全14回連載
新型コロナウィルスの感染拡大により、未来はどのように変化していくのでしょうか。リアルとリモートが混在する環境でのHRDのあり方を探求していきます。
ここからは、「場の情報性の消失」が予期される中で、「長期的な人材育成とリモート化の両立」をいかに図るか、その方策を考えることになるが、今回は、その前工程として、そもそもリモートワーカーとして働く人材には、どのような能力が必要となるかを考えてみたい。育てるべき能力も分からずに、「両立可能」であるか否かを議論しても不毛だからだ。
ジョブ型雇用になれば話は違ってくるのだろうが、あくまで日本型の「長期的な人材育成」を前提にする以上、「育てるべき能力」は、これまでと大きくは変わらない。
基本となるのは、日本流のジェネラリスト志向が重視する「汎用的な能力」である。コミュニケーション能力を中心とする対人スキル、問題解決力などの思考スキルなどがその代表となる。とはいえ、短期成果もやはり大切なので、個々の職務で成果を出すために必要な「専門能力」や、「コンピテンシー(高い業績につながる行動特性)」の強化も、当然ながら必要となる。リモートワークというと、特別な能力が必要であるかのように思われがちだが、実のところそのようなものはない(あるとすればITリテラシー程度である)。結局のところ、仕事の成果を生み出すのは人間であり、働く場所が変わる程度で、能力要件が大きく変わったりはしないのである。
とはいえ、リモートという環境の特殊性を考慮したとき、「この能力が低いと高い成果を継続的に出すことは難しい」と思われる能力群は確かに存在する。会社や育成担当者としては、これらを「リモート環境下での必須能力」に位置づけ、重点的に育成を進める必要があるだろう。
必須能力としては、たとえば「自己管理力」が挙げられる。人は自分に甘い生き物であり、他人の目が届かないところでは、無意識のうちに手を抜いてしまいがちである。自分はベストを尽くしているかをつねに自分に問い、必要に応じて行動を修正する。そうした「厳しく自己を律する姿勢と能力」が、リモートワーカーには不可欠となる。
また、文章表現力を含めた「伝達力」も非常に重要である。職場の中にいれば、「場の情報性」がコミュニケーションの負荷を下げてくれるので、高度な伝達力を持たずとも、それなりに意志疎通はできる。しかし、その前提が崩れたとき、伝達力が低いと、意思疎通はうまく行かず、仕事に大きな支障が生じる可能性が高い。企業人として、致命的になりかねない問題なのである。
こうした必須能力を筆頭とする多様な能力群を、「場の情報性」が失われた中でも高めていけること。それが「長期的な人材育成とリモート化」の両立イメージとなる。では、誰がその「両立」を実現するのか。そのキープレイヤーは、育成担当者(従来のOJTトレーナーなどがこれに相当する)と会社(HRD部門)であろう。彼らが、どのような存在であれば、両立は実現できるのか。次回以降、このテーマについて考察を進めていく。
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