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ゲリラ人事のすゝめ
~ 個人の思いから始める人事施策、
ありやなしや ~

入山氏の講演を終えて、イベントは各企業の人事責任者による対談へと移りました。
前半ではローム株式会社の木村誉勧氏(※トークセッションでは、ウィル・シードの藤森亜紀子も参加)、後半ではパーソルキャリア株式会社の加々美祐介氏、株式会社アカツキの坪谷邦生氏が登壇。みなゲリラ的な人事施策を行っており、その内容やコツ、苦労などを入山氏がファシリテーターとなって話し合いました。
まずは、ローム株式会社の木村氏がプレゼンします。

自ら積極的に動くことで
海外出向者の処遇制度の見直しを実現

木村誉勧 氏(ローム株式会社 人事本部 人事企画部 統括課長)
ローム株式会社 人事本部 人事企画部 統括課長
木村誉勧 氏

入山:まずは木村さんが行ったゲリラ人事的な施策を教えてください。

木村:最初に簡単な自己紹介をすると、私は1999年にロームに転職後、4年ほど中国の子会社に赴任した期間を除いて、人事業務に従事してきました。その中で、ゲリラ、と言うのかどう分かりませんが、自身の想いに従い、自ら動くことで成功した人事施策がいくつかあります。

そのひとつが、海外出向者の処遇制度の見直しです。私が担当になった当時、弊社の海外出向者と人事部との関係が悪化していました。というのも、実は、かつて海外出向者を優遇していた時期があり、その揺り戻しで、数年前に見直された処遇制度の内容が海外出向者にとって非常に厳しいもので、彼らが意見を言う機会もなく運用されてきたため、そのような状態となっていたのです。

ただ、私も現地を見ていないので何とも言えない。そこで、まず各拠点を回って真実をこの目で確かめてみたいと上司にお願いし、全海外拠点に出張してヒアリングを行いました。話を聞けば聞くほど、彼らの言っていることの方が正しくて、こちらが間違っているんじゃないかと思うようになりました。ちなみに、「人事に話すことなどない。今すぐ帰れ!」と、厳しい言葉を突きつけられたこともありました。それでも、その時はとにかく話を聞き、彼らには必ずアクションを起こすと誓いました。

帰国後、彼らの声を踏まえ、本社で制度の見直しを提案。しかし、この時は結果に結びつけることはできませんでした。ただ、それを現地で話しを聞いた海外出向者に報告すると、私の努力に対し、感謝の声を聞くことができました。これは意外でしたし、勇気づけられました。何より信頼関係が生まれていたことを感じました。

とはいえ、この取り組みもしばらく停滞します。私は、今回実現したい制度の見直しは、経営側、社員側双方にとって、有益なものであるとの確信を持っていましたので、どうしたらももっとその想いが伝わるかを考えながら、諦めずに機をうかがい続けました。すると、新たに着任した海外事業責任者が、この課題に共感してくれたのです。結果、それまでのヒアリングなどが参考となり、最終的には、経営陣のバックアップも得られたことで、処遇制度の見直しを実現。現在は、この影響もあってか、海外出向者数も同時の3倍程度まで増加していますし、グローバルビジネスの拡大に貢献できたと自負しています。

対談

人事を「戦う集団」に
会社を動かす2つのカギとは

入山:ゲリラ人事は勇気がいりますし、失敗した時のリスクは大きい。木村さんがこれらの行動を実現できた理由はどこにあるのでしょうか。

木村:人事、という仕事をやっているので自己否定になるのかもしれませんが、そもそも他人からの評価をあまり気にしない人、だからでしょうか。社内でこれまで常識とされてきたことに盲目的に従うのではなく、自身のコモンセンスを信じ、正しいと思ったことを正しいと言う、正しいと思ったことを正しくやる、単純にそれだけだと思います。正直、失敗した時のことはあまり考えていないのかもしれません。

また、人事として何ができるか、どう事業に貢献できるかを常に考えています。人事は「管理部門の一員」という意識になりがちですが、後ろに引くべきではない。むしろ、人事自体が事業にコミットする集団であるべきで、「会社の内側を変えていく」という意識が必要です。私は人事を「戦う集団」にしたいと考えていて、その意識が先に挙げた行動になったと思います。

人事が「勝ち」を意識する集団となることで、事業をリードすることができ、その結果、人事が戦略的な、イノベーションをリードする組織になっていくのではないでしょうか。

入山:とはいえ、ゲリラ的な施策を成功させるにはテクニックも必要。うまく上司を巻き込んで、味方を作っているように感じました。

木村:確かにそうかもしれません。普段から意識してやっているわけではありませんが。ただ、上司はもちろんですが、人事は間接部門であり、人事自体でどうこう、という存在ではなく、強く事業にコミットする集団であるべきです。なので、まずは「斜め上」となる、事業側の責任者に味方になってもらうのがポイントでしょうか。

しかし、組織で仕事をしていると事業の方に目が行かず、真上ばかりを見がちなような気がします。そして、真上ばかり見ていると、過度に忖度するなど、動きにくくなるかもしれません。そこで、“斜め上”となる、事業側の責任者をまず味方につけ、そこから事業を軸に横展開してもらうということです。

そのために、普段から会社の事業とその分野におけるキーマンを把握することは意識しています。どの事業にどんな人がいるのかが把握できていて、自分が困った時に動いてくれるような関係がないと、なかなか自分がやりたいことはできないかもしれません。

藤森:もうひとつ気になったのは、一度停滞しても諦めず機をうかがうことです。木村さんには弊社の海外トレーニー研修制度も取り入れていただきましたが、これも最初に相談を受けてから2年ほどかけて実現しました。

木村:経営側から降りてきた案件ではなく、自分が「絶対にやりたい」とか、「是非やるべきだ」と思って始めるような人事施策は、最初から順風満帆にうまく進むことはほとんどありません。ただ、そこで諦めないことが重要。今ダメでも、その想いを大切にし、機をうかがって待っていれば、何かの機会にそれが実現することがあるからです。成功のカギは、どれだけ強く「想い」を持ち続けるか、ではないでしょうか。

大切なのは、ただ機会を待ち続けるのではなく、会社の戦略や動きを見ながらタイミングを図ること。人事には幸いにして経営情報が入りやすいので、それを最大限に活かします。

対談

リスクを取って敢行する施策だからこそ
自分のコモンセンスに問うべき

入山:ゲリラ人事の場合、単独だからこそ「本当にこれを進めるべきか」と悩む瞬間があるはず。その際はどのような判断をするのでしょうか。

木村:本社の人事で仕事をしていると、「経営側」に寄るべきか、それとも、「社員側」か、と悩むことが必ずあるかと思います。そのどちらでもなく、私はまず「自分の良心に問うこと」を大切にしています。この施策をやるべきかどうか、どうやるべきか悩んだとき、頼るのはまずは自分のコモンセンス。常識的に考えておかしいなら、進めるべきではありません。

入山:ちなみに、斜め上だけでなく“横”となる同僚や部下も巻き込んでいるのでしょうか。

木村:実はそこが少し課題かと。自分の想いで突き進むタイプなので、振り返ったら誰も付いて来てなかった、ということも。ですが、自分ひとりでやれることには限界があるので、人事メンバーの巻き込みはもちろんですが、事務局としてプロジェクトや委員会を立ち上げ、他部門のメンバーも積極的に巻き込み、チームとして成果を出せるよう、各種施策の実現に取り組んでいます。

そんな中で、共に成果を出し、成功体験を共有したメンバーが、仕事の進め方のひとつの方法論としてこのような動き方もある、ということを学んでくれるといいですね。

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