのニュアンスが伝わりやすいかもしれません。
  3. 対話
    ここで指す「対話」とは、「自己内省」を前提としたもの。自分の従来の評価判断を保留にして多様な世界に共感することで、自分の枠の外に出ることが可能になります。

メタ認知|「意見」「経験」「感情」「価値観」に、自覚的になる

「認知」とは、人間が何かを知る・理解する・学ぶといった過程のことですが、自分が何かをやっているとき、まるで第三者のように自分自身を眺められる力、つまりは「メタ認知」ができれば、学びの質や効果はさらに向上します。

メタ認知力を高めるために、「認知の4点セット」というフレームワークをつくりました。

  • 意見|あなたの意見
  • 経験|その意見に関連する過去の経験(知っていることも含む)は何ですか?
  • 感情|その経験には、どのような感情が紐づいていますか?
  • 価値観|そこから見えてくる、あなたが大切にしている価値観は何ですか?

人が「意見」を持つとき、その背景には「経験」を通して知っている物事があります。実体験はもちろんのこと、読んだ本や他者から聞いた話で知ったことをはじめ、あらゆる情報源が含まれています。ここではそれらを総称して「経験」としています。

「経験」の記憶は、「感情」の記憶でもあります。それはポジティブなものだったのか、それともネガティブなものだったのか、「経験」には必ず「感情」が紐づいています。

「意見」「経験」「感情」を俯瞰すると、その人なりの判断の尺度となるモノの見方や「価値観」が立ち現れてきて、リフレクションが容易に行えるようになります。活用方法は後述しますが、この「認知の4点セット」は、越境学習にも有効です。

やや堅苦しい感じがするかもしれませんが、実は誰もが普段から「認知の4点セット」に沿って物事を考えているのです。

例えば、同じ犬を見たとき、「かわいい」と思う人もいれば、「怖い」と感じる人もいます。前者は「犬が好き」で、その理由は「犬を飼ったことがある」といった楽しい経験を持つからであり、喜びや安心感が犬に紐づいている。一方、後者は「犬が苦手」で、犬にまつわるネガティブな経験から苦手意識や恐怖心を抱いている。

このように、私たちの「意見」は、必ず「経験」を通して形成された「感情」や「価値観」によって生まれています。ここに自覚的になることが「メタ認知」というわけです。

リフレクション|ダイナミックで、未来を創造する力の源に

リフレクションの重要性が叫ばれるようになった背景には、時代や社会の激しい変化があります。そもそも、ある物事に対して従来のやり方や見方をそのまま適用できるのであれば、リフレクションは必要ないのです。要因が複雑に絡み合う課題を解決していくには、何か新しい視点やかたちをつくっていかねばなりません。リフレクションはこれまでのやり方や考え方の枠を外し、批判的なスタンスで、経験から学び、考えて行動することができるきっかけとなります。

リフレクションの日本語は「内省」ですが、どこか内向きで静かなイメージがあります。しかし実際はダイナミックで、未来を創造する力なのです。

では、何を、どのようにリフレクションしていくのか。「結果」の振り返りと、その結果を導いた「行動」の振り返りは、普段から誰もがやっていることと思います。しかし、「行動」の手前には「こうすればうまくいくはずだ」と考えた「思考」があり、その手前では「感情」が非常に大きく作用していますので、「感情」のリフレクションも欠かせません。

「何かをやりたい、実現させたい」と思ったら、「どうすれば実現できるか」という問いを立てて思考を巡らせます。「やりたくないなあ」と思ったら、「どうすれば逃げられるか」という問いが立って、そこで思考を巡らせるといったように、実は「感情」が「行動」を設定する役割を果たしています。

さらに「感情」の手前には「価値観」が存在しています。価値観とは、いわばモノの見方。これが「感情」を動かし、「思考」「行動」「結果」へとつながっていますから、深いリフレクションをしていくには、この「価値観」まで掘り下げることがとても重要ということになります。

越境学習においても、「何を考えたのか、何を感じたのか、なぜそう思ったのか、自分は何を大切にしているからそのように思ったのか」というところまで振り返ることができると、学びは深化していきます。

対話|「違和感」から開かれる学びの扉

ここで言う「対話」とは、他者と意見や思いを交わし合うだけでなく、自己内省をして、評価判断を保留にして、他者に共感する聴き方・話し方を行うということになります。自分の意見と合わない人と話しているとき、「この人とは考えが合わない」といったようにジャッジしてしまうのでなく、「この人の世界には、何があるのだろう?」と、共感してみるということです。これができると多様な世界に共感できて、自分の枠の外に出て行くことができる。越境学習においても、「対話」は重要です。

先に「認知の4点セット」をあげましたが、たとえ相手の意見が自分とは真逆だったとしても、相手なりの「経験」「感情」「価値観」にフォーカスすることが「対話」のポイントです。

他者の意見を聞いてそれを理解しようとするとき、実は自分の経験に当てはめて解釈し、理解したつもりになっていることが往々にしてあるものです。しかし、相手の世界には違うものがある可能性があります。また、「この人の言うことが理解できない」ときに何が起きているかといえば、相手の意見を理解するために必要な経験を自分が持ち合わせていないからということもあります。

違和感は、学びの扉だと考えてみてください。越境学習では、違和感があちらこちらにあるものですが、その扉を開けて向こう側の世界をのぞいてみることは、「対話」のアプローチと同じなのです。

未知の世界に飛び込んで、器を拡大していこう

ここからは、あらためて越境体験とリフレクションの関係について考えていきたいと思います。

まずは越境体験前のメンタルモデルについてご説明します。メンタルモデルは、一人ひとりが持っている、世の中や人、物事に対する前提のことで、経験を通じて形成されていきます。過去の経験から何かしらの事実や経験を選び、それに意味づけをして判断の尺度を形成します。判断の尺度が出来上がると、私たちはそのレンズで世の中を眺めたり、判断して行動したり、意見を述べたりということをしています。先に示した「認知の4点セット」は、自分のメンタルモデルに気づくツールにもなります。

越境では全く未知の世界に出合うことになりますが、自分のメンタルモデルに気づきやすいのです。その背景には、越境先で感じた「驚き」「違和感」があるはず。ただ驚いて終わるのではなく、「なぜ、自分は驚いているのか? どこに違和感があるのか?」と、リフレクションしてみることは、自分自身のありようを知ることにもなります。

もしかすると、未知の世界に触れたことで、自分のメンタルモデルがアップデートされるかもしれない。いわば、その人の「器の拡大」ですね。これこそが、越境学習のいちばんの醍醐味だと思います。

自分の境界線の外側にある世界を学んで、リフレクションや対話を行うことは、自分を深く知る機会になりますし、かつ、多面的・多角的な物の見方を手に入れることが可能になります。特に最近は、スキルや知識を増やすための学び方ではなくて、自己変容を伴う学びが問題を解決する際に不可欠だといわれています。リーダーになるには、やはり器を大きくしていかなければ、今の時代に求められていることを引き受けることは難しくなっているのではないでしょうか。そういった意味でも、越境学習、そしてリフレクションと対話を、器を大きくしていくためのチャンスと捉えていただければと感じています。

今こそ知識やスキルを得る学びに加え、自己変容を伴う学びを

知識やスキルがあればこそ乗り越えられる課題が今もあることは事実です。そのための学びも大切ではあるのですが、誰も解決したことがない問題に対しては、知識やスキルが用意されているわけではありません。そこで、自己変容を伴う学びが出てくるわけですが、なぜ、変容を伴うべきなのか。

言ってしまえば「課題を生み出した思考のままでいては、課題は解決できない」ということです。例えば、持続可能な経済の発展というテーマのもとでは、資本主義のあり方から見直すべきたといった意見もありますが、人びとの物事の見方や行動が変わらない限り、結果は変えられない。だからこそ、現代社会が直面している多くのテーマは、我々自身の変容を伴う問題解決が不可欠になってきているというわけです。同じことは、企業の課題を解決する際にも言えるのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、知識やスキルを得る学びはこれからも必要。それにプラスして新しい学びを手に入れてもらえたらと考えています。

反省ではなく、リフレクション

越境先では、うまくいかないことがあって当然です。となると、反省などのネガティブな感情が浮かびやすいもの。残念な気持ちだったり、申し訳なさだったり、いろいろあると思います。しかし、リフレクションでは、うまくいった・いかなかったはどちらでもよくて、経験そのものに意識を向けることが肝心です。

挑戦するからこそ失敗するのですから、本来はそこを称賛すべき。日本は良い結果が出せたら良い挑戦だったと捉えられがちですけれど……。越境学習では、失敗も実にたくさんありますし、それこそが学びの種になるのです。「反省ではなく、リフレクション」を、心にとめておいてもらえたら。そして、変容していく自己を楽しんでもらえたらと思っています。


スピーカー 熊平美香(くまひら・みか)氏

一般社団法人21世紀学び研究所代表。ハーバード大学経営大学院にてMBA取得後、日本マクドナルド創業者・藤田田氏の元で新規事業立ち上げに携わる。独立後、GE「学習する組織」リーダー養成プログラム開発者と協働でコンサルティング活動を開始。2014年、昭和女子大学キャリアカレッジ学院長に就任。2015年、21世紀学び研究所を設立し、企業と共にニッポンの「学ぶ力」を育てる取り組みを開始。経済産業省が2018年に改定した「社会人基礎力」に「リフレクション」を盛り込む提案を行った。文部科学省中央教育審議会委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員などを務める。著書に『フレクション 自己とチームの成長を加速する内省の技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等。


セミナー後記/株式会社ウィル・シード ジェネレーター 中川孝晃

熊平さんのお話から、非常にポジティブなエネルギーをいただきました。
余談になりますが、ウィル・シードでは創業以来「失敗、おめでとう」というキーワードを大切にしてきました。失敗を前向きに捉えるとはおかしな感じがするかもしれませんが、まさに熊平さんがおっしゃるように、失敗こそが学びのチャンスだと考えているからです。
弊社では、多様な越境学習のプログラムを提供していますが、多くの方にこうした越境機会に臆せずチャレンジし、リフレクションを通じて自身をアップデートしていただけたらと願っています。

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