人材育成に役立つ情報がたくさんCOLUMN
- 2023.06.25
- レポート
異業種×社会課題×デザイン思考で未来を共創する
越境学習プログラムの企画・実施について、自社社員を派遣した企業の人事企画ご担当者が実体験をシェア。部門として越境学習を人材開発施策に取り入れるのが初めてという状況で、施策全体の企画設計、ベンダーの選定、対象者の選定、越境中・後のフォローなど、どのように進めていったのでしょうか。
ウィル・シードは長年、越境学習企画を国内外のパートナーとともに提供してきましたが、限られた選抜者だけではなく、より多くの方に機会を提供したいという企業さまは増えています。それを受けて2022年度、社会課題解決型の越境学習プログラム「GIFT」の濃縮版、「GIFT Essentials」を企画・開催。5社24名にご参加いただいたこのプログラムは参加者の成長につながっただけでなく、参加者同士の企業を超えた交流は今も続いています。
2023年5月24日(水)に開催したセミナーでは、本プログラムに自社社員を派遣された中外製薬株式会社の丸山芳美さまと濱田麻友香さま(メディカルアフェアーズ企画部 MA人財開発グループ)をお招きし、越境学習プログラムの企画から実施までの一連のプロセスについて伺いました。
| 異業種×社会課題×デザイン思考で、みらいを創り出そう
社会と向き合い、自分を見つめる「WiLLSeed Open Course」
ウィル・シードが実施した大手企業に勤める5~10年目の方を対象とした独自調査では、「今の仕事に対する熱意や自信をどれくらい持っているか」という問いに対し、「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答した割合は越境学習経験のある方で80%、ない方で47.4%と、30%以上の差がありました。越境で参加者自身の視野と世界が広がったことでマインドセットが図られ、よりパフォーマンスを発揮できるようになったことがうかがえます。
以前からウィル・シードは多様な越境学習プログラムを提供してきましたが、2022年からは新たに「WiLLSeed Open Course」として、目的に応じて使い分けていただける異業種プログラムをご提供しています。
2022年、中外製薬さまが参加されたプログラムは「GIFT」の濃縮版である「GIFT Essentials」。一定期間、本業とは別に異業種のチームと社会課題解決に取り組むプロジェクト型の学習プログラムです。
具体的には、「子どもの貧困」の解決に向けて邁進するNPO法人(Learning for All)に伴走し、異業種のメンバー6名でチームを組み、「困難を抱えている子どもへのリーチ」「『包括支援モデル』のさらなる拡大」「『子どもの貧困』解決の当事者づくり」といったテーマを探求。デザイン思考や共創の考え方のインプットやフィールドリサーチ等の活動を行い、NPO法人に対して課題解決に向けたプランを提案しました。優れた提案を行うことはもちろん、異業種との協働による価値創造を通じて多面的なものの見方を得て、次世代リーダーとしての資質をみがくことを目指しました。
近年、越境学習に関心を持つ企業さまは増えていますが、いざ実施に踏み切ろうとするとき、みなさまが共通して抱く問いが二つあります。
- 社外に送り出すことは、離職につながるのでは?
- 越境体験の価値をどうやって最大化するのか?
特に後者の問いについて、「企業の人材育成の施策として、いかに質の高いプログラムにするか」「越境で得た学びを仕事に活かすには」といったあたりは、特に気になるところではないでしょうか。中外製薬さまの実際の企画・実施のプロセスを参考に、これらについてひもといていきます。
| 中外製薬が越境学習企画に込めた思いと実施のリアル
きっかけは次世代育成。「越境学習」でなければならなかった
丸山芳美氏:この施策は越境学習ありきで始まったのではなく、「次世代育成」という大テーマが前提としてありました。これを機に、私たち人事企画担当が「次世代とは、どのような人か」「その人には、どのような体験してもらいたいか」といったイメージをすり合わせながら検討を重ね、最終的に越境学習に行き着きました。
「未来の中外製薬で活躍する人」を次世代としてイメージしましたが、次世代として期待されている方は、当然のことながらどの方も優秀なのです。「ホーム」である社内では周囲からの評価が高く、居心地も良い。しかし、あえてここを離れた「アウェイ」な環境で自分自身を試し、未来の中外製薬に資する新たな価値観を獲得してもらいたいという期待を込めて越境学習を選択しました。
社会課題解決に取り組むために越境学習を選んだというよりも、重視したのは「アウェイ」の環境です。自分の前提や社内の常識が通じない「アウェイ」に飛び込み、価値創造にチャレンジすることが越境であると私たちは解釈しています。
もう一つ、次世代育成プログラムというと、従来でしたら社内で行う研修も考えるのですが、これまでの中外製薬の延長線上で考えていては、今までと何も変わらない。そこを打破したところに新たな可能性があるのではないかと感じ、外部パートナーのプログラムを検討しました。
私たちとしても越境学習は初めて触れるテーマでしたので、いくつかのパートナーさんにお話を伺いました。その中でたどり着いた一社がウィル・シードさん。プログラム内容はさることながら、一にも二にも深くプログラムにコミットされていたこと。これがご一緒させていただいた最大の理由です。
関係者全員に次世代育成の「当事者」になってもらう
丸山氏:弊社の施策として初となる越境学習でしたが、新しい試みは、何事もすぐには理解が得られないもの。社内や参加者の上司・関係者からの理解や共感を得て「仲間」を少しずつ増やし、スモールステップで進めていくことにしました。
濱田麻友香氏:例えば、参加者の人選においてもそうです。今回の企画を真に必要となるのは誰かを改めてあぶり出すために、今までにはないプロセスで推薦してもらう方法ができないかと考えました。
具体的には、私たちの本部のマネージャー全員に「次世代育成として、こういった内容の越境学習プログラムを行うので、送り出したいと思う人を自分の部下であるなしにかかわらず挙げてください」と依頼しました。本部のマネージャー全員に、次世代育成に対して向き合ってもらう機会にしたかったという思いもあります。
さらに、挙げてもらった候補者で母集団を作り、ここから本部のマネジメントに参加者を推薦してもらいました。「こんな人を」という、マネジメントが送り込みたいイメージもあると思うので、そことすり合わせながら検討してもらったイメージです。母集団にはかなり多様なタイプのメンバーが集まっていたので、絞り込む際もかなり迷ったのではないかと思われますが、最終的に4名が選抜されました。
「離職してしまうかも」という不安はなかった
丸山氏:越境学習で遠心力がかかり、外に飛び出してしまう、つまりは参加者が離職してしまうことをおそれる人事や教育のご担当者が多いということは知っていました。私たちは特には気になっていませんでしたし、感覚的には外の世界に触れて「円」が大きくなることは幸いなことではないでしょうか。遠心力と同じぐらいの求心力を、企画側が作ることができればいいのではないかと考えています。
濱田氏:離職の懸念は別として、会社の外の世界を体験したからこそ、今の会社で働き続けることや自分の可能性に真剣に向き合えるんだと思います。、そのうえで外に出るという選択をするのであれば、それはその人の意志であり、人生であると思っています。
外の世界を体験しつつ、今の仕事や自分自身に向き合うために、弊社の場合、プログラムの事前から事後に至る各段階で社内フォローアップの機会を盛り込みました。越境経験を今の中外製薬の仕事でどのように活かしていくか、今後のキャリアにいかにつなげていくかを考えてもらうことが目的です。
| 越境前・中・後には手厚いフォローアップを
濱田氏:社内フォローアップは「GIFT Essentials」のプログラムと並行し社内施策として立ち上げた企画です。プログラム開始前にキックオフミーティング、開始後に上司との1on1と参加者同士の座談会、プログラム終了後にも再び上司との1on1、最終報告会と、参加者と、彼らの今の仕事や自分自身に向き合う関わりを要所要所でつくりました。
まず、キックオフミーティングについてです。仕事を離れて思いきり外の世界を体験してもらうために、上司の理解やバックアップは欠かせません。参加者には社内に「フォロワー」がいることを感じてもらえるようにと、本部長やHRBPが参加者に直にメッセージを送ったほか、直属の上司からの激励の手紙を渡すといったこともしました。このとき、フォロワーとしてウィル・シードさんにも入っていただいています。プログラムの説明だけでなく、参加者とのコミュニケーションが取れたことで、関係構築にもつながりました。
上司との1on1の機会はプログラムの前後で設けています。毎回、私たち企画側も序盤のみ同席し、能力診断ツールの説明とその日に話してもらうテーマをすり合わせて目線合わせを行ったのち、当人同士で対話を重ねてもらいました。越境中は「子どもの貧困」といった、普段の業務からかけ離れたことを体験しているわけですが、上司としてはやはり、そうした体験が今後の仕事にどのように結び付くかが気になるところ。しかし、能力診断ツールによって「プログラムを通じて、こうした能力を高めようとしている」といったように、越境体験を参加者とその上司と共通言語づくりに役立っていたのではないかと思います。。
座談会については、越境中、参加者は別々のチームで活動しますから、テーマは同じでもそれぞれにまったく異なる体験をしています。座談会で4名の学びを持ち寄ることで、ここから先の自分のチームにできることやあり方をあらためて考え直す機会になるのではないかと考えて企画しました。
最終報告会に関しては、施策の企画設計当初から本部全体で行いたいと考えていました。参加者の直属の上司には全マネージャーのフォロワー代表であっていてほしいと思っていましたので、「うちのメンバーは、こういう経験をして、こういうことを学びました」といったように、マネージャー陣に報告する参加者をサポートする役割を担ってもらいました。この報告会は双方の声が盛んに行き交う場となり、参加者たちの体験を改めて本部内全員が理解し、認める機会になったことを実感しています。
| 越境学習プログラムを振り返って
濱田氏:うまくいったこともあれば、正直、まだ課題もあると思っています。実は期間中に急遽、海外出張が入った参加者がいて、集中できる環境作りは必要だと感じました。
また、今回、「自分」と「社会」を結び付けながらものごとを深く考える機会は参加者に提供できましたが、今後は「自分」「仕事」「社会」というトライアングルで考える機会をつくっていきたいです。
丸山氏:人事企画担当である私たち自身、越境学習というものを学んだ機会となりました。初の試みであり、わからないことが多くありましたが、その都度ウィル・シードさんに相談に乗っていただき、共にこのプログラムを作ってきたように感じています。
個々の参加者の成長だけでなく、思わぬ相乗効果もありました。それは、彼らとかかわる上司やマネージャーとの関係性が深まる機会にもなったことです。
弊社では普段から1on1の機会がたびたびあるのですが、どうしても日々の業務の進捗や課題の認識など、目の前の仕事のトピックに時間が割かれがちです。しかし、越境を軸にした対話によって、仕事から少し離れて長期的な視点で互いの思いを交換する機会にもなったことは嬉しい収穫となりました。
〈セミナー後記/株式会社ウィル・シード ジェネレーター 中川孝晃〉
人事企画ご担当者が参加者を越境学習プログラムに送り出すだけでなく、社内関係者とも丁寧にコミュニケーションを取りながら施策を進められていた様子が印象的でした。このことは単に社内での越境学習への理解を促すだけでなく、自社の人材育成の当事者が増えたり、外の風を積極的に取り込んだりといったように、会社の未来を広げることにもつながるのではないでしょうか。
私たちウィル・シードは今後も企業さまと共創させていただきながら、組織と個人にとってよりよい学習体験を探求していきたいと思っています。