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成功への道!越境学習企画に欠かせないポイントを掴む

ウィル・シードは2015年より、セクターの壁を越えて、異なる背景や経験を持つ「他者」や「他社」と共に真正面から社会課題に取り組む越境プログラムを実施しています。このプログラムには、次世代を担うリーダーとして期待される若手・中堅の方たちが参加しており、今年度だけでも150人以上の参加者を迎え入れることができました。 越境学習の波が高まる中、その企画をどのように進め、どんな点を重視して取り組むべきか、効果を最大化するポイントは何か。具体的な方法やポイントを弊社企画部長の岸本がまとめます。人材育成の最前線で取り組む人事の方々に、有益で実践的なヒントになれば幸いです。

 

| そもそも越境学習とは?

越境学習研究の第1人者である法政大学の石山先生のお言葉をお借りすると、「越境」とは、「ホームとアウェイを行ったり来たりすること」。ホームとは、心理的に安全な場所。例えば、自分の会社で似たような仕事をしている時、話の中の「あれ」が何を指しているか、みんなが分かる、特別なすりあわせをしなくても仕事が進むなど、働いている人の中で共有された空気感があるわけです。逆に、アウェイに行くということは、今までの自分や周囲とは違う価値観を持つ場所に足を踏み入れること。

越境学習のポイントは、このホームとアウェイの往復で学びが生まれること、と考えています。日常から離れて新たな経験をすることで、自分の仕事や考え方に新しい視点がもたらされる。越境学習は、従来の枠組みを超え、新しい気づきや学習のサイクルを生み出すプロセス全体そのもの、と言えます。

| 越境学習の効果とは何か?

越境学習によって何が起こるか、もう少し理解を深めていきましょう。

私たちは日常の仕事でも「経験学習」を行っていると言えます。インプットが「具体的経験」つまり仕事であり、結果を振り返りながら、知恵を概念化し、次の行動に活かしているからです。越境学習はこの「日常の経験学習のサイクル」から一時的に離れることを意味します。越境体験によって、従来とは異なる行動サイクルが展開され、自分の仕事や今の時間軸を新しい視点から捉え直すことにつながります。結果、メタ認知(自分の考え方や行動を俯瞰して見直すこと)が生じ、凝り固まった枠組みの中で行動していた自分への気づきが生まれるのです。

この状態を「ダブルループ学習が起きている」と表現することもあります。最近よく言われるアンラーニング(学びほぐし)の観点からも重要かもしれません。越境体験によって、自分自身の認識を新たな方向に向けはじめているのです。

つまり、越境学習がもたらす変化とは、従来の認知的な枠組みを超えた新たな気づき、あるいはこれまでの認知的な枠組みの再構成がおきること。さらに言えば、この認知の変容によって、これまでとは違う質感の行動が生まれやすくなる。これが、越境学習の最大の効果だと私たちは考えています。

| 越境学習の効果を活かすために企画側ができることとは?

企画側から見ると、この効果を最大限に活かしたいわけです。認知の変容によって、新しい見方や今までと質感の異なる行動変容を促したい。そのために企画者として越境学習を検討する場合に抑えておくべきポイントは何でしょうか?

私たちは、以下の4点が重要だと思っています。

❶そもそもの越境学習の効果を理解する

❷「何についての」認知の変容を「どのように」起こしたいか、意図をもっておく

❸越境学習で磨きたい「力」を具体化しておく

❹風化と迫害を防ぎ、組織的にフォローする仕組みを考えておく

1点目の「そもそもの越境学習の効果」とは「従来の認知的な枠組みを超えた新たな気づき、あるいはこれまでの認知的な枠組みの再構成がおこり、この認知の変容によって、これまでとは違う質感の行動が生まれやすくなる」こと。これは既に申し上げてきた点ですので、2点目からご説明していきます。

❷「何についての」認知の変容を「どのように」起こしたいか、意図をもっておく

例えば「わが社の社員は井の中の蛙です。社外の方たちと触れ、刺激を受け、もっと危機感を持ってほしいんです」というご相談をよく受けます。お気持ちはわかる一方で「何についての認知の変容を、どの方向に起こしたいか」について企画側の解像度が粗いと、送り出した方が「大変刺激を受けました」と自社に戻ってきたときに、果たして何が良かったのか、企画側として評価できない可能性があります。

認知の変容の「何について」は「自社に対する捉え方」、「仕事に対する捉え方」「価値発揮の捉え方」等、いくつか上げることができます。

例えば越境体験を通じ「自社に対する捉え方を見直し、自社の社会的価値を俯瞰した結果、従業員エンゲージメントを高める機会にしたい」「今の自分自身の仕事の意義を捉え直し、現業の仕事により前向きに取り組める機会にしたい」等と具体的に認知の変容の方向性を考えられると、企画側が越境学習で期待することの解像度が上がります。

少し話がそれますが、我々が独自に「若手リーダーを対象にした越境学習の経験がある人とない人の比較調査」をしたところ、越境学習経験のある人の方が、仕事に対して前向きな姿勢(ワークエンゲージメント)が30ポイントほど高かった、という結果も出ています。

 

本論に戻ると、越境学習を企画するときには、何についての「認知の変容」をどのように起こしたいか、その意図を明確にしておくことが重要です。社外越境だけではなく、これは社内越境の企画をする場合も基本的には同じだと考えています。

❸越境学習で磨きたい「力」を具体化しておく

繰り返しになりますが、越境学習の効果は認知の変容によって、今までとは違った質感の行動が起きやすくなることです。

しかし、越境学習を社内で通す際に「認知の変容をこんな風に起こしたいのです」と伝えても、企画を承認する側からすると「それは投資する意味があるのか?」と返ってくることが多いのではないでしょうか。人材開発施策は「とどのつまり、何の力が磨かれ、会社にどんな利益をもたらすのか」が投資理由になることが多いためです。

ですから、越境学習を通じてどんな力が身につくのか、或いは身につけてほしいのかを言語化しましょう。

ある会社様は、越境学習で磨かれる力を、自社が目指す人材のコンピテンシーと紐づけて設定し、関係者とすり合わせていらっしゃいました。こうすることで、「新しい価値を作り出す力」や「変化に対応できるリーダーシップ」など、企業が目指す人物像に合わせて越境学習をデザインすることができるのです。

一方で、繰り返しになりますが、越境学習の効果は認知の変容によって、今までとは違った質感の行動が起きやすくなることです。ですから、本来「越境学習でどんな力や姿勢が磨かれるのか」に正確に応えることは実は難しいことです。したがって、少なくとも企画側は越境学習体験を通じて磨きたい力が磨かれるように意図をもって体験をデザインすることも必要になります。

例えば「どんな場面でもリーダーシップを発揮できる力を養いたい」のであれば、業務で慣れ親しんだ課題でなく、かつ、自社以外の異業種の様々な価値観をもったチームの中で活動する、といった体験のデザイン自体が重要になります。

弊社では「磨きたい力」を「未来を創る力」と定義し、その力を「価値総出力」と「異質とうまくやるための能力」に分解、実際にその力が磨かれるような体験を越境学習の中にデザインしています。

❹風化と迫害を防ぎ、組織的にフォローする仕組みを考えておく

越境学習企画を実行した後に想定しておくべきは「風化と迫害」というリスクです。

「風化」は、体験後に得た学びが日常の中で失われることを指し、「迫害」は越境体験をした人に対して周囲が否定的な反応をすることを意味します。

実際に越境学習者が「自社の捉え方」が変わり、「自社はもっとこうしていくべきだ」という想いを現場で具現化していこうとすると、越境を体験していない周囲が「君、どうしちゃったの?急に」と冷めて関わるケースが実際にあります。本人に認知の変容が起き、新たな行動を起こそうとする中で「迫害」に合い、自社や自社の社員に幻滅し、元の状況に緩やかに戻り「風化」していく、というようなことが起きてしまうのです。

こういった「風化と迫害」を最小化するためには、組織的なフォローが重要です。大それたことでなくてもまずは構いません。例えば、越境学習で「認知の変容」が具体的にどのようなものであったか、社内関係者に共有する報告会のようなものを開いたり、その後、本人の学びをどう現場で行動に紐づけていけるかを上司と1on1ですり合わせるようにしたり、そういった組織的な共有機会を設計するだけでも、周囲のかかわり方も本人の今後の行動も変わっていくでしょう。

| 越境学習はみんなのもの

越境学習となると、やる気がある人に機会を提供したくなるかもしれませんが、私も実は人に勧められて始めたら「越境」による認知の変容の楽しさ、自己内多様性の拡がりを実感した口です。意外に、最初は「越境なんて興味ない」「外に出るのが怖い」と言っていた方が不思議と大きな変容を遂げることも多いのも、越境の特徴なのです。

私たちが最近実施した若手100人の越境学習では、最初は乗り気でなかった人たちも、体験後には「来てみて視野が拡がった」と感じていました。だからこそ、越境学習は、興味がないと思っている人にも、その価値を伝えることが大切だと感じています。企画側としては、行きたいと強く思っていない方でも、背中を後押しする関わりをしていきたいものです。

新しい見方や捉え方によって、私たちの行動や考え方が変わるチャンスは誰にでもある。そういう意味で越境学習は体験する人を選ばない「みんなのもの」だと思っています。人を選ばないからこそ、一緒に越境学習の価値を皆さんと広げていきたいと考えています。

 


岸本渉(きしもと しょう)

株式会社ウィル・シード
HRD事業部 企画部長

株式会社博報堂で営業職として様々な業態のマーケティング上の課題解決をコミュケーション施策面から支援。その後、株式会社ファーストリテイリング(GU) を経て、株式会社ウィル・シードに入社。営業責任者を経て、越境に特化したX-Border Fantasyプロジェクトを開始。その後、新しい人材開発企画を世に打ち出すため企画部を立ち上げる。自己内多様性の拡張を目的に、東北起業家のマーケティング活動支援をプロボノで行ったり、副業としてスタートアップの営業支援を行っている。

 

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