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オンラインとオフライン ファシリテーションは何が違う?②

前回のコラムでは、オンラインとオフラインの構造上の違いに注目し、その違いが与える影響について書いてきました。それらを踏まえて、双方向型オンライン研修を成立させるには、ファシリテーションの何を変えればいいのでしょうか。今回は「あり方」と「やり方」に注目して考えていきます。

 

オンライン研修での講師の望ましい「あり方」とは?

オンライン研修では、前回のコラムで紹介した通り「場の性質」(※1)上、強制力が働かず、参加者が研修の場から離脱しやすくなります。また、講師と参加者の関係もフラット・横並びです。このような状況の中、講師はどのような「あり方」で臨むと良いでしょうか?

(※1)ここでの「場の情報性」とは「人が一緒にいる場所には多種大量の情報が連続的に生まれている」ことを意味します。詳しくはコチラのリモートワーク特別コラムをご覧ください。

上記は一例です。場から離脱する力が強く働くため、参加者が自ずから参加したいと思える場づくりが必要でしょう。講師と参加者がフラットな位置関係だからこそ「上から教える」ではなく「共に学び合う」姿勢が望ましいです。一方的に教え込むティーチングスタイルよりは、参加者の考えを引き出しながら進めるコーチングスタイルの方が適切かもしれません。まとめると講師は「参加者が主体的に参加する・考えるためにどうするか」を考え、参加者同士の相互学習の支援者であり続ける。このような「あり方」に軸足をシフトすることが求められます。

オンライン研修での「やり方」は2つのプロセスに注目する

組織開発の領域では「プロセス」という概念があります。組織には仕事内容、データ、人の動き、など多くの目に見えるものがあります。それと対立する目に見えないものを表す概念が「プロセス」です。プロセスには「タスクプロセス」と「メンテナンスプロセス」の2つがあります。

研修における「タスクプロセス」とは議論の進め方、手順・ルール等の参加者の協働に関わるものです。議論を行う際に、参加者が何らかのルールや手順を念頭に置きながら進めるイメージがわかりやすいと思います。

研修における「メンテナンスプロセス」とは参加者同士の関係性、研修・議論への参加姿勢などの人の意識や感情に関係するものを指します。メンテナンスプロセスへの働きかけが必要な状況としては、参加者が議論していても、参加者同士の心理的距離がハードルとなり、血の通った議論をしていないケースがイメージしやすいかもしれません。

タスクプロセスでは明確さが求められる

オフラインでは講師の指示が曖昧でも、議論を進めることが可能です。参加者が周囲の様子や場の空気を見る、講師に確認する、などのアクションを取れるからです。ただ、オンラインのグループワークでは、周囲を見れず、曖昧な指示では議論が立ちいかなくなります。故にタスクプロセスでは、講師が議論の意図と進め方を明確にすることが重要です。具体例を2つ挙げてみましょう。

1つ目は「記録を残す」ことです。

「何を話すのか」「どう進めるのか」それらを口頭で説明しただけでは、参加者は忘れる可能性があります。参加者を議論で戸惑わせないよう、話す内容や進め方をチャットに記録し、確認できるようにするのは有効な手段です。

2つ目は「講師が流れを作る」ことです。

オンラインでは研修内の臨場感が薄いため、参加者にその場の空気を察知した言動を期待することが難しくなります。「積極的に手を挙げてください」と参加者の自主性を促す働きかけを行っても、参加者からの自主的な発言が出てこないという状況がイメージしやすいでしょうか。そういった場合は、参加者にチャットへのコメントを促した上で、講師から「○○さん、よろしければチャットのコメントについて具体的に話してもらえますでしょうか?」と丁寧に誘導してあげる方法もあります。オンライン研修で「参加者が主体的に発言する」することは望ましいことですが、参加者にとっては難易度が高いと心得ておくべきでしょう。

メンテナンスプロセスではオンラインの内省的になりやすい利点を活用する

前回のコラムでも触れましたが、オンラインは場の情報性が少なく、知識を溜め込む「ストック型学習スタイル」に陥りやすいです。ではどうすれば、オンラインでも学習の質を高めていけるのでしょうか。「オンラインの機能や環境を活用して、学習の質を高めるには」と逆説的な問いを立てて考えてみましょう。

例えば、チャット機能。オフライン研修で全体の意見共有を行うと、発表できるのは多くて数人が一般的です。オンラインではチャット機能を使うことで多様な意見が瞬時に可視化されます。チャットの意見を深堀りする、違う意見をチャットで拾う、など活用方法は様々です。また、オンラインでは同時に複数の人が話しにくいため、参加者が傾聴的になりやすい構造があります。また、 聞き手も話し手に集中できます。このように、オンラインの環境や機能がどんなメリットに繋がるのか、を以下に例示してみました。

これらを踏まえると、オンラインでは内省的になれる要素が揃っているとも考えられます。では、具体的にどのようなファシリテーションを行えば良いのでしょうか。要素を5つに整理してみました。

メンテナンスプロセスで学習の質を高める5つの要素

真ん中に「安心と意義を持ち込む」、囲んで「問いを立てる」「自分の言葉で表現する」「可視化する」「相対化する」の4つの要素が並んでいます。各々の要素は独立しているというより、相互に関連し合いながら全体が機能するイメージです。

安心と意義を持ち込む

オンラインは離脱しやすいからこそ、参加者が場に安心や意義を感じられるかが大きなポイントです。オンライン会議でも空気感を掴めず、チェックインを始めに行う方が増えているようです。オンライン研修でも最初のチェックインの重要性は以前にも増して高まっているように感じます。安心と意義を感じられるための仕掛けはファシリテーションの知恵の絞りどころであり、これが無くなると学習の質を高める根幹が失われます。常にアンテナを張りながら進めなければなりません。

問いを立てる

オンラインの特徴として「知識をため込むストック型学習スタイル」になりやすいと述べてきました。だからこそ、脳に揺さぶりを与え、アウトプットさせていく導線が必要です。そのための有効な手段が「問い」です。人は問われると立ち止まって考えます。「そのように考えたのは何故ですか?」と問われるだけで、参加者の思考は「自分の中の理由」を探ります。問いを立てる技術を洗練させることはオンライン研修ではより重要になってくるでしょう。

自分の言葉で表現する

内省とは自分の内面と向き合い、「あの経験は自分にとってどういうものだったのか」と意味づけを行うことです。自分の言葉で表現することは、まさに自分にとっての意味を言語化する手段です。講師も借り物の言葉ではなく、自分の言葉で表現することが重要です(でないと見透かされて参加者は離脱します)。話し手は拙くても良いので、自分の言葉で話すこと、聞き手も共感的になりながら話し手の言語化をサポートすること。このような双方の働きかけを促すことがより必要になります。

可視化する

オンラインの利点は情報をその場で記録・保存し、瞬時に可視化できることです。オンラインでは各々の理解や意見が見えにくいからこそ、参加者の考えをアウトプットしてもらい、「可視化」させることが重要です。参加者にとって、可視化された情報は内省のための材料にもなります。他者の意見や見解に触れることで、自分自身の見解についての理解も深まるのです。

相対化する

チャット機能の例に代表されるように、オンラインでは参加者同士の見解の相違に注目して、自分の見解の再考や他者の見解を新たに取り入れることができます。重要なのは可視化された意見をどのように参加者に取り扱ってほしいか、意図を持つことです。可視化されているだけでは、ただの情報にすぎません。それらを活用し、自身の見解を相対化させられるように場を作っていくのが講師の役割と言えるでしょう。

ここまでの要素を踏まえて、各要素に対する筆者のやり方を一例として記載してみました。

5つの要素を単独で取り扱うのでなく、相互に関連させながらファシリテートを行う点は参考にしてもらえるかもしれません。意外に地道な作業です。参加者には考えやすい問いに答えてもらいながら、参加ハードルを下げ、可視化や相対化を駆使しながら、お互いに学び合う意義や安心を徐々に高めていく。気づくと研修の場全体で学び合う空間になっているイメージです。

オンライン研修は可能性の塊

これまで記載してきた「あり方」と「やり方」をまとめると以下のようになります。

少しでも皆さんのオンライン研修のファシリテーションの参考になればと思い、書いてきました。変化が激しい時代、自分自身で学習を意味づけしていく経験学習の考え方が注目を浴びています。オンライン研修にはその可能性が詰まっているとも言えるでしょう。

ただ、前回のコラム冒頭に述べたように、オフライン研修とオンライン研修のどちらが良いかを述べたいわけではありません。オンライン研修にも可能性を改めて感じてもらい、皆さんの目的に合わせて様々な選択肢を取れるようになってもらえればと思います。ウィル・シードも学習の場をデザインする会社として、前例にとらわれず、常により良いやり方を目指して行きたいと思います。

コラム執筆者

岸本渉(きしもとしょう)
X-BorderFantasy室長。博報堂、ファーストリテイリングを経て、ウィル・シードに入社。コンサルタント・営業責任者を経て「越境で共創する、意志ある未来づくり」を志向する新プロジェクトX-Border Fantasyを立ち上げる。越境学習に可能性を見出し、様々な大企業リーダー変革の越境プロジェクトを企画・推進する傍ら、ファシリテーターとしても、組織で働き成果を出すこと、人が自分らしく自分の本物と繋がること、この両方を諦めない場づくりを追求している。

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