報告会に100名が集う
シリコンバレー派遣研修CASE12

東京急行電鉄株式会社TOKYU CORPORATION

インタビュー風景

国内ビジネス中心でも求められる人材のグローバル化

ー鉄道沿線を基盤に鉄道事業・都市開発事業というビジネスに取り組まれている企業として、どのように人材のグローバル化に取り組まれているのでしょうか。

石橋:日本の私鉄ビジネスモデルは、グローバルに見ればユニークだそうです。事業のグローバル展開を考えた際には、鉄道事業に特化するのではなく街づくりのノウハウを含めたビジネスモデルを提供することが独自の価値であり、昨今ではベトナムなどでまちづくりに取り組んでいます。それでも、私たちの事業基盤は沿線にあり、今後も注力し続けることに変わりはありません。したがって、人材育成におけるグローバル化を考えるにあたっても、海外をフィールドに活躍できるスキルとマインドを有した一部の人材を育成するだけではなく、フィールドに係わらずグローバルな観点で自社や自分を捉え、業務に取り組むようになることが人材のグローバル化であると捉えて施策を展開しています。

二木:2012年度に再構築した人材育成体系におけるテーマの中に「多様かつグローバルな事業展開に対応できる人材の育成」というポイントがあります。シリコンバレー派遣研修については、2013年度にサンフランシスコにて、語学学校に通いつつ各自の課題意識を探求するプログラムへ派遣したことが始まりです。その後、2016年度には現地企業でインターンシップをしながら自主研究に取り組む形に変更しましたが、2017年度からは目的を自主研究1本にしました。

石橋:施策導入の初期に手を挙げる社員は、こちらから発信する情報に対する感度が高くてフットワークが軽い人になります。一方で、まだまだ実業務でグローバル化が身に迫っているとは言えない中、先行して教育をやろうとすると周囲から十分な理解が得られない場合もあり、せっかく意欲をもって参加してもなかなかその次につながりにくい。昨今はかなり状況も変わってきましたが、今でも試行錯誤を繰り返しています。

海外派遣研修としては、他にもOJTを通じたトレーニング(海外トレーニー)があります。2013年度以降、弊社の海外拠点であるベトナムやグループ会社の協力を得てニューヨークに派遣し、2018年度には新たにバンコクのグループ会社にも受け入れてもらうなど徐々に拡大させています。それぞれプログラムの目的を明確にする中で、シリコンバレーへの派遣は自主研究を通じて事業創造・事業改善に寄与する機会と位置づけました。

東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 人事開発部 ダイバーシティ・キャリア開発課 石橋 達也 氏
東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 人事開発部
ダイバーシティ・キャリア開発課 石橋 達也 氏

ー会社のコンディションよりも施策が先行しているというのは興味深い表現です。国内事業が花形の企業では参加希望者集めや周囲の協力を得るのに苦労しているとも聞きます。

石橋:私たちも苦労していることは同じです。もちろん、たくさんの方に応募いただければ嬉しいですが、人数をたくさん集めることが必ずしもゴールではありません。少数であっても意欲の高い社員は応募してくれています。応募という形で興味や関心があることが分かれば次の計画に活かすことができます。その一方で、顕在化しないものは想像するしかありません。どうすれば社員に関心を持ってもらえるのか。応募するための障壁はなにか。魅力的なプログラムを提供するだけでなく、より効果的に訴求するような仕掛けづくりに腐心しています。

例えば、イントラネット上で募集告知をするとともに、募集期間中に説明会を開催することを始めました。過去の派遣者に経験を語ってもらい、より具体的にイメージをもってもらうことで不安を取り除き、チャレンジの後押しになればと考えています。この取り組みを始めた結果、経験者との接点ができると人事を介さなくなくても当人同士のやり取りが生まれ、良い情報循環につながっています。

岩田:それでも、まだグローバル施策自体を知らない人も多くいると思います。認知を高めるために、例えば社内広報と連携をするなどのアイデアも考えています。色々な所で「こういう人が、こういう場所に、これだけの期間行っていました」という話題になり、そこから次の派遣候補者が生まれたらいいなと話しています。

二木:年間の施策を早めに社内公開することも1つです。海外派遣研修は一定期間業務から離れるため、実務との兼ね合いから参加のハードルが高い。目的意識の掘り下げと計画的な業務遂行、上司の理解促進などにつながればと検討時間を長めに取れるようにしました。

石橋:せっかく志願をしてくれたけれど期待に沿えなかった方をフォローアップすることも大切だと考えています。結果をメールするだけでは応募に対する感謝も伝わらず、理由も曖昧なまま。それでは次の応募の動機づけになりません。「今回はこういう理由だが、次があればぜひ応募してください」「応募してくれたことは認識している」と直接伝えています。そうすることで、もう一度手を挙げてくれる人もいます。

インタビュー風景

帰国後の報告会には100名以上が参加

ー2017年度のシリコンバレー派遣研修では、どのような自主研究に取り組んだのでしょうか。

石橋:今回は都市開発部門から3名、ICT部門から1名のメンバーが2名1グループで参加しました。「ホテルオペレーション」「次世代のまちづくり」をテーマに自主研究しました。それぞれエントリーに際して予めテーマを設定してきているので、私たちがテーマ設定に口を出すことはありません。

2017年度は、経営層の海外出張にタイミングを合わせることができたので、4週間の活動のうち最初の1週間を経営者の随行に充てました。残る3週間のうち、冒頭1週間はデザイン思考を用いた現地ワークと各自のインタビューを並行し、残りの2週間は自主活動と報告準備に割きました。

二木:「ホテルオペレーション」のチームは当初から目的意識や研究テーマが具体的だったので、現地のサービスを自分たちの目で見て、実際に利用した経験が大きな学びになったようです。「次世代のまちづくり」のチームは現地の活動を通じて、当初に立てた仮説を覆す結論を持ち帰ってきました。さらには、自発的にもう1テーマを検討する新しいチームが編成され追加研究にも取り組んでいました。全員が非常に意欲的だったと思います。

ー今年の報告会にはかなり多くの方が参加され、社内の注目も高かったと聞きました。

二木:募集をかけたところ定員がすぐに埋まり、最終的に100名くらいが参加しました。参加者はテーマ自体への関心や研修自体への関心が多かったようです。

また、関係するグループ会社の社長をお招きしたところ「こういうテーマであれば関係者を呼びたい」ということで、社長を筆頭に10名程にご参加いただくことができました。派遣者たちが渡航までに関係先へ事前インタビューするなどコミュニケーションをとっていたからこそ、興味を持ってもらえたのだろうと思います。報告会の後、具体的なアクションが始まっており、派遣者からは「実現に向けて頑張りたいと思います」というメールも届きました。

東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 人事開発部 ダイバーシティ・キャリア開発課 二木 亜希子 氏
東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 人事開発部
ダイバーシティ・キャリア開発課  二木 亜希子 氏

もう1つのグループも報告会に同じ思いを抱えていた社員が参加しており、質疑応答で「ぜひ一緒にディスカッションしたい」という声が挙がりました。派遣者は限られた人数ですが、帰国後の報告会等を通じて熱意が他の社員の刺激になり、どんどんと波及していく効果を感じています。

「ペア応募」でリサーチプログラムの質を高める

ー最初から自主研究のテーマが練りこまれている印象も受けました。

二木:今回初めて2人応募を取り入れたところ、志願者は事前にコミュニケーションをとって問題意識や行動計画をすり合わせてきていました。派遣が決まる前から具体的に動くためのコンディションづくりをするという良い効果も得られました。

石橋:グループ応募は、昨年の入山氏の講演(「未来のリーダーに必要な社外での挑戦」)にもあったように「既存知と既存知を掛け合わせる」というところに着想を得ました。日常業務の体制や関係性に縛らず、上下や斜めの関係でチームが組まれて応募してくれたら新しい発想も生まれるかもしれませんし、管理職層などの応募も期待できて面白いかもしれないという期待もしていました。

1つのグループは同期同士ですが、担当する業務は都市開発部門の中で作る側と運営する側です。この2人のビジネスパートナーにホテルオペレーターであるグループ会社がありました。「自分たちの事業や業務を改善します」という提案ではなく、自分たちのカウンターにいる人たちに良い提案ができれば自分たちの仕事もより良くなる、という発想がユニークでした。

もう1グループは都市開発部門とICT部門で担当業務が全く異なるペアです。社内のプライベートな勉強会で知り合って、こういうテーマの調査をしたいということを話し合い、合意したそうです。

派遣したのはいずれも3~5年目の若手社員でした。派遣を決める過程では多少の意見もありましたが、気にせず「とにかくやってみましょう」と動かしました。年次や関係性は問題ではなく、問題意識も熱意・意欲も明らかに高い。ちゃんと「場」を提供すれば自走してくれるポテンシャルがあるわけですから、帰国してから長く会社に還元してくれればいいと判断したのです。その点では、彼らのその後の動きにも注目しています。

ー2017年度はプログラムの冒頭に経営者の出張随行という機会があったことも、その後のプログラムの質を高めることになったと思います。

石橋:もともと、このプログラムを検討するにあたって、現地へ行って最初の1週間の活動をいかに充実させるかが、その後の活動の成否を左右すると考えていました。その点からも、経営層の出張に随行することで活動が充実するだけでなく、経営者の考えに触れるという観点でも非常に有意義な機会になったようです。

二木:この随行には別に選考された6名が参加していました。経営層の出張随行と銘打っていますが、すべて行動を共にするのではなく、インタビューに行く、視察に行くなど自分で設定できました。そのうえで、そのメンバーが毎夜同じ場所に集い、濃い密度で情報共有したことは大きかったです。

石橋:本当に寝る間を惜しんで取り組んでいたようです。随行の参加者は4名よりも上位職が多かったため、経験もネットワークも一段上の存在。派遣者にとって良きメンターであり、またその後インタビューする際の人的ネットワークの紹介者にもなりました。

東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 人事開発部 ダイバーシティ・キャリア開発課 岩田 健太 氏
東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 人事開発部
ダイバーシティ・キャリア開発課 岩田 健太 氏

「どこで何をするか」全て本人が決める海外渡航プログラム

ー今後、さらにプログラム自体を改善し、また新たな仕掛けを検討されると思います。これからの展望を教えてください。

岩田:当社では、2018年度から新たな中期経営計画がスタートしました。これに掲げる“日本一働き続けたい会社”の実現に向けて、「ワークスタイル・イノベーションの進化」に取り組んでいきます。グローバル施策においても、新しい仕組みとして本人たちが何をするか、行くタイミング・行く場所も全て決めて、会社は経済的な支援する、という制度を作ろうとしています。社員からは様々なニーズが出ますが、すべてにぴったりと合うプランを出すのは難しい。問題意識や目的が明確でも、実務ではなかなか海外に行くチャンスが巡ってこない社員、自分の時間とお金を使っても何かに取り組みたいという意欲のある社員に対して、経済面の支援をするので、帰国後の報告・発表を約束して、チャレンジをサポートするものです。

石橋:多様な事業を展開する当社だからこそ社員一人ひとりの問題意識や関心は様々で、人事である私たちがすべてを把握できているとは言えません。新しい制度による支援の結果、短期的には実務に活かしてもらえれば分かりやすくこの上ないのですが、それに限らず中長期的に自身のキャリアに活かす道筋が描けるのであれば良いと考えています。どれほどの反響があるのか楽しみでなりません。今後も、海外トレーニー、自主研究派遣、この新しい制度等、様々な施策を展開する予定です。

インタビュー風景

国内ビジネスを主たる事業領域とする企業においてもグローバル・ビジネスへのマインド醸成が求められています。東急電鉄様がトレーニングのための海外派遣ではなく、事業創造・業務改善のための自主研究を主としながら人材育成に取り組むようになった経緯やその仕掛け方は参考になると感じています。

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