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ゲリラ人事のすゝめ
~ ゲリラ人事対談(2)前半 ~

ボードメンバーに対する
リーダーシップの変革に挑む

加々美祐介 氏(パーソルキャリア株式会社 戦略人事統括部 エグゼクティブマネジャー)
パーソルキャリア株式会社 戦略人事統括部 エグゼクティブマネジャー
加々美祐介 氏

入山:ここからは、お2人の人事責任者が行ったゲリラ的な人事施策について伺いたいと思います。まずはパーソルキャリアの加々美さんから、お話しいただきたいと思います。

加々美:私たちパーソルグループは、テンプスタッフやインテリジェンスが中心となり経営統合したグループで、パーソルというブランドのもと、グループ経営を推進しています。その中で、私は中途採用支援を中心に様々なサービスを展開している旧インテリジェンス、現パーソルキャリアの人事を4年半ほど担当しています。

実施してきた施策は数知れずなのですが、今日は、数年前から会社全体で取り組んできた組織風土変革プロジェクトを紹介します。社員一人ひとりが主体性や成長意欲を如何なく発揮し、学びあう企業カルチャー、いわゆる「学習する組織」のパーソルキャリア版をつくるプロジェクトです。

皆さんご存知の通り、風土・文化の変革は大変難しい。成功確率が変革系でも最も低いといわれるほど、困難を極めます。文化は日々の活動の積み重ねでできたものですから、一朝一夕では変わりません。

まずはボードメンバーが目線を合わせることが必要と考え、月に一回ほど定期的に集まり、実現したい社会(パーパス)や未来の具体的な絵姿(ビジョン)を議論するところからスタートしました。

その絵姿において求める人材像、その人材が求める組織のカルチャー、そしてカルチャーの変革の道筋や変革の具体案まで議論を深めていきました。この一連の議論によって、社長や人事の独りよがりのプロジェクトではなく、経営陣全体としてのプロジェクトとなり、ボードメンバー全体で「学習する組織」への変革に対するWHY・WHAT・HOWの目線が合いました。

前提として重要なのは、「なぜこのようなカルチャー変革を考えたか?」ということです。きっかけは「現場社員の主体性をより向上できないか?」という提起が経営会議において出されたことです。

旧インテリジェンスは、非常にベンチャー的な自由な社風を経て、その後特に営業サイドがメインですが、徹底的な仕組み化をし、PDCAを回すことで業績を拡大してきました。足元の課題解決や短期的な成果創出に向けて効率よくPDCAを回す仕組みを作り、徹底することが強みの組織でした。

好調なマーケットの中で、急速な成長を果たすためには、その仕事の進め方が目標達成や顧客満足度向上への近道だと考えていたのです。しかし、その強みそのものが社員の主体性や成長機会を奪っている可能性があるのではないかということに気づいたのです。

社長への直接的なゲリラ施策
コーチング導入に向けて

入山:実際、組織風土変革プロジェクトにおいて、どのようなゲリラ施策をしたのでしょうか。

加々美:組織文化に影響を与える要素として、マネジメントシステムのほかに、やはりボードメンバーを中心としたマネジメントメンバーのマインドセットが大きな影響を占めていました。

ですので、経営陣の当時のリーダーシップスタイルを読み解く前に、彼らの経験からもたらされた特徴をお話します。

対談

いわゆる創成期や拡大期からここまで業績を伸ばしてきたメンバーが中心で、自分たちで事業を大きくしてきた自負と成功体験を持っています。一方、ともすると、自分たちの成功体験をもとに「今の現場も同じことができるはずである」と、「べき論」と「同じ感覚」で現場にいろいろ要求し、管理してしまう。もちろん良い側面もあるのでしょうが、主体性や成長意欲を奪うことにつながり、目指すカルチャーに対しては、逆なわけです。

実際、「学習する組織」、つまり社員の主体性や成長意欲を湧き立たせる文化を創るために必要なリーダーシップスタイルを経営陣の間で議論した際に、「受容性があり、ヒトそのものにフォーカスでき、時にはサーバント型で社員や組織をエンパワーメントできるリーダーシップスタイル」という結論になったんです。

まず一丁目一番地として、社長を含めたボードメンバーのリーダーシップスタイルを変革するところから取り組み始めました。

目指すリーダーシップスタイルを考えると、会社全体でシンプルに「コーチング的コミュニケーションの導入と浸透を」と考えていました。その有効性をボードメンバーにも浸透させたかった。当時、経営陣はコーチングの概念は知っているものの、実際体験したことはなく、導入にもそこまで前向きではありませんでした。「コーチングって何?そんなにいいの?」という感じです。

直球でいってもダメだなと感じ、人事の独断で、まずは経営陣のリーダーシップスタイルをアセスメントさせてほしい、と依頼しました。皆さん数値化が好きなので(笑)、受け入れてもらえました。

ただ、私たちの本当の狙いはここから。アセスメントにより、ボードメンバー一人ひとりのリーダーシップスタイルが明確に数値化されました。その中から私たちが目指すリーダーシップスタイルではない、トップダウン型で管理型の3人を抽出し、実験的にコーチングを受けてもらうことにしたのです。

実はその1人が社長でした。

入山:加々美さんのアクションは、ど真ん中のゲリラ施策で驚きました(笑)。周辺を固めてから本丸に対してゲリラを起こすのではなく、いきなり社長にぶつける。コーチング導入のため、まず社長にコーチングを経験学習させた、と。

加々美:コーチングを体験した3人は、その重要性を感じてくれました。そして、次はこのプロジェクトの本丸である部長陣をコーチングの対象にしました。そこに落とし込むためにもまずボードメンバーにゲリラ的に体験してもらったのです。ちなみに、部長陣向けのコーチングについては、外部のコーチに依頼をするのではなく、会社でコーチを雇用し、内部コーチで継続しながら永続的にPDCAを回し、カルチャーにしていく、という建付けにしていました。つまりコーチを雇用するところからだったのですが、コーチングの価値を感じてくれていたので、提案はスムーズに進みました。

入山:直接社長にアプローチするのはリスクもあるはず。ショック療法といってもいいかもしれません。なぜ大胆に敢行できたのでしょうか。

加々美:分岐点は、最初に行ったアセスメントの数値をボードメンバーが真摯に受け止めてくれたことです。もしこの数値に異議を呈され、受け入れてもらえなければ、今回の施策は生まれなかったと思います。ただ、先ほど話したように、社長たちは数値というファクトに対して真摯に向き合う器の大きさがあります。それをわかっていたので、自然に踏み切れた部分もあります。

1対1でのマネージャー相談
そこで培った信頼が活きていった

入山:続いて、アカツキの坪谷さんからお話しいただきたいと思います。

坪谷:私はもともとプログラマー出身ですが、燃え盛る現場をどうにかしたいと人事にキャリアシフトし、そこから16年「どうすれば個と組織が生きるのか」を考えてきました。前職ではリクルート社の人事コンサルとして50社以上の人事制度を作り、組織開発を支援してきました。

そして2016年4月、急成長しているベンチャー、アカツキの一員となりました。アカツキは、2010年に創業した若い会社で、ゲームとライブエクスペリエンス、デジタルとリアルの両面でワクワクを追求する企業です。

坪谷邦生 氏(株式会社アカツキ 人事企画室WIZ 室長)
株式会社アカツキ 人事企画室WIZ 室長 坪谷邦生 氏

ゲリラ的な施策の前段として、私は人事企画室を「WIZ(ウィズ)」と名付けています。由来のひとつは「ウィザード(魔法使い)」で、ゲームを作るクリエイターが戦士なら、私たち人事は魔法使いだと。クリエイターの攻撃力を上げる魔法や、傷ついたら回復魔法を使って彼らを支えます。そして、ともに戦っているという意味の「WITH(一緒に)」。間接部門として引っ込んでいるのではなく、ともに戦うという意志表示です。

WIZの役割の1つに「GUNSHI(軍師)」があります。現場のリーダーをコンサルタントとして直接支援する活動です。はじめは1人のリーダーから相談をもらって、週に1回、1対1で話して、マネジメントの基礎や目標管理のコツといったアドバイスを行っていましたが、徐々にほかのリーダーからも連絡が来て、今は7名の様々なリーダーを支援しています。拠点の支社長や、大規模な部門の部長に対しては、組織ビジョンの策定や次期リーダーの体系的な育成などを一緒に考えています。

実は、このGUNSHIとして関わってきたことによる信頼関係がゲリラ的な施策にも関わってきます。

入山:人事はついバックオフィス的なポジショニングになって、動かなくなりがちですが、坪谷さんはかなり自由に動いているイメージですね。

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