全14回連載
新型コロナウィルスの感染拡大により、未来はどのように変化していくのでしょうか。リアルとリモートが混在する環境でのHRDのあり方を探求していきます。
毎年、会社には、さまざまな育ち方をした若者が、たくさん入社してくる。中には、「すでに出来上がっている」というしかない優秀な者もいるが、しかし、つい最近まで学生だった彼らの多くは、社会人・企業人としての基準に照らせば、その意識や能力は、おおむね「未成熟」な状態にある。
新人育成とは、大雑把にいえば、こうした「未成熟な状態」にある若者(新入社員)を、「人前に出しても大丈夫な状態」「基本的な仕事を任せられる状態」へと持っていくことである。ビジネスパーソンの理想には遠いかも知れないが、とにもかくにも、まずは必要最低限の意識や能力を身につけさせ、自立歩行可能な状態にまで至らせること。それが一般的な新人育成の姿である。
そういうと簡単そうだが、実際には、それすらかなりの難事業である。個性も違えば、育ち方も違い、「未成熟」の内容もレベルも違っている。育成担当者としては、本業も多忙な中で、そうした多様な「未成熟」に向きあうことになる訳で、その大変さは想像に難くない。
それでも、これまで新人育成が何とかなってきたのは、「育てる側と育てられる側が、つねに職場という同じ空間にいて、新人の未成熟が露呈するたびに指導する」という、懇切丁寧な方法が可能だったためである。また、新入社員自身も、周囲の先輩社員の行動を見て学ぶなど、職場という空間に存在する情報をフルに活用することで、自律的に成長することができた。この両輪が機能することで、新人育成という難事業は、何とかなってきたのである。
コロナ禍によるリモートワークの導入は、さまざまな影響を企業にもたらしたが、新人育成の現場に与えた影響は、その中でも最大級のものであったといえる。上記のように、職場という空間は、長きにわたって、新人育成に不可欠な装置だったからである。
相手が同じ空間にいない以上、育てる側は、「新人の未成熟が露呈するたびに指導する」という従来型の方式を、ほぼ断念するしかない。また新入社員は、周囲の先輩の行動を見て学ぶという、きわめてシンプルかつ効果的な「学びの方法」を、諦めざるを得ない。これまで、当たり前だと思ってきた「育成のかたち」は、ここで完全崩壊することになったのである。
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