CASE15組織の育成風土づくりのきっかけは
「新入社員OJT」

株式会社アドヴィックスADVICS CO., LTD.

株式会社アドヴィックス

「新入社員OJT」
取り組みの背景

―御社は「新入社員OJT」に特に力を入れていますが、どのような背景があったのでしょうか?

森:弊社の成り立ちが深く関係しています。弊社はアイシン精機、住友電気工業、デンソーのブレーキ部門によるジョイントベンチャーです。2001年の設立当時、弊社での雇用形態は各社からの出向形態であり、社員の評価昇格権限や育成責任は出向元の会社にありました。そのため、業務指導上の育成は行われていたものの、アドヴィックスが成長していくための、会社全体の将来を見据えた人材育成や異動・業務アサインは十分とはいえませんでした。

しばらくはこのような組織運営が続いていましたが、2008年、新卒のプロパー社員が入社し始め、これが転機となりました。加えて、2010年にアイシン精機から刈谷工場を取得し、その後社員の転籍化を進めました。現在では、出向社員はほとんどおらず、9割以上がプロパー社員です。こうした流れの中で、ようやくアドヴィックス内で育成責任を負える環境になり、「教え教えられる」という言葉を通じて社内で会社全体の将来を見据えた人材育成を促進する動きも活発になってきました。

ワークショップ風景
株式会社アドヴィックス 人事部 評価・人材育成グループ
グループリーダー 森亮介 氏

―そこから「新入社員OJT」の取り組みが本格化したのですね。

森:「新入社員OJT」については、私たち人事の立場から見た気づきがきっかけになっています。私は2014年度入社までの新卒採用や新入社員研修に携わってきて、手前味噌ではありますが、本当にみな優秀な人ばかり。しかし、いざ配属先でのOJTが始まってみると、順調に成長する人もいれば、うまくいかずにもがく人もいました。

本人たちに話を聞いてみると、「しっかり教えてもらっています」という人もいれば、「『見て覚えろ』と言われています」という人もいるといったように、部署によってOJTの質にばらつきがあることが見えてきました。

「新入社員OJT」を体系化し、質の向上を図れるように

―そうした状況を打破するために、どのようなことをしたのですか?

森:2015年度から「新入社員OJT」を制度として明文化し、各部署の上司やトレーナーといった指導役を対象とした研修をスタートさせました。「こんな視点で、こういう指導をしてください」など、「新入社員OJT」の認知を広げていったのです。初年度は部長クラスにも実施しました。

―制度の新設から運用に至るまで、かなりのご苦労があったと思います。社内からの反応は、いかがでしたか?

森:実際、社内からはいろいろな意見が上がりました。ただし、やるならば、上司を巻き込まなければならない。技術開発部門のトップ層からも理解を得るために、部長以上が集まるミーティングに出向いて話をさせてもらったり、生産技術部門や生産部門にも足しげく通ったりと、時間をかけながら、少しずつ理解してもらいました。やり方としては、非常にアナログですよね。

―最も注力したことは?

森:「新入社員OJT」の体系化です。社内では業務の特性上、普段から「定型化」「標準化」を図る場面が多々ありますが、これになぞらえるように、OJTの中身を明確にしました。

具体的には、「新入社員OJT」の事前・期間中・事後の各フレームで「どこに視点を置くのか」「面談で何を話し、何をフィードバックするのか」などを明確にしました。

株式会社アドヴィックス 人事部 人材開発課 坂川 慎之助 氏
株式会社アドヴィックス
 人事部 評価・人材育成グループ 
今村早織 氏

―「新入社員OJT」を体系化するにあたり、何を軸に据えていたのですか?

森:弊社は人材育成について、「職場によるOJTが全ての源流」「その中でも自立した個人の高い成長力と上司による人・仕事双方のマネジメント力」という二つの柱を据えていました。Off-JTや人事による教育ではなく、人は職場によって育ち、仕事を通じてこそ成長できるという考え方です。

―実際に「新入社員OJT」が始まってから、見えてきたこともあったのでは。

森:部署によって「新入社員OJT」の充実度にばらつきがあったり、最初はスムーズに進んでいたものの、失速してしまったりと、課題も出てきました。そこで、『OJT通信』というメルマガを発行して「新入社員OJT」への意識付けを継続させたり、座談会やアンケートを実施したりして「今、どうなっているのか?」と、その時々の状況をつぶさに把握し、徐々に改善していきました。

インタビュー風景

各部署の意識が徐々に変化。独自のポリシーが持てるように

―企業によっては、人事が全ての人材教育をリードすることもありますが。

森:弊社では、全社的な教育は人事で、業務に関わるような専門的な教育は各部署でといったように、各部署と人事が意見を交換しながら守備範囲を明確に分けています。先に申し上げた「新入社員OJT」の「定型化」の話に通じますが、「新入社員研修では、人事がここまで教育します」「その先は、職場で育ててあげてください」といったように、スタンスを明示したことで、各部署でやるべきことがより具体化されるようになったと感じています。

人事の立ち位置としては、あくまでもコンサルティングとツールの提供だと考えています。全社にまたがるところは人事で考えますが、「新入社員OJT」を浸透させるには、専門的な育成は職場で考えることが欠かせないのです。逆に「これは職場でやるべきことではない」など、改善点があれば発信してもらっています。こうした意見を交換する会議を年に2回、実施しています。

ワークショップ風景
株式会社アドヴィックス 
人事部 評価・人材育成グループ
人材育成担当係長 櫻井康裕 氏

―人事から一方的に発信するのでなく、実際に育成にあたる人の意見をくみ上げる仕組みが整っているのですね。

櫻井:私たち人事が直接、各職場の生の声を聴くことはかなり大切だと感じています。私は入社してすぐ人事に配属され、全社に渡る部門として、会社のことを考えながら仕事をしていました。その後、工場部門に異動したのですが、そのときに業務で関係する方の声を聴くことの重要性を強く感じました。工場の管理部署の担当者として、人事から展開されてきたことを自分が工場内で対応する立場になったとき、なんてわかりにくいんだ、なんて不親切なんだと思いました。自分は受け手の気持ちや状況を考えて仕事ができていなかったんです。

もう一つ、生産現場のそばに身を置いたことで、さまざまな意見や要望を把握できていなかったことを痛感しました。現場の生の声はなかなか人事まで届きません。だからこそ、今でも現場の声を聴くために工場を訪れます。これは人材育成に限らずですが、生の声を、自分の耳で、自分の足で取りに行くことは欠かせません。まさに「現地現物」ですね。

―各部署のみなさんの意識は、どのように変化していきましたか?

森:「うちの部署の「新入社員OJT」ではこの段階でここまでやる」といったように、各部署がそれぞれの部署で必要なスキル等に合わせた基準を明確に持ち始めてきたように感じています。人事冥利につきます。

―今後、より強化していきたいことは?

森:今後、さらに各職場で「新入社員OJT」に関わる人が増えていけばと思っています。「部全体、職場全体で新人を迎え入れて育成するんだ」と、各々が自走できるようになり、「自分には関係ない」という人を一人も出さない状態が目標です。

象徴的に「新入社員OJT」と言っていますが、ミドル層であれ、マネージャー層であれ、「自分の後進は自分で育てる」という意識が連綿として受け継がれていくことが理想です。これまでの取り組みに対して、ポジティブな声もいただいていますが、まだまだ道半ばだと思っていますし、実際に現場を見てみると、これから改善していくべきことがたくさんあります。人を育てることは、それくらい果てしないことであり、すぐには答えが見つからないと感じています。

社員のみなさんが「アドヴィックスで働いてよかった」と思える会社であるために、これからも人事としていろいろと考えていきたいと思っています。

インタビュー風景

多くの企業がOJTに取り組んでいるものの、このテーマに向き合い続けることは難しいことです。同社では、職場内OJTの重要性を人事から「新入社員OJT」の「定型化」などを通じて発信し続けた結果として、各部署が自らアクションを起こせるような職場の育成風土づくりにつながっていることを改めて感じました。

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