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組織で育てるOJTが、人も組織も育てる

働き方改革やリモートワークの導入など、職場を取り巻く環境が大きく変化する中、新入社員育成の難しさが浮き彫りになっています。これまでは「職場」という空間で自然と成立していた新人育成ですが、これから、いかに変えていけばいいのでしょうか。

困難になった新入社員育成。「協働して育てる体制づくり」が鍵

「新入社員の様子が見えづらい中で、なんとなく指導してしまっている」「土台となる関係性が希薄で、育成がうまくいかない」……。コロナ禍以降の新入社員教育について、こうした悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

これを解決するには、OJTトレーナー個人の指導力を高めるだけではなく、育成体制そのものを見直し、より生産性の高い育成環境を構築していく必要があると、ウィル・シードは考えます。その方策の一つとして、OJTトレーナーを中心に多くの職場メンバーが協力して新人育成に関与する「協働型OJT」という考え方をご紹介します。

新入社員育成において、今、何が起こっているのか?

働く環境や新入社員のキャリア感は大きく変わり、新入社員育成のあり方にも変化が求められています。今、職場ではどのようなことが起こっているのでしょうか。ポイントを整理してみましょう。

  1. 職場環境の変化
    ここ10年ほどで働き方改革やリモートワークが一気に進んだことで「仕事量をこなして成長する」という、従来のような長時間勤務を前提とした考え方が通用しなくなりました。こうしたやり方の良し悪しは別としても、タイムパフォーマンスばかりが重視されることもなりがちです。リモートワークについては、コロナ禍のためにやらざるを得ない部分もありますが、職場のメンバー全員が常に同じ場所で働くという前提が薄れつつあります。日常の業務やコミュニケーションのなかで自然にできていた「教える・教えられる」という行為も、リモート環境下では以前のようにとはいかなくなっています。
  2. 新入社員特性の変化
    世の中のキャリア観や組織観が変わったことで、転職や独立が当たり前になりつつあります。就活における企業選びでも、一つの会社で長く勤めていくことを前提にするのではなく、選ぶ基準が幅広くなっていますし、アルムナイ採用のように、一度会社を飛び立った人を再雇用する制度を持つ企業もあります。

こうした状況下で学生時代を過ごし、社会人の第一歩を踏み出す企業を選んできた今の新入社員は個々のキャリア観を持っており、個別性が高くなっているといえます。

新入社員教育でやるべきことが、やりにくくなっている

職場環境の変化は新入社員教育にどのような影響があるのでしょうか。

まず、これまで職場で偶発的に行われてきたさまざまな支援や皆が同じ場所で働くという前提がなくなり、トレーナーがその役割を一人で担うようになったことが挙げられます。

新入社員が職場で受ける支援は主に3つあります。

  1. 業務支援
    仕事をするためのツール類の使い方、会社や職場のルール、仕事を進めるコツやポイントなど、仕事の全体観や背景にある目的を理解できるようにするための支援です。
  2. 内省支援
    新入社員自身が業務や自分のあり方を振り返るときに問いを投げかけたり、失敗をしたときに「なぜ、そういうことが起きてしまったのだろう?」といったように、客観的意見や新たな視点を付与していくことがこれにあたります。
  3. メンタルケア
    他者から与えられる精神的安堵の支援です。仕事の相談に乗ることはもちろん、弱音を聞いてあげたり、ちょっとした雑談で息抜きをしてあげたりと、気持ちが晴れて前向きになるような機会を設けることも大切な支援です。

従来であれば、年の近い先輩社員や社歴の長いベテラン社員をはじめ、新入社員のそばにいるあらゆる立場の人が偶発的にこれら3つの支援を担保していました。しかし、職場環境が変化したことで、皆が自然と担っていた支援をトレーナーや指導員、チューターと呼ばれるみなさんだけでやらざるを得ない状況となっています。

「場の情報性」からつかめるもの、かなえられるもの

職場環境の変化は、新入社員側への影響もあります。

新入社員は経験やスキルがとぼしく、上司や先輩から渡された業務をやりながら仕事を覚えていくことがほとんどだと思います。目の前の仕事が全工程の中のどの部分なのかということが見えにくく、部分を部分でしか理解できないということが発生してしまう。

「これは何のためにやっているのか?」「この仕事にはどのような意味があるのかか?」といったことがなかなか見えてこないため、仕事を単なるタスクとして捉えてしまい、こなすことが自分の役割であるといったように、タスク志向に陥ってしまう可能性があります。

職場環境の変化を考察するための参考として、「場の情報性」についても触れていきます。

自分自身の職場を思い返してみるとわかるように、至るところでいろいろな会話や観点が飛び交っています。自分のデスクで仕事をしていても、なんとなく他部署の様子がうかがえたり、誰かが上司に注意を受ける様子を見て会社や業務のルールに気づいたり……。このように、「場」から得られる情報は実にたくさんあります。「場の情報性」は新入社員だけでなく、社員同士のコミュニケーションや会社に対するエンゲージメントにもつながっていました。(「場の情報性」についてはこちらのコラムもご覧ください)

今の新入社員の特性を理解する

近年の若い世代の傾向についてみていきましょう。

SNSの影響などから自分と興味関心が近い仲間との密な交流を好み、リモートワークも相まって周囲とのコミュニケーションが希薄になっている可能性が高いのではないでしょうか。ウィル・シードも新入社員のみなさんの支援に携わらせていただく機会がありますが、自分と関心や距離感の近い人には心を開くけれど、そうでないとなかなか本当の自分や考えを発信されない方が多いようです。

トレーナーをはじめ、新入社員と関わる側の人たちが一社で長く働くという前提でコミュニケーションをとってしまうと、そうではない価値観を持つ若手との温度感が異なることから、ますます距離が遠のいてしまうことがあるかもしれません。

先に挙げた仕事の目的や影響範囲が見えないためにタスク志向となり、周囲とのコミュニケーションもうまくとれない。となると、組織への帰属意識も高まりにくい。この状況が積み重なってしまうと、新入社員の孤立化が進み、育成も不十分になってしまう可能性があります。

成長をデザインする「協働型OJT」

ウィル・シードでは、こうした状況を鑑みて「1対1に閉じた育成」から「複数のメンバーで共に育てる」という、「協働型OJT」を提案したいと思っています。

複数といっても、トレーナーを単に1人から3人に増やすといったことではなく、関わる人やそれぞれの役割から見直しながら、新入社員の成長につながる関わり方をデザインすることに主軸を置いています。
具体的には、次の3つの特徴があります。

  1. 育成メンバーの役割を再定義
    トレーナーへの負荷の偏りによる場当たり的な育成を防ぎます。
  2. 成長段階に合わせた育成体制づくり
    タスク志向ではなく、自律に向けて自分で考え、自分で判断できる行動力を養います。
  3. 多方面からの新入社員の特性理解
    組織側から受け入れ姿勢を示します。思い込みや偏見で見るのではなく、多方面から個々の新入社員を捉え、関わっていくことを目指します。

「協働型OJT」の全体像

上記の特徴について、「協働型OJT」の全体像を関連付けながらご紹介します。

「育成に関わるメンバーの役割を再定義」についてですが、これまではトレーナーと新入社員という、1対1の関係から成っていたOJTを「職場全体のプロジェクト」として捉え、新入社員に関わる人の役割を再定義して組織全体の育成力を高めていきます。

具体的には、トレーナーは〈新入社員教育というプロジェクト〉の「プロジェクトマネージャー」新入社員は単に教えてもらう側ではなく「職場全体の関係性を深めるための働きかけを行うキーマン」。さらに、従来は育成責任者であった上司は「育成風土醸成・仕組みづくりの責任者」それ以外の周囲の人も「育成の当事者」として、全員が積極的に関与していきます。

次に「成長段階に合わせた育成体制づくり」について。

成長段階を「適齢期」「他律期」「自立準備期」「自律期」の4段階に分け、どのフェーズで誰が、どのように関わるかを考慮することで成長を最大化させます。

そして、「多方面からの新入社員の特性理解」についてですが、上司やトレーナー、それ以外の周囲の人など、それぞれの立場から感じる新入社員の成長ぶりや強み、得意なことなどについて、全員で共有する時間を確保し、組織全体で新入社員に対する理解を深めていきます。

共に学び、成長して、やがては会社の風土を変えていく

最後に「協働型OJT」を実践することで期待できる効果についてみていきましょう。

まず、多くの先輩・職場にいるさまざまな人と接する機会が増えます。若手の方から「職場にロールモデルがいない」という話を聞くことがありますが、1対1での新入社員教育となると、互いの相性によってはそうした結果を招くこともあります。今の時代、多様な価値観があるからこそ、大勢の人が関わることでいろいろな刺激を受け、誰かや何かとスムーズにつながっていくのではないでしょうか。その結果、若手のキャリアの選択肢が広がり、キャリア形成にも寄与することでしょう。

さらには、トレーナー自身の成長も期待できます。新入社員教育にまつわる精神的・業務的な負担を減らしながらトレーナー自身が「人を育てる」という経験を積むことで、いずれはリーダーやマネージャーとして活躍できるだけの力が身につくはずです。

互いに関わり合いながら取り組むことで、組織としての育成風土も醸成されます。働く人同士の関係性が希薄になりがちな今の時代こそ、社内に強いつながりを生み、新しい風を吹かせるきっかけになることを願っています。

協働型OJT 企画者
杉本 麻祐子(株式会社ウィル・シード HRD事業部 営業副部長)

大学院修了後、TOTO株式会社入社。2017年ウィル・シードに参画し、コンサルタントとして人材開発支援を行いながら、高校生向け起業家プログラムのファシリテーターなどを務める。2023年1月より現職。オンボーディング施策や若手社員向けの新規コンテンツの企画・推進を行っている。

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