CASE09自治体職員としての最初の一歩
豊田市役所Toyota City Hall
求められるテーマは“変化”
―豊田市は人材育成に力を入れている自治体の一つだと思います。その豊田市が、2017年度の新規採用職員研修を見直しました。
どのような背景があったのでしょうか。
廣瀬:私たちは人材育成に力を入れていて、これまでも練った企画の研修プログラムを実施してきました。しかし、自治体を取り巻く状況も、若者の特徴や新入職員の傾向も、変わってきていることを感じていましたし、これまでのやり方を単純に踏襲するだけが正しいとは思っていませんでした。
それから、豊田市は税制改正等で税収が下がることが予想されるため、従来と同じ予算をかけるわけにはいかなくなりました。ちょうどコスト面を検討しなければならない時期にさしかかっていたことも流れを変えるきっかけの一つでした。
廣瀨 貴之 氏
―「これまで続けてきた流れを変える」といった思い切った転換は、なかなかしづらいように感じます。消防本部から人事交流でいらしている廣瀬さんの影響も少なからずあったのでしょうか。
廣瀬:私は消防職として採用され、消防の現場だけでなく、消防の研修や採用などを扱う部署にも所属していました。現在は市役所の人材育成部門に所属しています。私がこの部署に来てから1年目ということもあり、わからないなりに、何かを変えたいという思いもプラスに働いたのかもしれません。
確かに思い切った転換に踏み切りにくいことは事実です。しかし、踏襲がいいとは思っていませんでした。
都築:私は日頃、消防の方と関わる機会はなかなかありません。だからこそ、廣瀬さんの新しい視点や行動力は刺激を受けていますし、消防本部から来ていただいて、本当に良かったと思っています。
―研修を見直すにあたり、どのようなことを意識されたのですか。
廣瀬:どのような研修であれば最近の新規採用職員に合うかと考え、テーマとプログラムを見直しました。
都築:従来の研修の内容は民間企業寄りで「チームのメンバーを巻き込みながら、クライアントを説得し、自分の会社を売り込む」といったロールプレイが中心でした。自治体の業務にはない経験や視点が得られますし、参加者からも「役所っぽくなくて興味深い内容だった」という前向きな感想も寄せられていました。また、クライアントからあえて厳しい指摘が注文され、新規採用職員にとっては学生気分が抜け出し、社会人のスタートラインに立つ良いきっかけにもなっていたと思います。
しかし、最近の新規採用職員に対しては、「疑問や困ったことがあっても、周囲に相談できずに抱え込んでしまい、自己完結してしまうことが当たり前になっていて、周囲の人に分からないことや自分の状況を自ら伝えることが若干苦手」という印象を持っていました。新規採用職員を受け入れる所属にとっては、本人の置かれている状況や課題を把握できていないと不安になります。きちんと状況が把握できていれば、的確なアドバイスや指示を出すこともできると感じました。
抽象的なテーマに留まらず、
具体的な行動イメージを学ぶ
―具体的にどのような研修を企画されたのでしょうか。
廣瀬:私たちは「報連相」をテーマに据えました。社会人の基本ですし、実践ですぐに使うイメージをもてます。しかし、「報連相」は大切だといわれているけれど、実際の中身までは示されたことがなかった。自分で中身を学ぶのでなく、組織や社会の仕組みをしっかり理解し具体的なやり方のイメージをもてるように研修をつくりました。
都築:自治体で仕事をしていくには、チームワークや協調性が欠かせません。職場での「報連相」は、普段の仕事のなかで上司に教えてもらったり、コツをつかみながら成長していくために不可欠だとも考えました。
―「報連相」の重要性を感じた理由として、消防本部での廣瀬さんの経験も関係しているのでしょうか。
廣瀬:「報連相」はとても厳しく言われていました。仕事をしていると「予定していたのにできなかった」「上司に報告できなかった」ということがあると思いますが、消防の現場では認められない。例えば、「災害の現場などでも『危険かもしれません』と、ひとこと言えるようになりなさい」と。
ほかの職種と比べて徹底しすぎているところはあるかもしれませんが、人の命が係わっていますし、徹底しすぎて問題になることはありません。バックグラウンドが異なっていたからこそ、既存のやり方に新しい価値観を加えられ、研修の見直しにもつながったのかもしれません。
研修と職場OJTを連動させる
―職場と連動させるために、どのような工夫をされていますか。
廣瀬:「フレッシャーズノート」を活用し、自治体職員として必要な知識や素養を身につけるための課題に取り組んでいます。マンツーマン指導者が確認して、何ができて、何ができていないのかを互いに共有します。ときには課長クラスの上司が見て、コメントを書くこともあります。
都築:私自身も新入職員時代に取り組みました。ふだんは上のクラスの上司と直に関わる機会が少ないのですが、自分にコメントをもらえることが嬉しかった。厳しいことを書かれることもある。でも、あえて言葉にしてもらうことで、できていないことを認識できたり、改善につなげたりと、このノートのおかげでできたことも多くありました。
廣瀬:ウィル・シードさんと協働して、新人研修とマンツーマン指導者研修とフレッシャーズノートがつながるかたちで構成し直し、研修の効果をより高める工夫も凝らしました。
―マンツーマン指導者に共通する自治体ならではの課題もあったのでしょうか。
都築:今年のマンツーマン指導者の傾向として「叱り方がわからない」「強いことを言いにくい」という声が多くありました。
廣瀬:強く言って関係性が壊れてしまうことを懸念しているのだと思います。
もちろん、きちんと言わなければならない場合もあります。ただし、その目的は若手を落ち込ませることでなく、より良く成長していくための気づきを与えること。そう考えると、言い方ひとつで成長の仕方は変わってくるはずです。
―マンツーマン指導者向けの研修ではどのような工夫をされたのですか。
廣瀬:これまで新入職員向けとマンツーマン指導者向けの研修はそれぞれ異なる講師に担当してもらっていましたが、2017年度からは同じ講師にお願いしています。
一般的な指導者論にとどまらず、新入職員導入研修で若手の様子をつかんだ上で、マンツーマン指導者導入研修では「今年の豊田市役所の新人の特徴はこうですから、こうすると良いですよ」など、より具体的なフィードバックがもらえる。マンツーマン指導者側としても講師の話が腑に落ち、指導のイメージがつかみやすくなっていると思います。
都築:研修では、「報連相」を受ける側の立場としてどうなのかにも重きを置いています。特に、最初にシミュレーション演習をやって、1年間どのように関わっていくのかを実感した後、具体的な手法を学んでいくので、「やらなきゃ」「成長させなきゃ」という気持ちを持って取り組んでいただけました。
職場では教える時間がないから「とりあえずこれだけやっといて」ということがよくあります。シミュレーションで身体を動かしたからこそ、簡単な仕事ばかりをやらせると新人は育たないよということに「ハッ」と気づかされる方も多く、目的をとらえながら成長させていくにはどうすればいいのか、研修を通じて気づきとして得ていたと思います。
―フォローアップにも力を入れられています。
都築:新入職員向け・マンツーマン指導者向けのフォローアップ研修の前にアンケートをとって、それぞれの研修に反映しています。例えば、新入職員に「あのとき、こんなことが嬉しかった」など、普段は言えない感謝の気持ちも記入してもらい、指導者本人に伝えるなど。
さらにマンツーマン指導者向けの研修では「どういうことで悩んでいるのか」「それならこういう可能性がある」「こういうやり方はどうでしょう」と、一人ひとりをフォローして具体的な解決に導いてもらいました。個々の不安や悩みにアドバイスをいただけたので、とても心強かったはずです。
自治体ならではの人材育成を目指す
―豊田市として、自治体ならではの人材育成を模索しているように感じました。
廣瀬:自治体の特徴をふまえた内容にしたほうが効果は上がる。その点、今回は、「私たちはこれをやりたいので、上手く研修を考えてください」といったやり方ではなく、企画段階から細かなところまで相談に乗ってもらい、互いに知恵を出し合いながら二人三脚でつくり上げていった感覚があります。
都築:できる限り自治体の事例を入れてもらったり、その特徴を持って話してもらえると、上手く受講生に伝わっていきやすいです。私たち企画側としても「他の自治体ではこうした悩みがありますよ」など、民間企業だけではない、自治体独自の悩みや事例を共有いただけると、とてもありがたいです。
廣瀬:単年で評価がぐっと現れるものではないと思っているので、今後も継続して根気強くやっていく必要はあると思っています。
真に参加者のためになるものは何か。慣習にとらわれたり、変化をおそれたりせず、参加者のことを考え抜いたうえで生まれた豊田市流の人材育成は、実に実践的で具体性に富んでいます。今一度、人材育成の目的を再認識する重要性にも気づかされました。
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